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YouTubeをアルゴリズムが支配する前はどのようにおすすめ動画が紹介されていたのか?


YouTubeは強力なアルゴリズムにより、ユーザーの視聴傾向や興味を持っているジャンルについて「おすすめ動画」をピックアップしています。そのようなアルゴリズムが導入される前の、YouTube初期の頃におすすめ動画を選んでいた「coolhunters」の活動について、アメリカで月刊誌を発行するThe Atlanticがまとめています。

Before YouTube’s Algorithm, There Were ‘Coolhunters’ - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/technology/archive/2022/09/youtube-homepage-editor-google-algorithm-book-excerpt/671339/


2005年にサービスを開始したYouTubeは、当初は主に友人から送られたムービーのリンク、Google検索でヒットしたリンク、ブログなどに埋め込まれたリンクから、人気のあるムービーや趣味に合うコンテンツを視聴できるようにしていました。2006年までにYouTubeは1日に1億回以上の視聴回数を記録し、同年後半にはアメリカの加入者数第1位の携帯電話事業者であるベライゾン・ワイヤレスと契約し、携帯電話にYouTubeの限定バージョンが搭載されるようになりました。この際にYouTubeは新しく担当者を雇い、ベライゾンなどのパートナー向けのパッケージをプログラムしました。2006年10月には、スタートアップであったYouTubeをGoogleが16億5000万ドル(約2000億円)で買収しています。

携帯会社との提携やGoogleからの買収の影響もあり、iTunesの元マネージャーで新しくYouTubeの編集者として入社したミア・クアリアレロ氏は、さらにジャーナリストやラジオDJ、当時YouTubeに投稿していたユーザーを迎え、少数のスタッフチームを結成しました。チームはYouTubeに投稿されるスポーツ、コメディ、政治などの分野のコンテンツを選別して、視聴者が気に入るかもしれないムービーを見つけ出すという作業を行い始めます。このスタッフチームは当時「コミュニティマネージャー」と呼ばれていましたが、スタッフらはメンバーの一人が考えた「coolhunters」を自称していたとのこと。

coolhuntersのスタッフはそれぞれ、ヒットするムービーを見つける独自の方法を持っていたそうです。メンバーの1人であるサディア・ハーパー氏の場合は、毎朝ブログや独自のルートから集めたリストを精査し、興味深い動画を探し当てたら、YouTubeの「おすすめ動画」バナーに追加していました。当時の「おすすめ動画」バナーは、小さなサムネイルとともにムービーが10列に積み上げられており、coolhuntersはそれを4時間ごとに入れ替えていました。


YoutubeがGoogleに買収されてから数年間、親会社であるGoogleは、YouTubeの法廷闘争に協力したり、YouTubeの拡大に資金提供したりといった援助は行っていたもののYouTubeにあまり干渉することなく、YouTubeはほとんど独立した状態にあったとのこと。しかし次第にGoogleのやり方がYouTubeにも浸透していきます。そのやり方こそ、昨今では一般的となったアルゴリズムによるおすすめ表示でした。YouTubeの元マネージャーであるアンディ・スタック氏は「Googleが問題を解決するために採用する手段は、人ではなく機械を投入することです」と語っています。

ハーパー氏も同様の体験を語っています。当時YouTubeの広がりを目標にしてcoolhuntersが新しいカテゴリの開拓を行った際に、車好きのハーパー氏はカーレースやエンジンに関するムービーなどをおすすめ動画として掲載していました。ある日、エンジニアが「最適なクリック数を得るためのホームページを設計するアルゴリズムを開発した」と説明し、そのテストをハーパー氏がまとめていた車のカテゴリで開始しました。その結果、高級車の車内でヒールを履いた女性がアクセルを踏んでエンジンを「空ぶかし」させるようなムービーが「クリック率が高い」ということでピックアップされたため、ハーパー氏は「これはフェチズムの動画であり、ユーザーにおすすめ動画を提供する私たちの目的ではありません」と抗議したとのこと。


YouTubeのアルゴリズムは年々改善され、ただクリックされた数だけではなく、ユーザーがそのムービーをどれだけ長く視聴したか、視聴開始したのは何時か、どこからどのような人が見たか、などの詳細を測定できるようになりました。また、当時は人間のモデレーターに任せていたわいせつなコンテンツの削除を自動的に行うソフトウェアも開発されています。それに伴いYouTubeの収益性が大きく上がっていくにつれて、文化的な価値の上昇や広がりを目指したcoolhuntersは、YouTubeの商業的な将来とかみ合わなくなっていきました。また、著作権侵害でYouTubeが訴えられる際にも、「投稿されたコンテンツを選別して特集する」という人力の作業が、「YouTubeは無干渉のプラットフォームである」という主張が退けられる原因となっていました。

2010年ごろ、新しいYouTubeのプロダクトマネージャーがパーソナライズされたアルゴリズムを提案しました。これにより、YouTubeのホームページに表示される「おすすめ動画」を各ユーザーにとってより関連性が高いものにできたため、coolhuntersの仕事は完全にアルゴリズムに取って代わられることになります。その直後である2010年内にcoolhuntersは解散し、スタッフのほとんどはマーケティング事業部に異動し、「おすすめ動画」の選別は機械が行うようになりました。

The Atlanticは「最初のヒットを生んだcoolhuntersがなければ、YouTubeはポップカルチャーの定番にはならなかったでしょう。しかし同時に、人間のキュレーターに頼り続けていたら、YouTubeは今のような巨大なプラットフォームにはならなかったかもしれません」と述べています。

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in ネットサービス, Posted by log1e_dh

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