サイエンス

「有色人種は差別に慣れすぎて店のサービスが悪くても気づきにくい」という研究結果が報告される


人種や民族に対する差別は日常生活のさまざまな場面に根付いており、企業の顧客サービスも相手の人種によって変化することがあります。近年は企業側も人種による差別をなくそうと努めていますが、「人種が異なる3人の極秘調査員」を銀行に送り込んで顧客サービスを調査した新たな研究では、有色人種の人々は普段から差別的な扱いに慣れてしまっているため、顧客サービスが悪いことに気づきにくい可能性があると判明しました。

Moving beyond Perceptions: Examining Service Disparities among Consumers | Journal of the Association for Consumer Research: Vol 8, No 1
https://www.journals.uchicago.edu/doi/10.1086/722689


People of color get so used to discrimination in stores they don't always notice bad customer service
https://theconversation.com/people-of-color-get-so-used-to-discrimination-in-stores-they-dont-always-notice-bad-customer-service-201766

銀行や航空会社などのサービス部門を抱える大企業の多くは、満足度調査を使用して顧客からのフィードバックを収集し、サービスを改善する方法を見つけようとしています。このシステムは、すべての顧客が質の低いサービスを受けた時に「サービスが悪い」と認識し、質の高いサービスを受けた時に「サービスが良い」と認識するだろうという想定に基づいたものです。

そこで、アメリカ・ユタ州立大学のマーケティング教授であるスターリング・ボーン氏らの研究チームは、本当に顧客が自分の受けたサービスを正しく認識できているのかどうかを調べるため、極秘調査員を銀行に送り込んで顧客サービスの質や評価を分析する実験を行いました。


研究チームは実験のため、ロサンゼルスに住む9人の男性を調査員として採用しました。9人は全員が同じくらいの年齢・身長・体格・教育レベルでしたが、このうち3人が白人で、3人が黒人、3人がヒスパニックだったとのこと。そして研究チームは、9人の男性に同じシャツとズボンを着せて合計69の銀行に送り込み、同じ顧客プロファイルに基づいて融資を依頼してもらいました。

9人の男性はいずれもシャツに小型カメラを埋め込んでおり、銀行員との会話や応対をこっそり記録していたほか、男性はそれぞれの銀行についての満足度などを評価するアンケートに回答しました。なお、この調査方法は州の司法長官事務所から承認を受けてたものであり、法的な問題はなかったとされています。


研究チームは、9人の男性が回答した満足度に関するアンケートを分析したところ、人種に関係なく銀行の対応についての満足度は同レベルだったことに気づきました。しかし、過去の研究から黒人やヒスパニックの人々は客観的に悪い扱いを受けていることがわかっているため、さらに深くデータを分析することにしたそうです。

男性らが撮影した動画を分析した結果、黒人やヒスパニックの男性は白人の男性よりも短い時間の会議しか設けられず、銀行員に会うまで待たされる時間も長いなど、さまざまな形態の微妙な差別を受けていることが判明。つまり、客観的に見て黒人やヒスパニックの男性は差別を受けていたにもかかわらず、主観的なアンケートでは白人の男性と満足度に差がなかったということになります。


さらに研究チームは、追加の実験で多様な人種を含む300人の被験者を募集して、9人の男性と銀行員の会議を撮影した動画を視聴してもらいました。そして銀行員の対応を評価してもらったところ、すべての人種がポジティブな応対の満足度を同様に高く評価した一方で、ネガティブな応対については、黒人やヒスパニックは白人と比較してそれほど低く評価しないことがわかりました。

ボーン氏らは、「残念ながら、差別されている民族や人種である顧客は、時間とともに繰り返される差別的なサービスに対して無関心あるいは鈍感になり、受け入れてしまうことがあります。銀行の支店のような1対1のやり取りでは、顧客は自分が受けたサービスを他の顧客と直接比較することができないため、差別的なサービスに気づきにくいかもしれません」と述べています。

そのため、それほど目立たない微妙な差別であるマイクロアグレッションが接客現場に存在したとしても、差別対象である有色人種はマイクロアグレッションに気づくことができず、結果として顧客満足度調査などに反映されない可能性があるというわけです。

研究チームは、特に今回の実験で選ばれた銀行などの金融サービスにおいて差別が存在する場合、有色人種がローンを組んだり貯蓄したりすることが難しくなり、広範囲の害が及ぶ可能性があると指摘。「これらの問題を回避するために、マネージャーは過小評価されている顧客の差別的な扱いを評価するためのより客観的な方法を見つけ、改善する必要があります」とボーン氏らは述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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