従業員監視のためにウェブカメラをオンにさせるのはプライバシーに反するので人権侵害だという判決が下る
リモートワークの普及に伴って、「従業員の仕事をウェブカメラを通して監視する」という仕組みを導入する企業も増えていますが、ウェブカメラによる監視を不快に思う人も多いはず。オランダでは、「ウェブカメラでの監視を拒否した」という理由で従業員を解雇した企業に対して、プライバシー侵害や不当解雇の補償として合計約7万5000ユーロ(約1000万円)の支払いを命じる判決が下りました。
ECLI:NL:RBZWB:2022:5656, Rechtbank Zeeland-West-Brabant, 10072897 AZ VERZ 22-61
https://uitspraken.rechtspraak.nl/inziendocument?id=ECLI:NL:RBZWB:2022:5656
Dutch employee fired by U.S. firm for shutting off webcam awarded €75,000 in court | NL Times
https://nltimes.nl/2022/10/09/dutch-employee-fired-us-firm-shutting-webcam-awarded-eu75000-court
問題の裁判は、アメリカに拠点を置くソフトウェア開発企業「Chetu」にリモート勤務していたオランダ人従業員が解雇されたことに端を発しています。解雇された従業員は2019年1月からChetuで働いていたものの、2020年8月23日に「是正措置プログラム」への参加を求められ、プログラムへの参加中は画面共有を有効化しウェブカメラをオンにするように命じられたとのこと。
従業員は2020年8月25日に、プログラムへの参加要求に対して「1日9時間もカメラで監視されるのはプライバシーの侵害であり不快です。私は画面共有を有効化しており、ノートPC上のすべてのアクティビティを監視可能なはずです」と返信。その翌日、従業員は「労働拒否」と「反抗的態度」を理由に解雇されてしまいました。
Chetuを解雇された従業員は、解雇から数週間後に「解雇を正当化する緊急の理由は存在しなかった」「ウェブカメラをオンにする要求は理不尽であり、プライバシー規則に反している」としてChetuに対する訴訟を提起しました。一方でChetuは「リモートワークにおけるウェブカメラでの監視は、オフィスで管理者に監視されている状況と同じ」「ウェブカメラの映像を保存する意図はなかった」と主張し、プライバシーの侵害を否定していました。
訴訟の結果、裁判所は私生活の尊重を規定するヨーロッパ人権条約第8条や「従業員を監視する際は厳しい条件が課される」とした過去の判例を引用し、「ウェブカメラをオンにし続ける命令は、従業員のプライバシーを侵害するものです」と述べ、Chetuに解雇が法的に無効であるとする判決を下しました。
裁判所は、Chetuに対して「未払い給与2700ユーロ(約38万円)以上」「不当解雇の補償金として8375ユーロ(約118万円)」「労働移行支援として9500ユーロ(約134万円)」「追加補償として5万ユーロ(約707万円)」「裁判費用約585ユーロ(約8万円)」に加えて23日分の未取得休暇分などを含む合計約7万5000ユーロ(約1000万円)の支払いを命じています。
なお、オランダのメディア・NL Timesによると、判決が1750ユーロ(約25万円)を超えるオランダの民事訴訟では、判決から3カ月以内に控訴が可能とのことです。ただし、記事作成時点では互いの控訴の意思は明らかになっていません。
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