サイエンス

「あなた」の境界線はどこなのか?という永遠の謎を解説したムービー「What Are You?」

By Shannon Kringen

SF映画を見ていると「脳以外の全ての体のパーツを機械化して恒久的な命を手に入れる」といったアイデアが登場します。もともと体を構成していたはずのほぼ全てのパーツを付け替えても、それは「もとの本人と同じ存在なのか?」という謎について、イラスト付きで解説したムービー「What Are You?」が公開されています。思わず「自分」とは何なのか、と考えさせられる内容になっています。

What Are You? - YouTube


鏡に映る「あなた」とは一体何なのでしょうか


体には骨格・内蔵・脳などが備わっていますが、SF映画のように体のパーツを付け替えていったら、どこからあなたではなくなるのでしょうか。


物理的な存在として見ると、あなたは天の川銀河の星の10倍以上の数を持つ細胞の集合体です。


細胞自体も生きており、1つあたり5万以上のたんぱく質で構成されています。しかし、個々の細胞に意識や目的はなく、ただ存在しているだけ。


細胞は周囲の環境を映したり、血液を輸送したり、食べ物を集めたりするための巨大な組織を作り出します。


もし細胞の一部を体から取り出しても、細胞はしばらく生きています。


従ってあなたがいなくても細胞は生きることができますが、もしあなたから全ての細胞を取り去ってしまうと、「あなた」は存在することができません。それでは「山盛りの細胞」と「あなた」の境界線はどこなのでしょうか。


例えば、誰かに臓器提供を行なうと、数十億ものあなたの細胞の塊が他人の体内で生き続けることになります。それはあなたの一部が誰かの一部になったのか、それともあなたの一部のままなのでしょうか?


こんな実験を想像してみましょう。あなたは特殊な機械で誰かと細胞を直接交換しています。


お互いの細胞を1つずつ交換していくと、1回ごとに細胞が入れ替わっていくことになります。実験をしばらく続けると、あるポイントで誰かは「あなた」になり、意識まで入れ替わるのでしょうか。


人間の概念とは不安定なもので、人間の細胞は常に死に続けています。このムービーを2分間見た時点のあなたの体内では、2億5000万個以上の細胞が死んでいます。秒速数百万個のスピードです。


人間の細胞は7年周期でほぼ全てが入れ替わります。


つまり、時間が経過するごとにあなたは少し前の自分とは異なる存在になっているとも言えます。


もしケガや病気なく老後を迎えることができたなら、それまでに細胞は1京個も入れ替わることになります。


「あなた」という存在は、実際には写真のようなものでしかありません。


細胞は常に死んでいくのですが、中には正常な機能を失って死なない細胞が生まれることがあります。それが「がん」であり、自然の摂理を破る不滅の存在です。


がんは外からやってくるのではなく、あなた自身の細胞が変異したもの。


ナチュラルキラー細胞ががんを攻撃することがありますが、がんは死にゆく細胞が「もっと生きていたい」と思っただけなのかもしれません。


がん細胞で有名な話ではヘンリエッタという女性が知られています。


彼女は1951年に亡くなりましたが、手術の際に切除されたがん細胞は死を迎えることなく……


培養が続けられ、数多くの研究に役立てられることになり、数多くの命を救いました。ヘンリエッタの細胞は今でも生きており、全部で20トンもの細胞が増殖されています。


「ヘンリエッタ」という存在が死んでしまった後も細胞は生き続けているのですが、それは「何百人ものヘンリエッタ」になるのでしょうか。


あなたを形作る細胞の1つ1つには、設計図が書かれたDNAが収められています。近年まで全ての細胞は同じ設計図に基づいて作られていると考えられていましたが、それは間違いです。


遺伝子は流動的で変異や環境の影響を受けて変化していきます。


脳が特に良い例で、最新の研究では脳内のニューロンが持つ遺伝子コードは1000以上の変異を持つことがわかっています。もともと設計図にはなかった変化が起きているのですが、「あなた」はどれくらいDNAの設計図に基づいて作られているのでしょうか。


実のところ、人間のDNAの8%は人間の祖先が感染したウイルスのDNAです。


ミトコンドリアは細胞の発電所となる存在ですが、はるか昔に祖先の細胞にミトコンドリアが感染してから……


現代に至るまでミトコンドリアは自身のDNAを保持しています。このように人間固有ではないものが細胞1つあたりに100個ほど含まれていますが、それもあなたの一部となっています。


どんどん話が複雑になっていきますが、まとめると人間は数兆個の極小の細胞で構成されていて、絶え間なく変化しています。集まった細胞は一定ではなく、常に死と生を繰り返しているため……


実際にところ、「あなた」という明確な境界線は存在せず、あるのはただ「自分」という曖昧なパターンを指すのかもしれません。


このパターンが始まったのは、原始時代なのか、地球に生命が誕生した時か、はたまた星の中で元素が作られた時なのかはわかっていません。


人間の脳は明確に違いを識別するように進化しました。


一方で、現実の曖昧な境界を把握するのは難しいとされています。


もしかしたら、「あなたと私」、「生と死」といった絶対的な境界線は存在せず、「あなた」を定義する未解明のパターンが宇宙のどこかに隠されているのかもしれません。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
ハリウッド実写映画版「攻殻機動隊」で草薙素子はどのような感じになるのかがついに明らかに - GIGAZINE

「攻殻機動隊 新劇場版」独占公開場面カットを交えつつどんな物語か簡単にまとめ - GIGAZINE

人間の意識を他人の肉体に移し替えることはできるのか? - GIGAZINE

男性と女性の肉体が入れ替わると一体どのような感覚なのかを仮想体験できる「Gender Swap」 - GIGAZINE

これまでの生と死の境界を変える蘇生方法は「人の身体を低温にする」こと - GIGAZINE

in サイエンス,   動画, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.