アスリートの持久力をブーストさせる腸内細菌とは?
by AYAimages
近年の研究により腸内細菌は人の食べ物の好みや気分に重要な影響を与えていることが分かってきており、その様子から「腸は第2の脳である」といわれることもあります。さらに最近の研究により、人をアスリートにする腸内細菌が存在する可能性があることが突き止められました。
Meta-omics analysis of elite athletes identifies a performance-enhancing microbe that functions via lactate metabolism | Nature Medicine
https://www.nature.com/articles/s41591-019-0485-4
Performance-enhancing bacteria found in the microbiomes of elite athletes: Introducing this bacteria to sedentary individuals improves exercise capacity -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2019/06/190624111441.htm
How This Gut Bacteria May Give Elite Athletes an Edge
https://www.livescience.com/65780-athletes-gut-bacteria-boost-performance.html
アスリートの便の中から人の持久力を改善する可能性があるバクテリアを発見したのは、ジョスリン糖尿病センターに勤めるアレクサンドル・コスティック氏らの研究グループです。研究グループが長距離ランナーの便と運動不足な人の便を比較したところ、持久走を終えた直後の長距離ランナーの腸内にはVeillonella属の「Veillonella atypica」というバクテリアが際立って多いことを発見しました。
以下の画像は、Veillonella属バクテリアの顕微鏡写真です。
by CDC/ Gilda Jones
次に研究グループは、長距離ランナーの便から単離されたVeillonella atypicaを腸内に定着させたマウスと普通のマウス、どちらが持久力に優れるかを比較する実験を行いました。その結果、Veillonella atypicaの接種を受けたマウスはそうでないマウスに比べて、13%も長く走り続けることができたとのことです。
Veillonella atypicaは乳酸をほぼ唯一のエネルギー源としているバクテリアです。乳酸は筋肉の運動により発生する物質ですが、研究グループはVeillonella atypicaが乳酸を除去することよりも、Veillonella atypicaが乳酸を代謝して生産するプロピオン酸塩という物質が鍵だと見ています。というのも、プロピオン酸塩をマウスの腸に直接注入したところ、やはりマウスの持久力がアップする効果が確認されたためです。
by Jim, the Photographer
この一連の実験結果から、研究グループは長距離ランナーとVeillonella atypicaはある種の共生関係にあるのではないかとの仮説を立てました。その仮説とは、「長距離ランナーの血中に発生した大量の乳酸が腸に運ばれてVeillonella atypicaが繁殖し、Veillonella atypicaが生産したプロピオン酸塩がランナーのパフォーマンスをアップさせる」というものです。
プロピオン酸塩が長距離ランナーの持久力をブーストさせるメカニズムはまだよく分かっていません。研究グループの推測によると、「プロピオン酸塩が腸壁から吸収され、エネルギーとして活用されている」ことや「プロピオン酸塩の消炎作用が筋肉の疲労を抑えている」可能性が考えられるとのこと。
では、プロピオン酸塩を摂取すればアスリートになれるのかというと、そう単純でもなさそうです。というのも、プロピオン酸塩は胃酸などの消化液で分解されやすいため、カプセルなどに入れて摂取することが難しいためです。
それでもコスティック氏は「Veillonella atypicaを活用したプロバイオティクスにより腸内細菌叢を改善させることで、2型糖尿病や心疾患患者の運動能力を向上させることが期待できます」と話し、腸内細菌の研究が生活習慣病の治療を進展させるとの期待を寄せていました。
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