菌を用いて生産する「合成乳」は牛乳の代わりになるのか?
近年、動物由来の材料を用いずに作られた代替肉の開発が活発に行われており、ファストフード店などでも代替肉を手軽に食べられるようになりました。実は、肉だけでなく「牛乳」についても「牛に依存せずに合成乳を作り出す」という研究が行われており、複数の製品が実際に市場に流通しています。そんな合成乳の必要性や流通状況について、オーストラリアのマッコーリー大学で食料生産システムや代替タンパク質について研究するミレナ・ボヨヴィッチ氏が解説しています。
Not like udder milk: 'synthetic milk' made without cows may be coming to supermarket shelves near you
https://theconversation.com/not-like-udder-milk-synthetic-milk-made-without-cows-may-be-coming-to-supermarket-shelves-near-you-189046
ボヨヴィッチ氏によると、世界人口の約80%が日常的に乳製品を食べているとのこと。しかし、牛を育てる際にはメタンや二酸化炭素などの温室効果ガスが大量に放出されており、気候変動の大きな原因の1つとなっています。近年、気候変動対策の必要性が叫ばれており、畜産や酪農から持続的な形態の食料生産システムへの移行を求める声が高まっています。このため、ボヨヴィッチ氏は牛に依存せずに生産できる合成乳の普及が必要だと主張しています。
合成乳を生産する際に重要な技術が、菌を管理して狙い通りの分子を生産させる「precision fermentation(精密発酵)」です。アメリカの企業「Perfect Day」は、微生物を用いてタンパク質を生産し、そのタンパク質を利用して合成乳やアイスクリーム、プロテインなどを製造しています。
代替肉は食感や味を本物に合わせるのが困難とされていますが、オーストラリアで合成乳を製造する「Eden Brew」は、自社が製造する合成乳について「本物の牛乳と味・見た目・食感が同じ」とアピールしています。また、オーストラリアで精密発酵を用いた合成乳を開発する「All G Foods」は、2022年には2500万オーストラリアドル(約17億円)の調達に成功。All G Foodsのジャン・パカスCEOは「7年以内に、合成乳を牛乳より安い価格で提供することを目指します」と述べており、合成乳市場を拡大する意欲を見せています。
アメリカの精密発酵産業は2030年までに70万人の雇用を創出するという調査結果が存在しており、精密発酵によって生産されたタンパク質を用いた食品が広く流通するようになると予測されています。一方で、精密発酵を用いる大規模な合成乳生産業者が登場した場合、小規模な合成乳生産業者や従来の酪農家が市場から追いやられる可能性もあります。ボヨヴィッチ氏は「今後、合成乳市場が拡大する際に、従来の食料生産システムで見られた不平等を解決しなければなりません。また、伝統的な酪農家は動物を用いた食料生産の社会的利益を最大化し、気候変動への影響を抑えるように努める必要があります」と述べています。
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