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5分でフル充電できる電気自動車用バッテリーの秘密とは?


電気自動車(EV)向けにわずか5分でフル充電できるバッテリーを開発したと、イスラエルのスタートアップである「StoreDot」が発表しました。StoreDotはバッテリーに関する多くの情報を公開しているとのことで、テクノロジーメディアのArs Technicaが、「StoreDotはなぜ5分でフル充電できるバッテリーを開発できたのか?」という謎に迫っています。

StoreDot: ultra-fast charging batteries for EVs & more
https://www.store-dot.com/

What’s the technology behind a five-minute charge battery? | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2021/01/whats-the-technology-behind-a-five-minute-charge-battery/

Ars Technicaによると、「StoreDotは既存のアイデアを少しリスクの伴う形でバッテリー開発に取り入れている」とのこと。StoreDotが重視したのは「バッテリーをどれだけ早く充電できるか」という点で、そのためにリチウムイオンバッテリーの容量などを犠牲にしています。StoreDotのアイデアを簡単に説明すると、「フル充電に1時間かかる600km走行可能なEV用バッテリーの代わりに、5分で300km走行可能なEV用バッテリーにした」といった感じ。

膝の上でノートPCを充電しながら使用したことがある人ならわかるように、充電する際、バッテリーは大量の熱を発します。そして、より早く充電すればするほど、バッテリーが発する熱は大きくなります。この熱に対処するため、StoreDotは個々のバッテリーセルの隙間を大きく空けるようにEV用バッテリーを設計しました。以下の画像の中で並べられている板状のものがバッテリーセル。セル間には明確に隙間が存在します。


また、バッテリーセルの間に大きな隙間を設けるだけでなく、バッテリーハウジングにもセル間の空気を循環させるための穴が設けられており、さらに充電器にはバッテリーに空気を流すためのファンも備えられています。


既存のバッテリー技術でもStoreDotと同じアイデアを採用することができますが、これを行うにはコストがかかります。さらに、バッテリーセルの密度を低くするということはエネルギー密度が低くなるということを意味するため、既存のものと同じバッテリー容量を実現すると、バッテリーのサイズが大きくなってしまうという欠点を抱えることとなります。

しかし、StoreDotのEV用バッテリーはバッテリーセルの密度が低いことを相殺することが可能なほど、はるかに高い電荷密度を可能とするバッテリーセル技術が用いられています。そのため、バッテリーセルの密度が低い、つまりはセルの量が同等サイズのバッテリーよりも少ないにもかかわらず、同等のバッテリー容量を実現することに成功しているというわけ。


すべてのリチウムイオンバッテリーは、一方の電極からもう一方の電極に電荷を運ぶために、リチウムイオンを貯蔵できる材料で作られた電極を備えています。一般的に、この電極部分には多層のグラフェンシートで構成されたグラファイトが用いられ、これによりリチウムイオンをシート間に留めているそうです。しかし、硫黄やシリコンなどはグラファイトよりもはるかに多くのリチウムイオンを貯蔵することができるため、より高効率なバッテリーを作ることができるといわれています。

硫黄はバッテリー内で化学反応を起こす危険があるものの、従来のリチウムイオンバッテリーの4倍も性能が高いリチウム硫黄バッテリーがすでに開発されています。

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シリコンには硫黄のような危険性はないものの、「大量のリチウムを蓄えると膨張してしまう」という問題があります。充電と放熱に伴う膨張・収縮サイクルは、シリコンにエッチングされた小さな構造を損傷したり、バッテリーの構造そのものを損傷したりする可能性があるため、シリコンを用いたリチウムバッテリーは製造されていないというわけ。そのため、体積変化を正しく管理することができれば、シリコンベースのリチウムバッテリーを作ることができると考えられてきました。


StoreDotのEV用バッテリーは熱問題を解決した結果、シリコンベースのリチウムイオンバッテリーが抱えるであろう問題の一部を回避することにも成功しています。StoreDotのEV用バッテリーではバッテリーセルが非常に薄くなっており、これにより放熱性能が向上しています。バッテリーセルの膨張率を通常のものよりも低く抑えることに成功しているため、シリコンを電極部分に使用可能となっているというわけ。

しかし、膨張率が低いだけで膨張・縮小が一切起こらないわけではないため、StoreDotのEV用バッテリーが電極部分の膨張・縮小に関する問題を完全に解決できているわけではありません。なお、StoreDotが電極部分に取り入れたソリューションは、「シリコンをナノ粒子とし、電極をナノ粒子の層で構成する」という既存の研究と似た手法。ナノ粒子は柔軟なメッシュで電極に保持されるのですが、研究ではグラフェンが使用されていたところ、StoreDotは柔軟な自己修復ポリマーを使用しているとのことます。これにより電荷がシリコンとリチウム混合物の間を出入り可能となり、リチウムイオンバッテリーとして機能するようになるとのこと。


なお、StoreDotはこれ以外には電極および電解質についての詳細を明らかにしていません。ただし、ほとんどのバッテリー関連企業やインターネット上の有益な情報も、電極や電解質については「独自の化合物で構築されている」といったあいまいな記述に終始しており、詳細を知ることは難しいとのこと。

StoreDotは2018年にバッテリーの大量生産を受託する中国メーカーとのパートナーシップを発表しています。すでに試作段階のバッテリーは生産開始となったとのことですが、これは最終的な大量生産版のパフォーマンスと一致するように設計されているものの、化学的には同一のものではない模様。そのため、記事作成時点では他にどの程度の課題がStoreDotのバッテリーに残っているのかを判断するのは難しいとArs Technicaは記しています。

また、Ars Technicaは「StoreDotがシリコンを用いたリチウムイオンバッテリーを開発するために用いる原理と類似した論文を特定することに成功したものの、論文とStoreDotのテクノロジーの間には多くの相違点が存在します」「StoreDotのバッテリーは、自己修復ポリマーのような材料科学の発展に依存するようなテクノロジーであり、もとの研究はバッテリーで使用されることを想定したものではないという点にも注意が必要です」と記し、StoreDotのバッテリーについてはまだまだ多くの謎が残っているとしています。

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in ハードウェア,   乗り物, Posted by logu_ii

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