キヤノンが自社設立のシンクタンクの「気候変動否定記事」で環境活動家から圧力を受けているとの報道
by DennisM2
キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)が公開した気候変動に関する記事や書籍で、気候変動が「フェイクニュース」とされていることを問題視している環境活動家らが、CIGSを設立した大手精密機器メーカーのキヤノンに「記事が撤回されるまでCIGSへの資金提供をやめるように」と要求していると、イギリスの大手一般新聞・The Guardianが報じました。これに対しキヤノンは、「CIGSの活動は当社の事業ではないためコメントする立場にない」と説明しています。
Thinktank linked to tech giant Canon under pressure to remove ‘dangerous’ climate articles | Climate science scepticism and denial | The Guardian
https://www.theguardian.com/environment/2022/feb/27/thinktank-linked-to-tech-giant-canon-under-pressure-to-remove-dangerous-climate-articles
環境活動家らによって問題視されているのは、CIGSの研究主幹である杉山大志氏が気候変動や環境政策について論じた一連の記事です。杉山氏は、CIGSのウェブサイト上で公開されている記事で、「災害のたびに地球温暖化のせいだと騒ぐ記事があふれるが、悉くフェイクニュースである」と論じています。また、別の記事の中で杉山氏は、環境運動家のグレタ・トゥーンベリ氏が第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)の国際会議場に呼ばれなかったことを指摘。トゥーンベリ氏について、「環境運動家から共産主義者に転向してしまったので、気候変動をネタに金を儲けようとしているCOPに集う人々に都合が悪くなったのだ」と主張しました。
杉山氏は他にも、2022年1月に出版された書籍「15歳からの地球温暖化 学校では教えてくれないファクトフルネス」の中で、地球温暖化による絶滅が危惧されているホッキョクグマの生息数が実際には増えていることなどを示した上で、子どもに対して環境教育への再考を促しているとのことです。
15歳からの地球温暖化 学校では教えてくれないファクトフルネス | 杉山 大志 |本 | 通販
気候変動や、環境問題に対する取り組みに対して懐疑的な杉山氏の論調に対し、複数の専門家が反論しています。杉山氏と同じくCIGSの研究者であるジェフリー・ブレイスウェイト教授は、The Guardianの取材に対し「常識から大きく外れており、エビデンスに基づくものでもありません。地球温暖化と気候変動、そしてその影響について収集されたエビデンスに明らかに反しています。擁護できるものではありません」とコメントしました。
ブレイスウェイト教授は、気候ではなくヘルスケア研究の第一人者ですが、地球温暖化が人の健康にもたらす影響について科学的に追究してきた立場から、気候変動を否定する主張には受け入れがたいものがあると話しています。そこでブレイスウェイト教授は、CIGSに杉山氏の記事に対する懸念を表明しましたが、CIGS側は研究者にある程度の裁量を認めているとの立場から、杉山氏の記事の取り下げには消極的とのことでした。
日本の気象学者からも異論が出ています。国立環境研究所の上級主席研究員である江守正多氏は、「私は杉山氏の議論が、世界中の気候変動懐疑論者の典型的な戦略を用いていることに気がつきました」と述べて、杉山氏のデータの解釈は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の結論と矛盾しており、気候変動に関する情報源としての信頼性には疑問の余地があるとの見方を示しました。
CIGSを設立したキヤノンにも問題が波及すると指摘する専門家もいます。企業の気候変動対策の分析を手がけるシンクタンクのInfluenceMapの事務局長であるディラン・タナー氏は、「問題なのは、杉山氏の見解がCIGSのスタンスだと見なされる可能性があるということです。そうなれば、環境の持続可能性に関するキヤノンの立場から、同社が『真のレピュテーション(風評)リスク』に直面する可能性があります」と述べて、キヤノンの企業イメージの悪化が懸念されると強調しました。
キヤノンに対し、特に踏み込んだ対応を求めているのが、企業の気候変動に関する責任の追及をテーマとしている市民団体のAction Speaks Louderです。同団体の事務局長であるジェームズ・ローレンツ氏は、「キヤノンのブランドが、子どもたちに危険な気候変動否定論を広め、化石燃料を支持するハイレベルな政策提言活動を行うための拠点として利用されています」と指摘。CIGSが出した記事や書籍が撤回されるまで、キヤノンはCIGSへの支援を中止する必要があると述べました。
こうした議論を踏まえ、The Guardianはキヤノンに「CIGSへの財政的な支援はあるか」「杉山氏の見解は、世界の繁栄と人類の幸福のために貢献していくことを目指すとの企業理念と一致していると考えるか」について問い合わせました。
これに対し、キヤノンは「CIGSは独立して運営されている民間の非営利シンクタンクであり、キヤノンの事業の一部ではありません。従って、私たちは研究所の活動や個別の研究についてコメントする立場にはありません」と回答しました。
The Guardianは杉山氏に対しても2回メールで問い合わせをしていますが、返事はなかったとのことです。
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