「脳の疲れ」が時間をゆがませている可能性
退屈だと時間の流れが遅くなり、楽しいと時間の流れが早くなる、という覚えが誰しも少なからずあるはず。この「流れる時間の速度は変わらないはずなのに、体感する時間が早くなったり遅くなったりする」という現象について、「脳の疲れ」が影響している可能性が高いことが、総務省所管の国立研究開発法人である情報通信研究機構(NICT)の研究で示されています。
Duration-selectivity in right parietal cortex reflects the subjective experience of time | Journal of Neuroscience
https://www.jneurosci.org/content/early/2020/09/11/JNEUROSCI.0078-20.2020
'Tired' brain cells may distort your sense of time | Live Science
https://www.livescience.com/neuron-fatigue-time-perception-brain.html
NICTの脳情報通信融合研究室の研究員、林正道氏らが発表した研究により、脳が同じ時間間隔に何度もさらされるとニューロンは過剰に刺激され、発火する頻度が低下することが発見されました。
人間の脳が時間をどのように認識しているかについて明らかになったのは2010年以降のことで、2015年には時間の知覚によってニューロンの活動が変動する証拠が初めて発見されました。ニューロンの変動は脳の縁上回と呼ばれる領域で発見されましたが、脳が正確な時間の認識を維持しているのか、それとも脳が主観的な時間の経験を作り出しているのかは明らかではありませんでした。
研究では、18人の健康なボランティアを対象に実験が行われました。脳の活動はfMRIで血流の変化を検出することによって測定しています。まず、被験者たちは「適応刺激」として黒い背景に灰色の円が描かれた絵を1回あたり250~750ミリ秒、30回連続で見た後、「テスト刺激」として異なる円が描かれた絵を一定時間見続けます。その後、被験者はテスト刺激と同じ時間ホワイトノイズを聴き、テスト刺激の時間がホワイトノイズを聴いた時間よりも長く感じるか短く感じるかを答えました。
実験の結果、林氏らの研究チームは、適応刺激とテスト刺激の時間が同じくらいの長さになると、ニューロンの発火頻度が低下し、縁上回の活動が弱まることを発見しました。つまり、似たような刺激であるテスト刺激と適応刺激を同じ時間、被験者に経験させることで、被験者は本来なら同じ時間の長さだったホワイトノイズを短く感じ、テスト刺激の時間を長く錯覚してしまうという結果が得られたとのこと。
林氏によると、被験者らの脳に時間知覚のゆがみが生じたのは、「同じ刺激の連続に敏感なニューロンが疲弊した結果」であるとのこと。なお、林氏は「私たちの研究では、『ニューロンの疲弊』と『主観的な時間の歪み』との相関関係しか示されていないため、現時点ではニューロンの疲労によって時間知覚の偏りが引き起こされているとは断言できません。私たちの次のステップは因果関係を調べることです」ともコメントしています。
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