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遺伝子編集技術「CRISPR」とは何かがわかるムービー、そして人類の未来はどうなるのか?


生命の「設計図」が収められている遺伝子の研究が進むことで、人類はその設計図を自由に操作できるようになりました。生命を思いのままに操ることができる、いわゆる「神の手」を得たことでこれからの人類の社会はどのような道をたどることになるのか、そんなことを考えさせられるムービー「Genetic Engineering Will Change Everything Forever – CRISPR (遺伝子工学が全てを永遠に変える‐CRISPR)」が公開されています。

Genetic Engineering Will Change Everything Forever – CRISPR - YouTube


このムービーは、世の中の多くの話題をムービーで解説するKurzgesagt – In a Nutshellが作成したものです。ドイツ語で「ごく簡単に言えば」という意味の「Kurzgesagt (英語でIn a Nutshell)」という名前のサイトでは、多くの解説ムービーが作成されており、このムービーもその一つとなっています。

もし1980年代に、「コンピューターが全てに使われることになる」と言われたらどうでしょう?


世界中の人が「クモの巣(Web)」のようなものでつながり……


手のひらに収まるほどの機器に、スーパーコンピューター並みの性能が搭載されるとしたら?


1980年代には突拍子もない話のように聞こえたであろう考えですが、これらは全て現実となっています。SF小説のような世界が到来し、さらに人々はそのことを当たり前に捉えて、少しも気にしないようになりました。


そして今、私たちは遺伝子工学の分野で同じような時代を迎えようとしています。


ここでは、これまでの経緯、いま何が起きているのか、そして近年に起こったブレイクスルーで世界がどのように変わり、今後は何が「常識」となっていくのかについてお話ししましょう。


……という風に始まるムービーでは、人類と遺伝子の関わりを「1.遺伝子組み換え」「2.地球で最も古い戦争」「3.病気はなくなる?」「4.デザイナーベイビー」「5.批判的な観点から」「6.結論」という6つの章に分けて解説しています。

「1.遺伝子組み換え」


数千年にわたって、人類は遺伝子のエンジニアリングを行ってきました。よりすぐれた種を選別し、その特長を強化してきたのも「遺伝子工学」の1つといえるかもしれません。


しかし、その仕組みが真に理解されたのは、「DNA」の仕組みが理解された時でした。


DNAは4つの基本単位から成り、これらが生命の情報を保持し、成長や生存における「指示」を与えています。


1960年代には植物に放射能を浴びせることで遺伝子に変異を起こさせ、優れた種を作るという試みが行われました。


70年代には、遺伝子の一部を組み替えて薬や農業に応用できないかという研究が行われました。


1974年には、遺伝子を組み換えたマウスが生まれ、医学の発展に役立てられることになりました。


そして1980年代になると、「石油を食べる微生物」の製法で初めての特許が取得されています。


現在では多くの化学物質が、遺伝子組み換え生物から作られています。


1994年には、世界で初となる遺伝子組み換え食品、「Flavr Savr Tomato (新鮮な風味が長持ちするトマト)」が発売されました。


このトマトには、腐敗を押さえる遺伝子が組み込まれていました。


1990年代になると、人間への応用が始まります。


不妊治療の一環で遺伝子を使った治療が行われ、3人の遺伝子から1人の子どもが産まれています。


世界で初めて「3人の遺伝上の親を持つ人間」の誕生です。


このほか、筋肉質のブタや成長が速いサケ、羽根を持たないニワトリや、透明なカエルなどが遺伝子組み換えによって誕生しています。


以前は、遺伝子組み換え技術は非常にお金のかかるものでした。


しかし、その欠点も「CRISPR (クリスパー)」と呼ばれるDNAに含まれる反復クラスターを応用するゲノム編集技術「CRISPR/Cas9」の登場によって大きく改善されました。


CRISPR/Cas9の登場で、ゲノム編集に必要な費用は99%も削減され、必要な時間も1年単位から数週間レベルにまで短縮。これにより、ゲノム編集が世界中の研究室で行えるレベルになったという、革命的な出来事でした。


とは言っても、その凄さがピンとこない場合も多いかもしれません。しかし、この技術は人類の在り方を永遠に変えてしまう可能性すらあるのです。


「2.地球で最も古い戦争」


人類が誕生するはるか前から、細菌(バクテリア)とウイルスは熾烈な戦いを繰り広げてきました。


細菌に感染するウイルス「バクテリオファージ」は、自らの遺伝子を細菌に注入することで、細胞を乗っ取る性格を持っています。


これに対し、細菌はある程度の防御メカニズムを持っていますが、多くの場合は抵抗できずに死に至ります。その中でも生き残るものがあるのですが、それらは「反ウイルスシステム」を持っているためです。


