インクのしみから性格や精神障害を判断するという「ロールシャッハ・テスト」の仕組みとは?
「ロールシャッハ・テスト」は被験者にインクのしみを見せ、「何を連想したか」の説明を分析することで、人格や精神的な障害などを推定しようとする検査です。ロールシャッハ・テストが作られた経緯やそのメカニズムなどをアニメーションでわかりやすく解説したムービーがTED-Edで公開されています。
How does the Rorschach inkblot test work? - Damion Searls - YouTube
「これは何に見えるでしょうか?」という問いかけからムービーはスタート。
この絵から恐ろしいモンスターを想像したり……
遊んでいる2頭の熊を想像する人がいるかもしれません。
ロールシャッハ・テストは10種類のさまざまなインクのしみを見せ、「何に見えるでしょうか?」と被験者に説明してもらう検査です。
この検査によって「被験者の心の動きがわかる」と言われていましたが、テストの結果は守秘義務のため長らく秘密にされており、ロールシャッハ・テストで何がわかるのか、どういう仕組みなのかは一般に知られていないという、謎の多いテストです。
ロールシャッハ・テストはヘルマン・ロールシャッハ博士が20世紀初頭に開発した診断法で、もともとは「インクのしみがどんなものに見えるのか」という研究というよりも、むしろ人間の知覚に対しての一般的な研究といえるものです。
ロールシャッハ博士は東スイスの病院の精神科で働き始めたとき、人間の知覚の謎を解明しようと、ロールシャッハ・テストの原型といえる、「人によって見え方が違う絵」の研究を始めました。
博士は健康な人と精神障害患者のそれぞれ数百人に対してインクしみを見せ「これは何に見えるでしょうか?」というテストを行いました。
被験者の回答よりも、テストの最中に被験者が「インクしみのどの部分に注目したか」が重要だとロールシャッハ博士は考えました。
絵が動いているように見えるかどうかや、色のついたインクしみを使った場合に被験者はどのように感じるのかなどを、博士は実験して記録し続けました。
ロールシャッハ博士は被験者の反応をコード形式で分類する手法を開発。
さらに、反応のコードの中でも重要なものだけを抜き出しました。
ロールシャッハ博士はさまざまな被験者の記録をとり続けるうちに、被験者にの反応には一定のパターンがあることを発見します。
健康な被験者は驚くほど似通った反応を示すことが多い一方で、精神障害患者の反応にも多くの共通パターンがあることを発見します。
ロールシャッハ博士は実験の結果から、テストに最適な絵柄を10個選出し、ロールシャッハ・テストの手法をまとめ、研究結果を本にして出版しました。
ロールシャッハ・テストは世界中で話題になり、1960年台のアメリカでは数百万回もテストが実施されるほどになりますが……
ロールシャッハ博士は本を発表した直後に亡くなります。
博士の死後、人々は博士が想定しなかったような目的のためにロールシャッハ・テストを活用し始めます。
大量虐殺者特有のパターンを発見する目的で、ナチスの戦争犯罪者にロールシャッハ・テストを行う研究者も出現。
人類学者は性格テストの一環としてロールシャッハ・テストを活用しました。
ロールシャッハ・テストの結果が雇用を左右することもありました。
こういった乱用の結果、医療業界でロールシャッハ・テストは信用を失い、検査に使われなくなります。
今日でも未だにロールシャッハ・テストは論争の的になっており、多くの人はロールシャッハ・テストは間違っていると考えています。
しかし、ロールシャッハ・テストの正当性を調査すべく、2013年に過去に行われたロールシャッハ・テストの研究を洗いざらい再検討するという調査が行われました。
調査の結果、適切に検査が行われるならば、ロールシャッハ・テストは根拠のある結果が得られ、精神障害の診断や心理的なプロファイルをより正確にするために有用だということが示されました。
たった1つの検査で人の心を解き明かすことはほとんど不可能ですが、ロールシャッハ・テストの「視覚的なアプローチ」である点や、「決まった1つの答えがないこと」は、心理学者が「人はどのように世界を認識するのか」という微妙な分野を理解するのに役立つと考えられています。
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