サイエンス

満員電車に乗ると時間の流れが遅く感じることが判明


動くことすら難しい満員電車に乗り合わせてしまった場合、ひたすら「早く目的の駅に着いてくれ」と祈ることしかできません。ところが、VRを使って満員電車を再現した実験からは、「電車が混むほど時間の流れがゆっくりに感じる」ということが明らかになりました。

Affective experience in a virtual crowd regulates perceived travel time | SpringerLink
https://doi.org/10.1007/s10055-022-00713-8

Crowding and Perceived Travel Time in Public Transit: Virtual Reality Compared With Stated Choice Surveys - Saeedeh Sadeghi, Ricardo Daziano, So-Yeon Yoon, Adam K Anderson, 2022
https://doi.org/10.1177/03611981221130346

Are we there yet? Time slows down on crowded train
https://techxplore.com/news/2022-11-crowded.html

人間が感じる時間の流れは主観的な感情や状況の複雑さに左右されるものであり、一般に楽しい時間ほど速く過ぎて、苦痛な時間ほど遅く感じるといわれています。体感時間の変化を調べた過去の研究では、コンピューターを用いたタスクや画面上の刺激などを使用した実験が行われてきましたが、これは現実世界の状況には当てはまらないことがあります。


そこでアメリカ・コーネル大学の研究チームは、電車の中を再現したリアルなVRアプリケーションを使用して、混雑具合に応じた体感時間の変化をテストしました。研究チームが実験のために開発したアプリケーションの映像は、以下の動画で見ることが可能です。

Movie 01 001 - YouTube


実験に参加した19~51歳の被験者41人はVRヘッドセットを装着し、地下鉄の車内をシミュレーションした仮想旅行をさまざまな混雑度や時間で体験しました。被験者の旅行はニューヨーク市地下鉄を模した車両に乗車するところから始まり、「閉まるドアから離れてください」というアナウンスが聞こえ、ドアが閉まってから発車して加速し、次の駅に到着してベルが鳴ったところで終了したとのこと。

混雑レベルは「1平方メートルあたりの人数が1人(車両内に35人)」から「1平方メートルあたりの人数が5人(車両内に175人)」の間で変動し、被験者は車両内で頭を動かしたり歩いたりして周囲を見回すことができました。乗客のアバターは体勢を変えたり、本を読んだり、スマートフォンを見たりと、自然な人間の行動を再現するように作られたと研究チームは述べています。

仮想旅行の移動時間は60秒・70秒・80秒の中からランダムに割り当てられ、各被験者は合計5回の仮想旅行をそれぞれ異なる混雑レベルで体験しました。各仮想旅行の後、被験者は体験がどれほど快かったか、それとも不快だったかを1~7のスケールで報告し、仮想旅行が何秒だったのかを可能な限り正確に推定するよう求められました。

実験の結果、1平方メートルあたりの人数が1人増えるごとに、体感移動時間が平均1.8秒増加することが判明。最も混雑していない状況と比較して、最も混雑した状況では移動時間が約10%も長くなることがわかりました。体感時間の変化は仮想旅行の快・不快の程度に関連していたとのことで、研究チームは混雑によるパーソナルスペースの侵害に起因するのではないかと考えています。


論文の筆頭著者でありコーネル大学心理学部の博士課程に在籍するSaeedeh Sadeghi氏は、「今回の研究は、社会的な混雑で時間の捉え方が変わることを示したものです」「混雑はストレスフルな感情を生み、それが旅行を長く感じさせてしまうのです」と述べています。

また、共著者でありカーネル大学心理学教授のAdam Anderson氏は、「この研究は、私たちの日常的な体験や主観的な感情が、いかに時間感覚を大きくゆがめているのかを明らかにするものです」「時間とは時計が示す以上のものです。私たちがそれを資源としてどのように感じるのか、どのような価値を置くかで変動します」とコメントしています。

アメリカの交通機関を利用する通勤者の平均移動時間は60分強だそうで、今回の研究結果に基づくと、交通機関が混雑していると労働者の体感移動時間が年間で24時間も長くなることになります。これにより、公共交通機関ではなく自家用車などを使った通勤を選択する人が増え、二酸化炭素排出量が増加する可能性があるとのこと。研究チームは、今回の研究結果がエンジニアが車両設計を改善するために役立つ可能性があると主張しました。

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in 乗り物,   サイエンス, Posted by log1h_ik

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