恐竜のバラバラの骨から「生きていた時の姿」を再構築するというパズルに挑む科学者たち
by Zissoudisctrucker
完全に無傷のティラノサウルスの骨の化石はこれまでに見つかったことがありませんが、研究者たちは2019年時点で、「ティラノサウルスの完全体とはどういうものか」を理解しています。なぜ研究者たちはティラノサウルスの骨を組み立てることができるのか、1900年代から始まった古生物学の歴史がYouTubeで公開されています。
How scientists solved this dinosaur puzzle - YouTube
1908年、アメリカのモンタナ州で古生物学者が鋭い歯を持つ肉食恐竜の骨の化石を発見しました。
当時、この化石は過去に発見された最大級のものでした。
研究者らはこの恐竜をティラノサウルス・レックスと名付けました。
発見されたティラノサウルス・レックスは2019年時点、ニューヨークにあるアメリカ自然史博物館で展示されています。
しかし、実は展示されている骨の全てが本物というわけではありません。1908年に発見されたのは頭蓋骨・尻尾・胸郭・椎骨の大部分のみ。
そのほかの骨は人工的に作られたものとなっています。なお、頭蓋骨は体とは別に展示されているため、以下の画像の赤色部分はすべて人工の骨というわけ。
古生物学者が恐竜の化石を発見するとき、完全な状態で見つかることはほとんどありません。この「化石」というパズルの欠けたパーツをどのようにして埋めていくのか、が大きな問題です。
恐竜の化石が発掘されはじめた1900年代、まだ謎を多く抱えていた当時の研究者たちは、「推測」を行う必要がありました。まず最初に考えられたのが、骨の正しい位置はどこか?ということ。
この問いは、現存する生き物を参照することが大きな助けとなりました。
「ティラノサウルス・レックスの骨の位置の推測には、鶏など生き物の特徴が参考にされました」と語るのは古生物学者でありアメリカ自然史博物館の学芸員でもあるMark Nore氏。
例えばティラノサウルス・レックスには3本の足指があり、その全てが前方を向いています。これは鶏の特徴と同じ。
S字の首を持っており……
背骨は地面に対して水平です。
またティラノサウルス・レックスは前腕と後脚が欠けています。研究者は存在する骨格から考えて、ティラノサウルス・レックスがアロサウルスに近い種だったと判断し、アロサウルスの化石を元にティラノサウルス・レックスの前腕と後脚を作ることにしました。
後年、ティラノサウルス・レックスの前腕と後脚の骨が見つかり、アメリカ自然史博物館の展示はそのレプリカと置き換えられたのですが、実際にアロサウルスとティラノサウルス・レックスの骨はかなり近い見た目であることがわかりました。
しかし、このような推測が必ずしも正しいわけではありません。首の長いアパトサウルスの場合は推測が正解とかなり違いました。
アパトサウルスが発見された当時、頭蓋骨が欠けていました。
この時、欠けたアパトサウルスの頭蓋骨は「カマラサウルスに近い」という推測で作られました。2種の恐竜は分類的にかなり異なり、カマラサウルスは頭頂から顎まで高さがあるのが特徴です。
カマラサウルスの頭蓋骨を得たアパトサウルスは当時、ブロントサウルスと呼ばれていました。
しかし1970年代に入って頭蓋骨が間違っていることがわかり、より正確な頭蓋骨が与えられ、ブロントサウルスはアパトサウルスと改められたわけです。
過去には多くの間違いが含まれましたが、2019年、博物館の展示は99~100%の確率で正確なものとなり、「推測」を要する部分は少なくなっています。
これは、恐竜という分野の古生物学者が増加し、週一度という頻度で化石が発見されているため。
恐竜の化石が発掘される数が増加するにつれ、その姿を正確に再現することが可能になってきたのです。
完全な姿のティラノサウルス・レックスの化石は見つかっていなくとも、多くの情報からティラノサウルス・レックスの骨の形を作り出すことが可能になりました。
「30年前、私が初めてこの職に就いた時、ティラノサウルス・レックスは10体しか発見されていませんでしたが、今では46体が見つかっています」とNore氏は語っています。この46体の骨を全て合わせれば、1つの「完成図」を作り出すことができるわけです。
シカゴのフィールド自然史博物館に展示される「スー」というティラノサウルス・レックスは、90%以上骨が残っているという現存する化石の中で最も保存状態がいいもの。
研究者たちはスーの左足をスキャンし……
それをもとに同じサイズの右足を作り出しました。このような技術の発達によっても、「恐竜の頭を間違える」という事態は近年では起こりにくいというわけです。
研究者たちの疑問は「どんな骨格を持っていたのか?」ということから、「どのように動いていたのか?」「どのように成長していたのか?」「どのように生きていたのか?」という点に移ってきています。
古生物学者たちは神経科学者や材料工学者、エンジニアたちと協力し、これらの謎の解明に取り組んでいるとのこと。この取り組みは30年前では考えられなかったことです。
Nore氏とその研究チームは目下、ティラノサウルス・レックスの、これまで以上に「生きている状態に近い」フルモデルを再構築するプロジェクトに取り掛かっているとのこと。
化石の展示は、ただ単に「発見」の自慢をしているわけではなく、「人類がどのように化石を発見したのか」「何百年前に地球上を歩いていた生物はどんな姿だったのか」という「物語」を語るもの。それゆえに、発見されたそのままの姿ではなく、骨を寄せ集めて再構築することが大切になるとNore氏は語りました。
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