サイエンス

なぜ頭脳労働は体を動かさないのに「疲れる」のか?


物事について真剣に考える頭脳労働は、見かけ上はただ寝転がっていたり座っていたりするのと変わりませんが、実際には強い疲労を感じることがあります。新たな研究では、激しい運動が肉体を消耗させるように、頭脳労働も本当に脳を消耗させている可能性があると示されました。

A neuro-metabolic account of why daylong cognitive work alters the control of economic decisions: Current Biology
https://doi.org/10.1016/j.cub.2022.07.010

Why thinking hard makes you tired | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/960845

It Really Is in Your Head: Thinking Hard And Long Can Cause Brain Drain : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/it-really-is-in-your-head-thinking-hard-and-long-can-cause-brain-drain

激しい肉体労働をした人は全身に汗をかいたり、筋肉が震えたり、呼吸が激しくなったりしていることから、見かけからすぐに疲れていることがわかります。一方、頭脳労働は見た目がそれほど変わることはなく、本人が「疲れている」と言わなければ疲れているかどうか判断できません。それでも、実際に学校のテストや難しい課題について考え抜いた経験がある人なら、「頭脳労働は疲れる」ということに同意できるはずです。

この疲労は一種の認知的疲労に近いもので、眠気がするというよりも、何かのタスクを実行したりそれに集中したりするのが困難になるという感覚だといえます。しかし、科学者らは一体なぜ頭脳労働が疲れるのか、まだよく理解していないとのこと。


新たな研究では、うまみ成分の1つとして知られるグルタミン酸が頭脳労働の疲労に関わっている可能性が示されました。グルタミン酸は中枢神経系における主要な興奮性神経伝達物質であり、主に記憶や学習といった高次脳機能において重要な役割を果たしている一方、グルタミン酸が過剰になるとニューロンが興奮しすぎて死んでしまうことが知られています。

研究チームは、24人の被験者に6時間を超える激しいコンピュータータスクを行わせ、MRIの一種であるMRスペクトロスコピーを使って脳内をモニタリングする実験を行いました。その結果、たくさん頭を使った被験者では、短期記憶や意思決定といった高次認知力に関わる前頭前野外側部において、グルタミン酸が増加していることがわかりました。

一方、同じ日に簡単なコンピュータータスクを行わせた16人の被験者においては、前頭前野外側部におけるグルタミン酸の増加は確認されませんでした。これらの結果から、研究チームはグルタミン酸の増加が人間の精神的持久力を制限する要因の1つではないかと推測しています。


頭脳労働による疲労に関してこれまでに提唱された仮説の中には、「脳のエネルギー不足が原因だ」「ドーパミンの減少が影響している」など、何かしらの不足が原因とみるものが多かったとのこと。しかし、過剰だと有害物質になり得るグルタミン酸の増加を原因とする仮説は、頭脳労働が本当に脳の機能的変化をもたらしていることを示唆するものです。

論文の上級著者で臨床心理学者のMathias Pessiglione氏は、「グルタミン酸が睡眠中にシナプスから排除されるという証拠があります」と述べ、脳の疲労を回復するには休息と睡眠が必要かもしれないと主張しました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「脳の疲れ」が時間をゆがませている可能性 - GIGAZINE

あなたがいつも疲れている理由は何なのか? - GIGAZINE

脳をフル活用するとカロリーが大量に消費されるというのは本当か? - GIGAZINE

仕事に集中して最高の生産性を得るには「休憩を取る」ことが必要 - GIGAZINE

長時間労働の悪影響から効果的に回復できる習慣とは? - GIGAZINE

週休3日制を導入するとストレス軽減&生産性が20%も向上し、週休2日制と変わらない仕事量を維持できることが明らかに - GIGAZINE

「週4日労働」で従業員のストレスレベルと生活満足度が改善されたという報告 - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.