サイエンス

人間が匂いを感じるための「嗅覚受容体」の仕組みがついに解明へ


人間には視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚という5つの感覚が備わっています。そのうちの1つである嗅覚は、空気中に漂う分子を鼻の中にある嗅覚受容体が捉えることで脳に信号が伝わって感じられるとされています。しかし、これまで嗅覚受容体がどのように機能するかについては、はっきりとわかっていませんでした。そんな嗅覚受容体の仕組みがついに明らかになったと報じられています。

Structural basis of odorant recognition by a human odorant receptor | Nature
https://doi.org/10.1038/s41586-023-05798-y


How a Human Smell Receptor Works Is Finally Revealed | Quanta Magazine
https://www.quantamagazine.org/how-a-human-smell-receptor-works-is-finally-revealed-20230501/


人間の嗅覚受容体はGタンパク質共役受容体(GPCR)と呼ばれる形式で、タンパク質でできたセンサーのような構造となっています。GPCRは構造によって捉える対象が異なり、匂いのもととなる分子を捉えると形を変化させます。この形の変化によって、脳の匂いを処理する部分に信号が送られ、匂いを感じるというわけです。この嗅覚受容体が分子を捉えた時にどのように形を変化させるのかについて、これまで研究が重ねられてきたとのこと。

2021年に発表された研究では、昆虫における嗅覚受容体の変形プロセスが解明されました。しかし、昆虫の嗅覚受容体は根本的に人間の嗅覚受容体とは異なる働きをするため、この研究では人間の嗅覚が解明されたとはいえませんでした

嗅覚受容体の構造を研究するには十分な量の嗅覚受容体を用意する必要があり、そのためには培養細胞で嗅覚受容体になるGPCRを産生する必要があります。しかし、嗅覚受容体は嗅覚神経とつながっていない場所で培養しても適切に成熟しないという問題があり、このことが研究を進めるにあたって大きな壁となっていました。


そこで、デューク大学の松波宏明准教授は、嗅覚受容体の研究を行ってきた人物の1人で、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の生化学者であるアーシシュ・マングリク氏とクリスチャン・ビレスビュッレ氏と協力し、鼻や腸、腎臓、前立腺などに見られるGPCR「OR51E2」を嗅覚神経以外の培養細胞上でも成熟するように遺伝子改変しました。

そして、培養したOR51E2をチーズや体臭などの匂いのもととなるプロピオン酸に暴露しました。また、OR51E2とプロピオン酸が結合した状態の画像を生成するため、クライオ電子顕微鏡法を使用しました。

その結果、OR51E2の構造にある小さな袋の中にプロピオン酸分子が閉じ込められていることが判明しました。この袋の中にプロピオン酸分子を閉じ込めている時、OR51E2はプロピオン酸や他の分子に対する感受性をほとんど失っていたとのこと。また、OR51E2の袋の上には小さな輪のような構造があり、プロピオン酸分子を閉じ込めて結合すると、袋に対してフタのように機能してロックすることがわかりました。


ただし、この研究はあくまでもOR51E2とプロピオン酸に焦点を当てたものです。実際の鼻の中には他の嗅覚受容体や結合部位が存在しており、OR51E2以外の嗅覚受容体がどのように機能するかは明らかになっていません。松波准教授は「人間が持つ他の嗅覚受容体、特にOR51E2と密接に関連する受容体は、OR51E2と同様に機能する可能性は高いといえます。今回の機能構造の特定は、嗅覚の根底にある仕組みを理解するための第一歩だと考えています」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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