サイエンス

一流のスポーツ選手が非科学的な代替医療にハマりやすいのはなぜか?


一流のアスリートは科学的なアプローチでトレーニングを行いますが、中には科学的根拠に乏しい代替医療を受けている選手も存在します。科学的に有効性が裏付けられていないにもかかわらず、なぜ一流のアスリートが代替医療を信じてしまうのかについて、カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部運動生理学・呼吸器内科のリサーチフェローであるニコラス・B・テイラー氏が解説しています。

Olympic athletes excel at their sports but are susceptible to unproven alternative therapies
https://theconversation.com/olympic-athletes-excel-at-their-sports-but-are-susceptible-to-unproven-alternative-therapies-165377


競泳のオーストラリア代表であるカイル・チャルマーズ選手は、2021年に開催された東京2020オリンピックの男子100m自由形で銀メダルを取得しました。自己ベストを更新してのメダル獲得はオーストラリアを大きく湧かせましたが、同時に「背中や足に無数にある赤く丸い跡」がテレビに映り、話題となりました。

チャルマーズ氏の体に刻まれたの丸い跡は「カッピング」の跡でした。カッピングとは、小さなガラス製のカップをケガした箇所や痛みのある部位に置き、カップ内部の空気を抜くことで肉を吸い込ませるという民間療法で、「体内のエネルギーの流れを刺激し、体内に停滞した血液や毒素を取り除くことができる」とうたわれています。しかし、カッピングの有効性は痛みを和らげることはあっても、ケガの回復を早めたり毒素を取り除いたりするという効果は認められないという研究が発表されています。

実際にカッピングを受けるチャルマーズ選手


また、ドイツのビーチバレー代表だったカトリン・ホルトヴィック選手も、2012年のロンドン五輪であまりにも珍妙なテーピングをしていたことで話題となりました。このテーピングは「Large Fan Spider」というもので、「筋肉に負担をかけ、ケガの回復を早める効果がある」と主張されていますが、もちろんテーピングにそういった効用があることは科学的に一切証明されていません。


テイラー氏は、すべての代替医療は「科学的に証明されていないにもかかわらず、科学のようなふりをする」という点で疑似科学であると断言しています。しかし、代替医療は有効性がほぼないことが科学的に示されているにもかかわらず、一流アスリートの間では代替医療を信奉する者は多く存在しています。


テイラー氏は「人間はヒューリスティックという名の『精神的な近道』を選ぶように進化してきました」と述べています。ヒューリスティックとは理論的ではなく、経験や直感に基づいて正解に近い方法のこと。代替療法の提唱者は、ヒューリスティックを利用して、比較的少ない投資で大きな報酬を得ようとします。

そして、スポーツ選手は1%でも高いトレーニング効果を常に求めているため、代替医療の過大なうたい文句の影響を受けやすいと言えます。例えば2000年に行われた実験で、自転車レースの選手に「ブドウ糖のサプリメント入り飲料です」と称して、香料を入れただけの水を飲ませたところ、対照群と比較してパフォーマンスが4%向上したと報告されています。金メダルと銀メダルの差がわずか0.5秒未満で決まるようなオリンピックの世界では、プラセボ効果がパフォーマンスを左右することはあり得ます。ここに代替医療がつけこんでいるといえます。

また、「ここ10年、世界中で反科学運動が活発化し、科学者への攻撃も前例のないレベルに達しています。従来の科学への不満や不信感、社会的規範への反発、あるいはその両方が原因で代替療法に頼る人もいるでしょう」とテイラー氏は指摘し、代替療法に科学的根拠がないからこそ人を引き寄せるのかもしれないと述べています。

さらにテイラー氏は、代替医療の提唱者にはスポーツ選手のスポンサーという側面があると指摘。有名になったアスリートはSNSのフォロワーが増えるので、インフルエンサーとしても期待できます。企業はアスリートのスポンサーになることで、製品に成功・フィットネス・美のイメージをつけることができます。

また、多くの選手はスポーツをしながら普通の仕事に就いていますが、中には収入の大部分を広告への出演料でまかなっている人もいます。例えば、アメリカのスポーツ選手はオリンピックでメダルを取ると1万5000ドル(約160万円)から3万7500ドル(約410万円)の賞金をもらうだけであり、イギリスの選手になると賞金をまったくもらえません。たとえ科学的に根拠のない代替医療であっても、スポーツ選手が生きていくために広告塔になっているのが現状です。


テイラー氏は「一流アスリートがプラセボ効果でもパフォーマンス向上を求めて代替医療を追求するのは理解できます」と述べながらも、代替療法の一部には明らかにリスクがあると指摘しています。たとえばカッピングには皮膚のやけどという副作用が報告されており、カイロプラクティック鍼(はり)治療にも重傷を負うケースが報告されています。

もちろん西洋医学で科学的に確立された療法にも副作用というリスクは存在します。しかし、医師は治療による恩恵とリスクを天秤にかけた上で治療法として選択するかどうかを決定します。代替医療の利点がプラセボにとどまってしまう場合、ケガや副作用でトレーニング時間が無駄になることを考えると、潜在的なリスクを正当化するのは難しい、とテイラー氏。

「代替療法は現代医学に取って代わるものではなく、軽い病気やスポーツのパフォーマンスに限定するという明確な線引きが必要です。疑似科学は、科学的根拠に基づく実践と、科学教育やリテラシーの両方にとって大きな障害となります。だからこそ、代替医療はスポーツにおいても潜在的な重荷となっており、スポーツに限らず、社会のあらゆる場面で人々が科学と疑似科学を見分けるための教育プログラムが必要です」とテイラー氏は述べました。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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