サイエンス

空気がきれいになるにつれてハリケーンの発生数が増加していることが判明


アメリカやヨーロッパでは過去数十年にわたって公害防止の取り組みが進められたことで大気汚染が減少し、人々は昔よりきれいな空気を吸えるようになっています。ところが、アメリカ海洋大気庁(NOAA)の地球流体力学研究所に所属する村上裕之氏が科学誌のScience Advancesに発表した論文では、北半球西部で大気汚染が減少するにつれて、大西洋における熱帯低気圧(ハリケーン)が増加しているとの結果が示されました。

Substantial global influence of anthropogenic aerosols on tropical cyclones over the past 40 years
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abn9493

Study finds cleaner air leads to more Atlantic hurricanes
https://phys.org/news/2022-05-cleaner-air-atlantic-hurricanes.html

There's an Unfortunate Causal Link Between Cleaner Air And Atlantic Hurricanes
https://www.sciencealert.com/in-a-cruel-twist-study-finds-cleaner-air-leads-to-more-atlantic-hurricanes

人間の産業活動や自動車などによって排出されるホコリ・スス・硫酸塩といった物質は、空気中を漂うエアロゾルとなります。人為的に発生したエアロゾルは大気汚染を引き起こしますが、同時にエアロゾルが地球に降り注ぐ太陽光を遮断し、地球温暖化の影響を軽減していることもわかっているとのこと。実際に、大気中で酸化すると硫酸塩となる二酸化硫黄を成層圏に散布することで地球温暖化を防ぐという試みも議論されています。

成層圏に二酸化硫黄をまいて太陽光を遮断して地球温暖化を防ごうという「Geoengineering」とは? - GIGAZINE


NOAAでハリケーンの研究を行っている村上氏は、自然の気候サイクルでは説明できない地球のさまざまな地域における熱帯低気圧の活動の変化を説明するため、多数の気候シミュレーションをコンピューターで実行しました。過去40年間の大気汚染レベルと熱帯低気圧の発生について分析した結果、エアロゾルによる大気汚染が熱帯低気圧の発生に影響を及ぼしていることがわかったとのこと。

具体的には、ヨーロッパとアメリカにおいてエアロゾルが50%減少したことが、大西洋におけるハリケーンの約33%の増加と関連していたと村上氏は指摘しています。一方、中国やインドの発展により1980年~2010年にかけてエアロゾルが50%増加したアジアでは、西部太平洋における熱帯低気圧の発生件数が1980年~2000年から2001年~2020年にかけて14%減少していることがわかりました。


これは、エアロゾルの冷却効果が特定の海域における海水温を低下させるため、熱帯低気圧の発生に必要な「温かい海水」という条件が整いにくくなることが原因です。また、エアロゾルの減少は北緯30度付近で東から西に向かって吹いている亜熱帯ジェット気流を北方向に押し上げており、これも熱帯低気圧の発生を助長する結果となっているとのこと。

気候変動に伴う財務リスク分析を行うThe Climate Serviceのハリケーン学者であるJim Kossin氏は、今回の研究結果を受けて「これが、1970年代~80年代は静かだった大西洋が、1990年代半ばから激しく狂ってしまった理由です」とコメントしました。


近年では地球温暖化の影響で熱帯低気圧が大型化して強力になると共に、移動速度がゆっくりになっていることも示されています。しかし、大気汚染は「人間にとって最も深刻な健康リスク」と指摘されているため、熱帯低気圧の発生を抑えるためにエアロゾルによる大気汚染を増やすのはナンセンスです。

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ワシントン大学で健康と異常気象の関係について研究するKristie Ebi教授は、「大気汚染は多くの命を奪うほど重大な問題なので、熱帯低気圧の数がどうであれエアロゾル排出量の削減は重要です」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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