反ウイルスシステムを持つ細菌は、ウイルスのDNAを自身のCRISPRの中に保存し、次に必要になる時まで安全に保管します。これが「DNA保管庫」になります。


そして次にウイルスに攻撃された際には、DNA保管庫からウイルスのRNAをコピーして「Cas9」と呼ばれるタンパク質の「秘密兵器」に渡します。


Cas9の中では、保管していたDNAと侵入してきたウイルスのDNAを比較し、危険な存在かどうかを判断。そして配列が100%一致した場合には……


そのウイルスのDNAを切断して、攻撃能力を奪ってしまいます。


Cas9の優れているのは、その仕事っぷりが極めて正確なこと。そして、この仕組みを遺伝子組み換え技術に応用できると科学者が発見したことが、大きな進歩につながることになりました。


Cas9の働きを利用すると、移植したいDNAを細胞に与えるだけで正確に対象となる細胞のDNAを置き換えることが可能になります。


それまでの技術が、紙に書かれた「地図」だとしたら……


CRISPR/Cas9は衛星を使った「GPSシステム」と呼べるほど、正確な技術といえます。


これにより、細菌、植物、動物、人間に関わらず、どんな細胞でも細胞を操作して研究を行うことが可能になりました。


CRISPR/Cas9も非常に革命的な技術でしたが、これとていわゆる「第1世代」の技術とのこと。その後も技術の改良は進められ、さらに正確な道具が開発されているそうです。


「3.病気はなくなる?」


2015年、CRISPRを使ってHIVウイルスの除去を試してみると、うまく機能することが判明。


次に、全細胞がHIVに感染したマウスを使って実験を行うと、CRISPRを注射するだけで50%以上のウイルスの除去に成功したとのこと。


これを使えば、HIVはもちろんのこと……


人の体内に潜むヘルペスなどのウイルスを撲滅することも可能になるようです。


また、CRISPRは人類最大の敵「ガン」にも効果が期待できるとのこと。


ガンは細胞そのものが「死ぬこと」を拒んで体内に潜伏しているものなのですが、免疫細胞を強化することでガン細胞の発見が容易になります。


もしこの技術が確立されると、将来のガン治療は自分の細胞を強化し、それを体内に戻すだけというものになる可能性すらあります。すでにこの治療法は、アメリカや中国で研究が進められているとのこと。


現在、遺伝子の不具合で生じる病気は3000種類あるといわれていますが、不具合のある部分だけを「治療」することにより、病気そのものがこの世からなくなる可能性すらあるというのです。


しかし、実際の運用にはさまざまな問題が残されているのも事実。この点は今後の研究課題といえそうです。


CRISPR/Cas9の用途はこれ以外にも。「遺伝子組み換え人間」の誕生という、さまざまな面で論議を巻き起こすトピックが存在しています。


「4.デザイナーベイビー」


人間の胚を編集する技術はすでに存在しており、2015年と2016年には中国で初期的な実験が行われ、世界中で大きな議論の的になりました。現段階ではまだまだ多くの問題が存在していることも明らかになりましたが、賛否両論を巻き起こしながらこの技術の研究は進歩するものと考えられています。


1970年代にはコンピューターがこれほどまでに普及するとは思われていなかったように、近い将来には遺伝子編集技術が一般的になる可能性がないわけではありません。ただし、ここには倫理的な問題が避けられないため、どのような情勢変化が起こるのは極めて興味深いところ。


遺伝子組み替えによって誕生した人類の遺伝子は……


世代にわたって引き継がれて行き、いずれは社会の多くを占めるに至る可能性があります。


その初期段階では、ゲノム編集による治療は、遺伝性の病気を治療するために用いられることになるかもしれません。


しかし、時代が移り変わり、人々の意識が変化すると、「遺伝子を組み替えない方が非倫理的」と考えられる時代が訪れないとも限りません。


ひょっとしたら、「子どもの苦しみを取り除かないこと」が、「『神の領域』である遺伝子に手を加えること」よりも倫理的に問題があると考えられる日が来るかもしれない、というのです。


