サイエンス

長きにわたり極秘とされてきたロールシャッハ・テストの「奇妙なインクのしみ」がどのように印刷されているのかの一端が明らかに


インクのしみから連想するものを分析することで、被験者の性格を分析するというテストが「ロールシャッハ・テスト」です。このロールシャッハ・テストで利用される「インクのしみがついたカードがどのように印刷されているのか?」という謎の一端が明らかになっています。

Detail and Whole; Movement, Colour, and Form (2023) - Jeremy Millar
https://jeremymillar.org/Detail-and-Whole-Movement-Colour-and-Form-2023

ロールシャッハ・テストは、被験者にインクのしみを見せて「何を連想したか」を述べてもらい、その回答内容を分析することで被験者の性格を推定したり、精神障害の有無を判別したりすることができるというテストです。ロールシャッハ・テストの詳細は以下の記事を読めばよくわかります。

インクのしみから性格や精神障害を判断するという「ロールシャッハ・テスト」の仕組みとは? - GIGAZINE


1917年、スイスの心理学者であるヘルマン・ロールシャッハ博士は、人の心理状態を診断するための手段として「インクのしみ」を利用するテストの開発をスタートしました。ロールシャッハ博士はロールシャッハ・テストで利用される「インクのしみ」における「不定形の重要性」を最初から考慮していたわけではありません。

当時、心理学科学の分野では「インクのしみ」に関する考察が、被験者の想像力を測るためのヒントとして使用されていました。しかし、ロールシャッハ博士はすぐにこれらの方法が限定的なものであると考えるようになったそうです。そこで、ロールシャッハ博士はこれまで作られたことがない「全く新しいインクのしみ」の作成に着手。この「全く新しいインクのしみ」における重要なポイントは「特定の何らかの形状であることが明らかな形状であってはならないものの、何らかの形状に見える必要がある」という点にありました。


ロールシャッハ博士は「インクのしみ」を見た被験者の反応をコード形式で分類し、この反応の中から重要なものだけを抜き出し、ロールシャッハ・テストにとって最適な「インクのしみ」を厳選しています。この「インクのしみ」の厳選工程では、前衛芸術に関連する動き・色・形といったカテゴリについても考慮されているそうです。

この厳選した「インクのしみ」を再現するのが非常に困難だったため、ロールシャッハ・テストについて言及するロールシャッハ博士の著書である「Psychodiagnostik(精神診断学)」の出版は、当初の予定よりも遅れることとなったそうです。結局「精神診断学」が出版されたのは1921年のことで、本とは別の封筒の中に10枚の「インクのしみが印刷されたカード」が封入されていたそうです。

「精神診断学」の出版後、ロールシャッハ・テストはすぐに有名になりましたが、「インクのしみ」の製造方法は秘密とされており、これは記事作成時点でも明かされていません。ロールシャッハ・テスト用の「インクのしみ」を印刷している業者ですらすべてを知っているわけではなく、使用されるインクは印刷業者とは別の場所で特別に準備される模様。また、印刷に使用されているインクは雑誌や書籍の印刷に使用されるシアン・マゼンタ・イエロー・ブラックのインクではなく、特別に混合された「ロールシャッハ・インク」と呼ばれるものだそうです。


このロールシャッハ・テストの「インクのしみ」を印刷する方法を調査したのが、ロンドンを拠点に活動するアーティストのジェレミー・ミラー氏。同氏はロンドンにあるイギリスの国立美術大学であり、世界で唯一の美術系大学院大学でもあるロイヤル・カレッジ・オブ・アートでプログラム・ライティング部門の責任者を務めているという人物でもあります。

ミラー氏はロールシャッハ・テストの「インクのしみ」の謎を解き明かすために、印刷を担当している出版社に取材を申し込んでいますが、出版社からは「ロールシャッハ・テストのインクのしみの印刷について文書化したい場合は、ロールシャッハ・テストのインクのしみに関するいかなる情報も明らかにしないまま文書化する必要がある」という条件を出されたそうです。


そのため、ミラー氏は「インクのしみ」に関する詳細な情報はほとんど文書化しておらず、「インクのしみを印刷する用紙のサイズが10×8インチ(約25.4×20.32cm)であること」「これはオリジナルの『精神診断学』を出版したHogrefe Publishingが作成した『インクのしみ』が印刷されたカードと同じサイズであること」「原本となっている『インクのしみ』の写真は、丈夫なハーネミューレ製のフォトラグ紙に印刷されており、細い白色の枠線が付けられていること」などを明かしています。


記事中に掲載されている写真は、ロールシャッハ・テストのインクのしみを印刷する工程の何らかの写真であるものの、「文書化しない」という条件に基づき、ミラー氏は詳細な説明を一切していません。

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in サイエンス,   アート, Posted by logu_ii

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