サイエンス

2つのウイルス株を組み合わせた「ハイブリッド新型コロナウイルス」をボストン大学が作成、危険だと非難する声に大学側は反論


アメリカのボストン大学国立新興感染症研究所(NEIDL)の研究チームが、パンデミック初期に流行した武漢株とオミクロン株を組み合わせた「ハイブリッド新型コロナウイルス」を作成しました。実験用マウスの80%が死亡したと報告されたことから、危険な研究だと非難する論調の報道も見られますが、大学側はこれらの報道は「虚偽で不正確」だと反論しています。

Role of spike in the pathogenic and antigenic behavior of SARS-CoV-2 BA.1 Omicron | bioRxiv
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2022.10.13.512134v1.full


NEIDL Researchers Refute UK Article about COVID Strain | The Brink | Boston University
https://www.bu.edu/articles/2022/neidl-researchers-refute-uk-article-about-covid-strain/

Researchers’ tests of lab-made version of Covid virus draw scrutiny
https://www.statnews.com/2022/10/17/boston-university-researchers-testing-of-lab-made-version-of-covid-virus-draws-government-scrutiny/

The hybrid consists of the omicron variant's spike protein attached to the original virus | Live Science
https://www.livescience.com/hybrid-covid19-virus-sparks-controversy

NEIDLの研究チームは2022年10月14日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック初期に流行した武漢株に、記事作成時点の主流株であるオミクロン株のスパイクタンパク質を融合させた遺伝子組み替え新型コロナウイルス(ハイブリッド株)を作成したという論文を、査読前論文のデータベースであるbioRxivで公開しました。

研究チームが実験用マウスを用いて武漢株・オミクロン株・ハイブリッド株の致死性を調査したところ、武漢株では実験用マウスの100%が死亡し、オミクロン株ではマウスが死亡せず、ハイブリッド株では80%が死亡したとのこと。この研究結果から、研究チームは「オミクロン株の重症度が低いのはスパイクタンパク質の変異ではなく、別のタンパク質が原因となっている」と結論づけました。論文の責任著者であるNEIDLのMohsan Saeed助教は、「これらのタンパク質を特定することで、より優れた診断や疾病管理戦略が可能になります」というコメントを発表しています。


この論文について、イギリスのデイリー・メールは「マウスの80%を殺す『ハイブリッド新型コロナウイルス』を開発した」と報じ、この研究は危険であり禁止されるべきだと非難する研究者のコメントも紹介しました。

Outrage as Boston University CREATES Covid strain that has an 80% kill rate | Daily Mail Online
https://www.dailymail.co.uk/health/article-11323677/Outrage-Boston-University-CREATES-Covid-strain-80-kill-rate.html


イスラエルの科学者であるShmuel Shapira氏は「これは火遊びのようなものであり、完全に禁止されるべきです」とコメントしたほか、アメリカ・ラトガース大学のRichard Ebright教授は「これは機能獲得研究の明確な例です。私たちが次の『実験室で作られるパンデミック』を避けるためには、強化された潜在的なパンデミック病原体研究の監視を強化することが必要です」とデイリー・メールに語りました。いくつかのメディアもデイリー・メールに追随し、ハイブリッド新型コロナウイルスの開発を非難する論調で報じたとのこと。

ボストン大学はこれらの報道に対し、「私たちは、デイリー・メールに掲載されたボストン大学のCOVID-19研究についての虚偽で不正確な報道に言及したいと思います。まず、この研究は機能獲得研究ではありません。つまり、ワシントン州で発見された新型コロナウイルス武漢株を増強したり、より危険な状態にしたりしたわけではないのです。実際、この研究ではウイルスの複製をより危険の少ないものにしました」と反論する声明を発表しています。

NEIDLのディレクターであるRonald Corley氏は、「メディアはメッセージをセンセーショナルなものにして、研究とその目標全体を誤って伝えました」「私たちはウイルスのどの部分が病気の重症度を左右するのかに興味があったのです」と述べています。研究に使われたマウスは非常に感受性の高いタイプであり、人間の致死率が1%未満である武漢株ですら100%の致死率だったことから、「80%の致死率」という部分だけを抜き出すことは文脈をゆがめると指摘しました。また、研究は複数の安全性レビューを経て承認され、バイオセーフティレベル3の施設で行われた安全なものだったとのこと。


しかし、デイリー・メールSTATの報道では、プロジェクトに資金提供を行った機関の1つである国立アレルギー感染症研究所(NIAID)に対し、NEIDLが研究内容を開示しなかったとされています。

NIAIDの微生物・感染症部門のディレクターを務めるEmily Erbelding氏はSTATの取材に対し、ボストン大学の助成金申請書には研究の正確な内容が示されていなかったと指摘し、「今後数日間、私たちはボストン大学と対話をすることになると思います」と述べています。また、研究チームがキメラウイルスを開発していることを知っていれば、NIAIDはリスク評価委員会を招集していたはずだと述べ、「私たちがしたかったのは、研究チームが何をしたいのかを事前に話し合うことです」と主張しました。なお、Erbelding氏は実験用マウスの致死率が人間とは異なり、「80%の致死率」という見出しは適切ではないとの見方を示しました。


一方でボストン大学は、NIAIDの資金提供は研究で使われたツールやプラットフォームの開発支援に使われたものの、実験自体はボストン大学の資金提供を受けて行われたものだと主張。さらに、今回の研究は機能獲得研究ではなかったという点も強調し、「私たちは、必要なすべての規制上の義務とプロトコルを果たしました。NIAIDのガイドラインとプロトコルに従って、私たちは2つの理由でこの研究を開示する義務を負いませんでした」と述べています。

科学系メディアのLive Scienceは、この食い違いはNIAIDのフレームワークにある曖昧さに起因する可能性があると述べています。研究チームは、実験に使用したマウスが人間に十分類似しているとは考えておらず、ウイルスがヒトにおいてパンデミックを引き起こす可能性があると合理的に予想しなかったのかもしれないと指摘しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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