ひとたびドアが開けられると、もう後戻りすることはできません。


「アルツハイマーは予防するのに、メタボリックシンドロームは予防しないのか?」といった考え方や……


「完璧な視力」「高い身長」「筋肉質な体」「ずっとフサフサの頭髪」「高い知性」が可能になるとしたら、人々はどのような判断を下すのでしょうか。


この変化が次々に起こることで、現在では難しいとされている倫理的な問題が、当たり前として受け入れられる時代が到来するかもしれないというわけです。


さらに、全ての人が避けては通れない「老い」の問題が解決される日が来る可能性もあります。


世界で亡くなる人のうち、3分の2は老いを原因として亡くなっています。これは、老化によって蓄積される細胞の損傷がもとで、細胞の修正力が弱まることで起こるものです。


これはすなわち遺伝子の働きと大きく関連しているものであるため、遺伝子治療技術が発達すると、人間から「老い」がなくなる日が訪れるかもしれないというのです。


世界には、脱皮と一緒に内臓も全て新しくなることで「不老不死の生き物と呼ばれているロブスターやベニクラゲなどの生き物が存在しています。それらの生物から遺伝子を拝借することで、人間にも不老不死の力を与えることが可能になると考える科学者も存在しています。


この問題に関しては、まだまだこれから取り組むべき課題が山積されているといえ、実現できないという見方も存在しています。


人間の体に、より優れた免疫系を持たせることで、今ある多くの病気を克服することも可能になるかもしれません。


さらに、地球を離れて宇宙で暮らすことができる「人類」や、水中や空で生きることができる「人類」などが実現する日が来るかもしれません。


「5.批判的な観点から」


しかし、この技術にはまだまだ技術的、倫理的な課題が多く残されています。


遺伝子に不具合があり、不完全とされる人間が排除される「新世界」が訪れることを危惧する人も少なくありません。


しかし、その流れはすでに世の中に取り入れられています。


遺伝子に不具合があることで起こる「ダウン症」を妊娠中に診断することで、ヨーロッパでは妊婦の92%が赤ちゃんを諦めているという事実が存在しています。


妊娠中絶は極めて個人的なものなのでその善悪を問うことはできませんが、これが医学的な条件で「事前の選別」を行うことである、という事実であることを認識することは重要です。


この傾向が進み、人間の選択肢が増えるとすれば、さらに注意深く、尊重を大事にする考えが重要になってくるでしょう。


しかし、その段階に達するにはまだまだ時間がかかるかも。CRISPRは強力なツールではありますが、まだ遺伝子の組み換えがどのような作用を及ぼすのか、その全容は明らかにされていません。


我々が現在知っていることも実は「氷山の一角」であり、実際のほんのごく一部であるかもしれないのです。


また、この技術が「悪用」される可能性も存在しています。


仮に、国家レベルで意図的にゲノム編集を「悪用」する国が出てきたらどうなるでしょう。


1人の指導者が国民に遺伝子改変を強制するとしたら、どのようなことになるのでしょうか。


遺伝子を組み換えた屈強な「スーパーソルジャー」が国と指導者を守るという、SF小説のような世界が近い将来に到来しても、それは決して不思議なことではないレベルに達しているのです。


しかし、だからといってこのような技術を禁止してしまうというのは間違いである、とする見方もあります。


危険を含む技術であっても、研究を進めることで安全かつ健全で、透明性の高いものになるというのが、科学的な見地の1つというわけです。


「6.結論」


これらの技術が実用化されるとしたら、私たちの一部は存在を許されない社会が到来するのでしょうか。


技術そのものは恐ろしさを含んだものですが、そこからは得られるものも存在しているのかもしれません。


もしかしたら、遺伝子工学は人間の新しい「進化」の1つということになるのかも。


無限の寿命を手に入れ、地球を飛び出して新しい世界に飛び出していくとすれば、それは1つの「進化」と呼べるものなのかもしれません。


ただひとついえる事実は、未来は間違いなくやって来ます。そしてそこには、現在の社会では思いもよらなかった新しい「常識」が存在しているかもしれません。


それがどのような社会になるのかはわかりませんが、技術によって可能性と挑戦が多い「現実」が訪れる可能性もあるというわけです。


非常に考えさせられることが多い、問いかけの多いムービーとなっていました。全編は16分という長いムービーですが、YouTubeでは日本語字幕が付けられているので、自分の目で確かめて考えてもらうのも良いかもしれません。

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in サイエンス,   生き物,   動画, Posted by darkhorse_log

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