アスリートはバレにくい不正行為として「遺伝子ドーピング」を行うようになるかもしれない
by Goh Rhy Yan
ツール・ド・フランスを7連覇したロードレース選手のランス・アームストロングや、オリンピックの金メダリストである陸上選手のベン・ジョンソンなど、スポーツにおける名選手がドーピングなどの不正行為により過去の名声を地に落とすというケースがしばしばあります。これまでは使用禁止薬物(パフォーマンス向上薬)の使用が問題になってきたわけですが、近い将来、より検知が困難な不正行為が実行されることとなるかもしれない、とFuturismが指摘しています。
The Next Revolution of Sports Cheating: Rewriting Athletes' Genetic Codes
https://futurism.com/sports-cheating-gene-doping/
「CRISPR」などの遺伝子(ゲノム)編集技術や、従来の遺伝子組み換え技術を用い、より優れたパフォーマンスを発揮できるスポーツ選手を作り出すことが「理論上可能」だと科学者は主張しています。この方法は、生まれながらの遺伝子コードを改変して不正に能力の向上を計るという点から、「遺伝子ドーピング」と呼ばれています。
by JOSHUA COLEMAN
「遺伝子ドーピング」の具体的な例としては、体に赤血球の増加効果を持つ「エリストポエチン」の生成を奨励する遺伝子を加えることなどが挙げられています。エリストポエチンが増えれば血中の赤血球が増加し、酸素を多く運ぶことが可能になるため、スポーツ選手のパフォーマンス向上につながるわけです。実際、エリスロポエチンを用いた薬物によるドーピングも存在しており、元ロードレース選手のランス・アームストロングが使用した禁止薬物にもエリスロポエチンが含まれていたと言われています。
体に注入されたエリスロポエチンを検出することは比較的簡単ですが、もしも体がエリスロポエチンを生成しやすいものに改造されているとすればどうでしょうか。遺伝子組み換え技術などによりエリスロポエチンを生成しやすい体に変えられていたとして、これを検出することは禁止薬物でエリスロポエチンを摂取しているケースよりもはるかに困難なものとなります。ただし、「元の遺伝子情報」を知っていれば「遺伝子組み換えが行われているかどうかを判別することは可能だろう」と、世界アンチ・ドーピング機関(WADA)の上級エグゼクティブであるオリビエ・ラビン氏は語っています。
by Georgie Cobbs
さらに、遺伝子組み換えよりも高度なゲノム編集を用いるというケースも考えられます。遺伝子組み換えと異なり、ゲノム編集は生物が既に持っている遺伝子情報を文字どおり「編集」するという技術です。よって、遺伝子組み換えよりもさらに検出が難しくなる可能性があります。
そのため、WADAはすべてのオリンピック競技者に遺伝子コードの提出を求めているとも報じられています。「遺伝子コードの提出を求める」というのはプライバシー面からみるとグレーな領域であり、オリンピック出場選手の一部が未成年であることを踏まえると、より難しい問題であることは明らかです。加えて、スポーツ選手がゲノム編集を行えるようになる前にすべてのスポーツ選手の遺伝子コードを集めなければいけないわけなので、どれだけ難しいことであるかは想像もつかないレベル。
なお、既にゲノム編集を人間に応用するケースも登場しています。
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また、研究者は遺伝子ドーピングに関する倫理的問題や健康リスクについて、アスリートに教育することも提案しています。ただし、過去のドーピングの事例から「アスリートが自身に何かしらのリスクがあっても構わずドーピングを行う」ことは明らかであり、栄光をつかむために未来を犠牲にする可能性がゼロになることはありません。そして、現代のスポーツ界は「ドーピングを効果的に止める術を持っていない」とFuturismは指摘しており、将来的な遺伝子ドーピングの登場を予見しています。
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