新種のティラノサウルスが発見され「死神」と命名される

ティラノサウルス属の種として知られている恐竜は、「Tyrannosaurus rex(ティラノサウルス・レックス)」のみですが、2020年2月10日にティラノサウルス科に属する新種として、「Thanatotheristes degrootorum」という学名の恐竜の化石が発見されました。この新種の恐竜は、同時期に生態ピラミッドの頂点に君臨していたと思われることから、ギリシャ神話の死神「タナトス」と呼ばれています。

Announcing a New Meat-eating Dinosaur from Alberta | Inside the Royal Tyrrell Museum
https://royaltyrrellmuseum.wpcomstaging.com/2020/02/10/announcing-a-new-meat-eating-dinosaur-from-alberta/

カルガリー大学とロイヤル・ティレル古生物学博物館の研究者たちが、白亜紀の恐竜に関する最新の研究を発表しました。同研究に携わったロイヤル・ティレル古生物学博物館の恐竜・古生態学の学者であるフランソワ・セリエン博士は、「カナダで発見されたティラノサウルスのうち、過去50年間で初の新種」として、「死神」という呼び名の新種のティラノサウルスを見つけたことを喜んでいます。

これまでカナダで発見されたティラノサウルスとしては、1970年に発見されたダスプレトサウルスが最新のものでした。ダスプレトサウルスはティラノサウルス科の恐竜ではあるものの、ダスプレトサウルス属の種として分類されています。

研究グループはカナダのアルバータ州で発見された新種の化石を分析することで、化石が新種の恐竜の頭蓋骨の一部であると結論づけています。同研究に参加したカルガリー大学のJared Voris氏は、「Thanatotheristes degrootorumは頭蓋骨に多くの特徴を持っており、最も顕著な特徴としては、長い上顎に沿って走る縦隆線があります」と語っています。

研究チームによると、Thanatotheristes degrootorumは約7950万年前の恐竜で、近縁種のティラノサウルス・レックスよりも250万年も昔に生息していたとみられています。これまでカナダで発見されたティラノサウルス科の恐竜は、ダスプレトサウルス、ゴルゴサウルス、アルバートサウルス、そしてティラノサウルス・レックスのみでした。

加えて、Thanatotheristes degrootorumの化石が見つかったカナダのアルバータ州で、過去に見つかった恐竜の化石は7700万年前から6600万年前のものであるとことが明らかになっています。さらに、Thanatotheristes degrootorumと同時期にアルバータ州で生息していたと推測される恐竜はコレピオケファレとゼノケラトプスのみであることから、Thanatotheristes degrootorumが同時期に生態ピラミッドの頂点に君臨していたと研究チームは分析しました。

頂点捕食者であったことから、新種の恐竜はギリシャ神話の死神である「タナトス(Thanatos)」と、収穫する人を意味する「テルシーテース(Thersites)」から、「Thanatotheristes」と名付けられました。なお、名前の後半部分にある「degrootorum」は、化石の発見者であるジョン・デ・グルート氏の名前に由来しています。

ロイヤル・ティレル古生物学博物館のジュリアス・T・ソトニー氏が描いたThanatotheristes degrootorumのイラスト

農家として働くグルート氏は、アルバータ州のヘイズという土地をハイキングしていた際にThanatotheristes degrootorumの化石の破片を発見しています。グルート氏は「顎骨の化石は本当に素晴らしい発見でした。化石化した歯をはっきりと見ることができるため、この化石が特別なものであることはすぐにわかりました」と語っています。

化石の発見者であるグルート氏。同氏は家族と共にアルバータ州南部で古生物学のフィールドワークを支援しています。

ジョン・デ・グルート氏の妻であるアンドラ・デ・グルート氏は、「ジョンはいつの日か恐竜の化石を見つけるんだと言っていました。そのため、顎骨の化石を発見したことは非常に刺激的な体験でした。それどころか、発見した化石が新種のものであることがわかり、さらに我々の姓が名前につけられたというのは信じられないことです」と語っています。

なお、研究に参加したセリエン博士は「この発見はティラノサウルスの進化を理解するためのギャップを埋める重要なものです」と語り、白亜紀のアルバータ州ではティラノサウルスがこれまで考えられてきたよりも多様であったと指摘しています。