「石頭恐竜」ことパキケファロサウルスは頭突き合戦ではなく「キックボクシングや相撲」で決闘をしていた可能性
by Like_the_Grand_Canyon
頭骨の上部が分厚いドーム状の骨でできていることから日本語で「石頭恐竜」と呼ばれ、ラテン語でも「厚い頭を持つトカゲ」を意味する学名を与えられているパキケファロサウルスは、頭突きをして群れの中での順位を決めたり、捕食者から身を守ったりしていたと考えられてきました。しかし、新たな研究により頭突きではなくカンガルーのような尻尾を駆使したキックボクシングや、頭を突き合せたまま押し合う相撲で戦っていた可能性があることが分かりました。
Helmet-headed dinosaurs kickboxed like kangaroos, new study suggests | Live Science
https://www.livescience.com/pachycephalosaur-dinosaurs-kickboxed-like-kangaroos
Did pachycephalosaurs head butt? New research says it kicked like a kangaroo - Deseret News
https://www.deseret.com/2022/11/8/23447312/dinosaur-kicks-like-kangaroo-pachycephalosaurs
パキケファロサウルスの最大の特長は、厚さ25~30cmもあるドーム状の頭骨です。このことから、パキケファロサウルスは化石が発見された当初から、群れの中で頭部を激しくぶつけ合ってリーダーを決めたり縄張りを巡る争いをしたりしていたのではないかとの仮説が提唱されてきました。同様に儀礼的な闘争として頭突きをする現代の生き物としては、北米などに生息するオオツノヒツジやジャコウウシが知られています。
by Tim Evanson
ロッキー山脈の岩肌に住んでいるオオツノヒツジのように、化石が残りにくい岩場に生息していたとされているパキケファロサウルスは、硬い頭蓋骨以外の化石がほとんど残っていません。そこで、マイアミのフロスト科学博物館の古生物学者であるカリー・ウッドラフ氏らは、アメリカ西部のヘルクリーク累層で見つかった保存状態のいいパキケファロサウルスの骨格から3Dモデルを作って検証する研究を行いました。
研究チームがレーザースキャナーを使ってパキケファロサウルスの骨格をスキャンし、仮想的な3Dモデルを作成したところ、パキケファロサウルスの背中の脊椎骨は積み重ねられる皿のようにぴったりと合う形状をしていることが分かりました。パキケファロサウルスがこのような背骨を持っていること自体は以前から知られており、古生物学者らはこれを「高速の頭突きによる衝撃を分散させるためではないか」と考えていたとのこと。
しかし、ウッドラフ氏らがパキケファロサウルスの脊椎骨のモデルを頭突きで有名な他の動物と比較したところ、どの動物の骨格にも似た形状はありませんでした。そこで、研究チームがパキケファロサウルスに似た形状をした骨を持つ動物をさらに探したところ、カンガルーの背骨がパキケファロサウルスと似ていることが分かりました。
by Dellex
ウッドラフ氏によると、パキケファロサウルスの骨格には脊椎骨の他にも、骨盤や尾の骨などカンガルーと似た形状の骨があるとのこと。このことから研究チームは、今回の発見は1970年代ごろに登場した「パキケファロサウルスは尾で体重を支える姿勢をとっていた」という説を補強するものだと考えています。
また、カンガルーはオス同士の格闘の際に尾で体重を支えてから両足での前蹴りを放つことがあり、このことからウッドラフ氏は「あくまで仮説ですが、パキケファロサウルスも独自の姿勢でキックボクシングのような動作をしていた可能性があります」と話しました。
パキケファロサウルスがカンガルーのような骨格を持っているからといって、頭突きをまったくしなかったとは限りませんが、頭突きをする現代の動物とは解剖学的に異なる骨格をしていることから、高速でのぶつかり合いはできなかったと考えられます。そのため、パキケファロサウルスがもし頭突きでの決闘をするとしたら、「騎士が馬に乗って突進する『馬上槍試合』タイプではなく、力士が頭を突き合せたまま押し合う『相撲』タイプだったのではないでしょうか」とウッドラフ氏は述べました。
by Rasmus Skov Larsen
ウッドラフ氏はこの研究結果を、カナダのトロントで2022年11月2日から5日まで開催された脊椎動物古生物学学会(SVP)の年次総会で発表しましたが、まだ専門家による審査がある査読付の学術誌に論文が掲載されたわけではありません。
ウィスコンシン大学オシュコシュ校の古生物学者でパキケファロサウルスの専門家であるジョセフ・ピーターソン氏は、科学系ニュースサイト・Live Scienceの取材に対し「これは、私たちが特定の動物に目を向ける方法にある種の変化をもたらす可能性があります。パキケファロサウルスは謎の多い恐竜ですが、今回の研究でパキケファロサウルスの見方に新たな視点が加わるでしょう」と語りました。
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