Appleの慎重さと開発チームの機能不全が音声アシスタント「Siri」とAIの取り組みを妨げているとの指摘、AIの新時代に乗り遅れる懸念も
近年はMicrosoftやGoogleなど、世界的な大手テクノロジー企業が積極的にAI製品の開発に取り組んでいます。同じく世界的大企業であるAppleも積極的にAI関連企業の買収を行っていますが、海外メディアのThe Informationは音声アシスタントのSiriやAIに取り組んでいるAppleのチームは従業員の離脱や幹部の思惑との板挟みになっており、AppleではAIの取り組みがうまく進展していないと報じました。
Apple’s Siri Chief Struggles With Turf Wars as New AI Era Begins — The Information
https://www.theinformation.com/articles/apples-siri-chief-struggles-as-new-ai-era-begins
Apple employees hate Siri and are skeptical of its future - 9to5Mac
https://9to5mac.com/2023/04/27/apple-employees-siri-struggles/
Apple AI teams struggle to modernize Siri
https://appleinsider.com/articles/23/04/27/internal-fighting-and-privacy-concerns-hinder-apples-ability-to-modernize-siri
Report Details Turmoil Behind Apple's AI Efforts, 'Siri X,' and Headset Voice Controls - MacRumors
https://www.macrumors.com/2023/04/27/report-details-turmoil-behind-siri-and-apple-ai/
Appleは2018年、音声アシスタントのSiriが競合他社に後れを取っているという状態を打破するべく、GoogleのAI関連部門チーフを務めていたJohn Giannandrea氏をスカウトしました。記事作成時点でもGiannandrea氏はAppleの機械学習およびAI戦略担当シニアバイスプレジデントを務めていますが、AppleのAI関連部門は「組織の機能不全や幹部のAIに対する野心の欠如」に悩まされ、Siriや基になるバックエンドテクノロジーの改善が進んでいないとのこと。
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Appleの機械学習およびAIグループで働いていた数十人の従業員にインタビューしたThe Informationは、Giannandrea氏が率いるSiri開発チームが直面する問題の1つに、「従業員が定着しないこと」を挙げています。
2022年後半には、AppleにおいてAIの実装を担当していた3人のエンジニアが会社を離れ、Googleに転職したとのこと。エンジニアらはGoogleのスンダー・ピチャイCEOが直々にスカウトに乗り出すほど有能であり、Appleのティム・クックCEOは会社に残るように説得を試みたものの、結局はGoogleで大規模言語モデルの開発に取り組むことに決めました。関係者によると、3人は「人間のような反応を生み出すことができる大規模言語モデル」に取り組むのに適しているのは、AppleではなくGoogleだと考えて転職したそうです。
The Informationによると、2018年以前のSiri開発チームは上級リーダー間の縄張り争いや方向性を巡る議論により、混乱に陥っていたとのこと。Appleのユーザープライバシー保護を優先する姿勢も、ユーザーとSiriの相互作用に関するデータ収集の妨げになっており、Apple幹部はデータ収集に対する投資にも消極的でした。
新たに就任したGiannandrea氏はAI開発のためのデータ収集を拡大しようとしましたが、2019年にSiriとユーザーの会話を録音したデータを外部の業者に渡していたことが報じられました。Appleはこの件について謝罪し、データ収集の取り組みに変更が加えられてしまいました。
AppleがユーザーとSiriの会話を録音して外部の業者に聞き取りさせていたことについて正式に謝罪 - GIGAZINE
さらに、ChatGPTなどのチャットAIはしばしば「不適切な発言」を行って世間を騒がせていますが、ブランドイメージを重視するAppleの上級幹部は、Siriが好ましくない反応を示すことを極力避けたがっている点も指摘されています。AppleはSiriの基本的な返答を約20人のライターチームに事前作成させており、エンジニアが提案した「SiriがチャットAIのように長い対話を実行する機能」の追加を拒否したそうです。
ウェブ上のコンテンツを使用して質問に答える機能に取り組んでいたSiriの開発エンジニアは、2019年に「Siriの回答の正確性」を巡ってデザイナーチームと衝突したとThe Informationは報じています。デザイナーチームは機能のリリース前にほぼ完璧な精度を要求しましたが、エンジニアはユーザーから寄せられる膨大な質問を事前に精査することは不可能であると主張し、デザイナーチームの説得に数カ月を費やしました。また、デザイナーチームはSiriを「全知の音声アシスタント」に見せたがっており、ユーザーがSiriの回答に対する懸念や問題を報告する機能の実装も拒否していたとのこと。
一部のApple従業員は、会社の意思決定の遅さや大規模言語モデルに対する保守的なアプローチに失望して転職したほか、Apple社内でもSiriに対する不満の声が上がっているとのこと。AppleのAR/VRヘッドセットであるReality Proの開発チームは、Siriの開発チームがデモンストレーションしたヘッドセットの音声コントロールに失望を表明し、代替となる音声コントロールシステムの構築を検討するほどだったとThe Informationは報じています。なお、Siriとは別に音声コントロールシステムを開発する計画は、最終的に放棄されたそうです。
The Informationは、「これらの事件は、Appleが大規模言語モデルに基づく次のAI製品の開発に成功することについて、AppleのAIグループを離れた元従業員の多くが懐疑的である理由を説明しています」と述べました。
2023年3月には、AppleがChatGPTのようなチャットAIをSiriに統合する可能性を模索していると報じられました。しかし、元Appleエンジニアのジョン・バーキー氏は、Siriのコードは非常に複雑であり、データセットの改善や機能追加に膨大な時間がかかると指摘しています。
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