電気自動車の航続距離をこれまでの10倍伸ばす革新的なリチウムイオンバッテリー技術が発表される
従来のリチウムイオン電池を使用した電気自動車よりも10倍の距離を走行可能となる新しいリチウムイオン電池技術を韓国の浦項工科大学校と西江大学校が共同で発表しました。
Layering Charged Polymers Enable Highly Integrated High‐Capacity Battery Anodes - Han - Advanced Functional Materials - Wiley Online Library
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adfm.202213458
10x EV Range Boost With Revolutionary Lithium-Ion Battery Technology
https://scitechdaily.com/10x-ev-range-boost-with-revolutionary-lithium-ion-battery-technology/
Ram’s New Electric Pickup Truck Aims for Battery Range of 500 Miles - WSJ
https://www.wsj.com/amp/articles/rams-new-electric-pickup-aims-for-battery-range-of-500-miles-e590bb8b
現代の電気自動車市場は爆発的な成長を遂げており、2022年の世界での販売額は約1兆ドル(約130兆円)を超え、韓国国内での販売台数は約10.8万台に上ったことが報告されています。電気自動車市場の発展に伴って、電気自動車の航続距離を従来よりも伸ばすことが可能な大容量バッテリーの需要が高まっています。
浦項工科大学校と西江大学校の共同の研究チームは、従来のリチウムイオン電池で用いられる「負極活物質」の10倍以上の容量を持ちつつ、安定性と信頼性を兼ね備えた(PDFファイル)導電性高分子バインダーを開発しました。
この研究チームによる研究は、安定性と信頼性を維持しつつ従来使用されてきた黒鉛を、層状に荷電したポリマーと組み合わせたシリコンのアノードに置き換えることが可能になったとのこと。
シリコンなどの大容量なアノードの材料は、従来の黒鉛などのアノード材料を使用したリチウムイオン電池の10倍の容量を持ち、高エネルギー密度のリチウムイオン電池の製造に不可欠です。しかし、これまでリチウムと大容量アノード材料が反応した際に体積が膨張し、電池の性能と安定性に悪影響を及ぼすことが知られてきました。
また、これまでの研究はポリマー同士を連結し、物理的または化学的性質を変化させる「架橋」や「水素結合」にのみ焦点を当ててきたとされています。化学的な架橋は、バインダーとなる分子間の共有結合を含み、これらを固体にすることが可能ですが、一度壊れると結合を再度回復することができない特性があります。また水素結合は、電気陰性度の差に基づく分子間の二次結合で、壊れても再度修復することが可能ですが、強度が弱い特性があるとされています。
そこで、研究チームは反応の際の体積膨張を効果的に制御可能なポリマーのバインダーの調査を行いました。その結果開発された新しいポリマーは、水素結合を利用するだけでなく、正の電荷と負の電荷間の引力を使用する「クーロン力」も利用するとのこと。その結果、水素結合よりもはるかに高い強度を持ちながら、可逆的であるため、体積膨張の制御が容易とされています。
また、シリコンなどの高容量アノード材料の表面はほとんど負に帯電している一方、層状に帯電したポリマーは正の電荷と負の電荷が交互に配列されているため、アノードと効果的に結合することができます。さらに、リチウムイオン電池の絶縁材および電解質溶媒としても用いられる「ポリエチレングリコール」を導入することで、従来よりもリチウムイオンの拡散を促進し、大容量の電極とエネルギー密度で充電することに成功しました。
研究チームのパク・スジン氏は「この研究は、大容量の負極材料を取り入れることでリチウムイオン電池のエネルギー密度を大幅に高め、電気自動車の航続距離を伸ばす可能性を秘めています。今回のシリコンを使用したアノード材料は、従来のリチウムイオン電池から少なくとも航続距離を約10倍に伸ばす可能性があります」と述べています。
電気自動車の航続距離を伸ばす研究はアメリカにおいても盛んで、自動車メーカー「ラム」が発表したピックアップトラックのRam 1500 REVは従来の電気ピックアップトラックよりも航続距離が長く、その距離は500マイル(約800km)とされています。
一方でラムのブランド主任であるマイク・コヴァル氏は「電気自動車において、航続距離分野のトップを走ることは最善ではないかもしれません」と述べ、ユーザーの生活に合った電気自動車の開発が航続距離を伸ばすことよりも重要であることを訴えています。
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