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ロシアとの戦争でウクライナに優位性を与えた「Palantir」の情報・戦闘管理アルゴリズムとはどのようなものなのか?


ウクライナ戦争が2度目の冬を迎える中、ロシアはウクライナの電力インフラや病院などを狙った攻撃を繰り返していますが、2022年11月末にはイギリスの国防省によって「ロシア軍はミサイルが枯渇している」との分析結果が示されるなど、戦況はウクライナ側の優位に進んでいるとみられています。この優位性の立役者の1つとなったアメリカのテクノロジー企業・Palantirが作り上げた戦闘システムと「アルゴリズム戦争」の行く末について、現地を取材したジャーナリストのデイビット・イグネイシャス氏がレポートしました。

Opinion | How the algorithm tipped the balance in Ukraine - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/opinions/2022/12/19/palantir-algorithm-data-ukraine-war/

Opinion | The Ukraine war gave the algorithm its opening, but dangers lurk - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/opinions/2022/12/20/ukraine-war-russia-tech-battlefield/

Palantirがウクライナ軍に導入したシステムの最も核心的な点は、商業ベンダーのデータを集約して戦場の情報をつぶさに把握することができる点です。例えば、Palantirの「MetaConstellation」をツールを使うと、ウクライナは特定の戦闘空間について、現在どのような民間データが利用可能なのかを確認できます。それらのデータは従来の写真から、雲の下を見通す合成開口レーダー、砲撃やミサイル発射を検知するサーマルイメージまで、多岐にわたります。

民間データは多数の企業から提供されており、例えば光学レーダーや合成開口レーダーのベンダーは衛星企業のMaxar TechnologiesやICEYE、Capella Spaceなどがあるほか、航空宇宙産業のAirbusなども情報を供給しています。また、アメリカ海洋大気庁が手がける火災検知用の赤外線イメージは、砲撃の爆発の検知に使用することが可能です。


イグネイシャス氏が見たジャーナリスト向けのデモンストレーションでは、この戦争で最も過酷な戦場の1つとなっているバフムートの詳細なデジタル地図に表示された、両軍の砲撃を示すサーマルイメージや、現地のウクライナ人スパイが撮影した「Z印」のロシア戦車の画像などを、クリック1つで見ることができたとのこと。

こうしたデータを統合することで、ウクライナ軍の司令部は「戦場の霧」と呼ばれる戦闘情報の不足を取り払うことが可能です。人工知能を活用してセンサーのデータを分析すれば、友軍や敵軍の位置といった戦闘に不可欠な情報を素早く入手でき、敵の陣地を攻撃するのにどのような兵器を用いるのが最も効果的なのかを現場の指揮官に迅速に伝えられるからです。そして、戦闘が終わった後は自分たちのデータがどれだけ正確だったかを評価し、それを元にシステムがアップデートされます。

また、Palantirの技術は前線だけでなく後方支援にも重要です。Palantirが陸軍で構築しているデータベースを活用すると、どの部隊の兵士がどのようなスキルや経験を有しているか、どんな武器や弾薬を持っているかを瞬時に確認できます。このようなロジスティクスの問題は、以前は何週間もかけて確認していかなければなりませんでしたが、新技術の導入により数秒でできるようになりました。

by Sasha Maksymenko

こうしたシステムを支えているのが、イーロン・マスク氏率いるSpaceXのStarlinkによるブロードバンド接続のメッシュネットワークです。約2500基の人工衛星が提供するこのシステムにより、ウクライナ兵は現地の情報のアップロードやターゲット情報のダウンロードを迅速に行い、敵軍の発見から攻撃、破壊までの「キルチェーン」を構築できます。また、SpaceXのStarlink端末や、Teslaの発電機やバッテリーで構成されるPowerwallシステムは、電力不足にあえぐウクライナが通信を確保する上でも重要な役割を果たしています。

PalantirのCEOであるAlex Karp氏は、イグネイシャス氏に「高度なアルゴリズム戦争システムの力は、通常兵器しか持たない敵に対して戦術核兵器を持つような戦力差に匹敵するほど、大きなものとなりました。一般人はこれを過小評価する傾向がありますが、私たちの敵は身に染みて知っていることでしょう」と話しました。

この点は、実際に戦いを繰り広げているウクライナ兵士も同意見です。安全のため偽名で取材に応じ、イグネイシャス氏にデモンストレーションを披露したウクライナ軍将校のステパン氏は、「私たちにとって、このシステムは生きるか死ぬかの分かれ目です」と話しました。ステパン氏は、戦前は小売り会社のソフトウェア設計をしていましたが、今は買い物客ではなく兵士を対象とした「ターゲット獲得の最大化」を目標にしているとのこと。

by Bernat Armangue/AP

また、もう1人の将校で、戦前はPC関連の技術者だった女性のレーシャ氏は、「ウクライナは今はアメリカからの技術支援に頼っていますが、戦争が終わる頃には私たちの方がPalantirにソフトウェアを販売していると思います」と述べて、戦後は技術大国としてウクライナを復興させたいとの目標を話しました。レーシャ氏によると、ウクライナ軍は大隊に必ずソフトウェア開発者をつけているとのこと。この技術力重視の姿勢が、戦力で勝るロシア軍への抵抗を支えています。

しかし、戦争を左右するのは技術力だけではありません。例えば、アメリカが編成したアフガニスタン軍は士気の低さからタリバンの攻撃の前に崩壊しましたが、シリアのクルド人戦闘員らはイラク・レバントのイスラム国(ISIL)を粉砕することに成功しました。この違いは、武器と決意の両方を持っているかどうかにかかっていると、イグネイシャス氏は考えています。

ウクライナを取材して得た教訓から、イグネイシャス氏は「この戦争の鍵は、ウクライナのハイテク技術の優位性と、軍隊の迅速の適応能力にあるといっていいでしょう。そして、これが2022年2月に無謀にもロシアが侵攻を開始して以来、世界が見守ってきたこの尋常ではないドラマの中心的な事実でもあります。これは、人間と機械が共に成し遂げてきた勝利なのです」と述べました。


また、テクノロジーが主導する今後の戦争の在り方については、「私が数週間かけてPalantirなどの企業が開発したツールを調査した結果、まず頭に浮かんだのは抑止力という言葉でした。そして、これはウクライナだけにとどまりません。このような技術革命により、例えば台湾を攻撃しようとする敵対者は、想像していたよりもはるかに困難な課題にぶつかるでしょう。そして、このようなサイバー戦争空間が台頭している中で中国に送るメッセージは、『考え直しなさい』です」と記しました。

記事作成時点ではまだウクライナ戦争が終結していませんが、Palantirのソフトウェアがウクライナで見せた戦果には世界各国が注目しています。Palantirとイギリスの国防省は2022年12月21日に、3年間で7500万ポンド(約120億円)かけてPalantirのシステムをイギリス軍に導入する契約を発表しました。

#Palantir is proud to support the rapid modernization of the UK Armed Forces. This partnership with @DefenceHQ will help enable world-leading operational capability for one of the US’s closest allies.

Learn more: https://t.co/fB7ASTUFmm

— Palantir (@PalantirTech)

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in ソフトウェア, Posted by log1l_ks

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