ココナッツを神聖視するカルト集団はなぜ滅んでしまったのか?
あるドイツ人がパプアニューギニアで発足させたカルト集団「ゾンネノーデン」は、太陽を崇拝し、太陽に近い場所で育つココナッツのみを食すという運動を行っていましたが、数年もたたないうちに解散してしましました。「人はココナッツだけで生きていくことはできない」ということを証明したこの集団について、ライターのゾーイ・バーナード氏が解説しています。
The Curious Case of August Engelhardt, Leader of a Coconut-Obsessed Cult - Gastro Obscura
https://www.atlasobscura.com/articles/august-engelhardt-coconut-cult
1902年、アウグスト・エンゲルハルトという名前の男性が本の詰まったスーツケースを持ってドイツを旅立ち、パプアニューギニアへと降り立ちました。エンゲルハルトは大学で物理学と科学を学んだ後に薬局で働き始めましたが、当時ドイツを席巻した菜食主義・生活改革運動に影響され、次第に健康に関心を抱くようになりました。そのため、エンゲルハルトは自身の理想とする「楽園」を求め、パプアニューギニアへと到達したとされています。当時エンゲルハルトは24歳でした。
エンゲルハルトは島に着くと1軒の小屋を購入し、衣服を捨ててヌーディストとなり、ココナッツを中心とした菜食主義を始めました。エンゲルハルトは人間を「熱帯の動物」と定義し、家という洞穴の中で住むべきではなく、癒やしと治癒力をもたらす太陽の下で生きるべきだという哲学を考案。「人間の中で最も高貴な器官である脳は、汚れた消化器官ではなく髪の毛の毛根によって日光からエネルギーを得ている」「球状で毛皮のような殻を持つココナッツは人間の頭に最も似ている。神が人間の頭を元にココナッツを創造したのだ」などと考え、ココナッツの絶え間ない消費が人を不死に導くという思想に従い、日光浴やココナッツ食を繰り返しました。
このような考え方は当時としても先進的であったものの、エンゲルハルトが菜食主義を取り扱う雑誌に寄稿していたこともあり、前述の生活改革運動のあおりを受けた人々がエンゲルハルトの考えに共感。最盛期には30人ほどの信者がエンゲルハルトと同じ生活をするために島に降り立ったとされています。
しかし、エンゲルハルトが望む生活は長くは続きませんでした。1905年から1906年にかけ、エンゲルハルトのもとに集まった信者の2人が到着から間もなく死亡したことがニューヨーク・タイムズにより報じられます。その後も数年間にわたり、温暖な気候やココナッツのみという食生活に慣れることができなかった信者数人が死亡。死因はマラリアだったとされています。
エンゲルハルトは死亡した信者について「ココナッツに加えてトロピカルフルーツも食べていたからだ」と非難しましたが、自身も潰瘍などの病気を抱えることになります。現地の病院で治療を受けて回復に向かったものの、前述の信者の死亡やエンゲルハルトの病気からくる不安が信者を襲い、ゾンネノーデンは解散に至ります。
ゾンネノーデンの解散に伴い、ドイツ政府はこれ以上信者がエンゲルハルトのもとに加わることを禁止しました。エンゲルハルトは信者を獲得するために新たな宣伝を開始したものの、政府の目は厳しく、次第に一人で植物の治癒力に関する論文を書いたり、現地の人々の食生活を研究したりといった生活に移行し始めます。当時のエンゲルハルトの姿は島を訪れた観光客によって撮影された写真に見ることができます。
エンゲルハルトのその後については疑問が残されていますが、分かっているのは遺体が1915年に海岸で発見されたことだけ。遺体の足は潰瘍だらけであり、体重はわずか66ポンド(約30kg)ほどだったとされています。
バーナード氏は「エンゲルハルトを狂気のカルトリーダーと揶揄することは簡単かもしれません。しかし、エンゲルハルトの日記によると彼は両親から虐待を受けていたり、絶望的に女性を苦手としていたりといった性格をしていたようで、ある意味で同情を引くような人物でした。エンゲルハルトは芸術的で先見の明のある人物で、今日の食品運動との類似点が多く見られます」と評価しました。
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in Posted by log1p_kr
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