タコが他のタコに物を投げる様子が初めて捉えられる、コミュニケーションの一環と研究者

子どものころ、家族や友だちとキャッチボールをして遊んだ記憶がある人は多いはず。最近の研究により、遊んでいるかどうかは不明ながら、タコが社会的なコミュニケーションとして貝殻や泥の塊などを他のタコに投げている様子が初めて映像に収められました。

In the line of fire: Debris throwing by wild octopuses | PLOS ONE
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0276482

Octopuses caught on video throwing silt and shells around themselves and at each other
https://phys.org/news/2022-11-octopuses-caught-video-silt-shells.html

Duck! Octopuses caught on camera throwing things at each other
https://doi.org/10.1038/d41586-022-03592-w

物を投げるのは器用な動物にしかできないため、人間以外では霊長類の一部やゾウなど、ごく一握りの動物にしか見られない珍しい行動です。オーストラリアにあるシドニー大学のピーター・ゴドフリー＝スミス氏らの研究チームは、2022年11月9日に査読付き科学雑誌のPLOS ONEに掲載された論文で、タコが他のタコに物を投げる行動を初めて撮影することに成功したと発表しました。

タコが泥や貝殻などを投げている様子は、以下から見ることができます。

Octopuses caught on video throwing silt and shells around themselves and at each other - YouTube


2匹のシドニー・オクトパス(Octopus tetricus)が海底で向き合っています。

右のタコが腕を振り上げたかと思うと、左のタコが右のタコに何かを吹きかけました。これは墨を吐いているのではなく泥の塊を投げつけているとのこと。

今度は、持ち上げた腕の下に貝殻が見えます。

タコが数枚の貝殻を放り投げました。

タコは投てきをする際に、貝殻などを腕の付け根でつかみ上げてから、「漏斗(ろうと)」と呼ばれる器官からジェット水流を吹き出して、その勢いで物を投げていました。漏斗はタコが水中を泳ぐ際にも使われますが、物を投げる際は通常とは異なる腕の動かし方をしなければならないため、この映像は「偶然に貝殻や泥が吹き飛ばされたのではなく、意図的に物を投げるための行動を記録したものだ」と研究チームは推測しています。

この研究の中でゴドフリー＝スミス氏らは、2015～2016年にかけてオーストラリア南東部のジャービス湾に生息するシドニー・オクトパス(Octopus tetricus)を水中カメラで撮影しました。その結果、約10匹のタコが貝殻や泥、海草などを合計102回投げるのが確認されました。

その中には単に食べ残しを投げ捨てているように見えるものもありましたが、投てきの多くは周りに他のタコがいる時に行われていたとのこと。投てきはオスとメスの両方で見られましたが、66％がメスによるものでした。また、投てきの約半分は腕を絡め合っている時や交尾を試みている時など、他のタコとの相互作用の最中やその前後に行われ、約17％が命中していました。

タコは体の色を変えることが可能で、攻撃的になると体が暗い色になりますが、投てき行動は体が暗い色になっている時ほど投げつける勢いが強く、命中率も高めでした。また、物を投げつけられた側も、体をかがめたり腕を投げられた物の方向に伸ばしたりして、投てきに対して何らかの反応を示している様子が観察されました。その一方で物を投げ返して反撃したケースはなく、物を投げられたのがきっかけでタコ同士の戦闘が発生することもありませんでした。

研究チームはまた、投てきの一部は水中カメラに向けたものだったことや、カメラを狙った投てきはカメラを誤って巣穴に近づけすぎた時に特に多く発生したことも報告しています。

今回の研究には直接携わっていないナポリ大学のタマル・ガトニック氏は、科学誌のNatureによる取材に対して「この論文は、賢いことで有名な動物の社会生活に関する調査に、新たな道を開くものです。このタコの個体間の相互作用は、ある意味でコミュニケーションと言えるでしょう」とコメントしました。