「BMIで健康を語るのはナンセンス」と専門家が指摘する理由とは?
人間の身長と体重から算出されるボディマス指数(BMI)は肥満度を表す指数として広く使われており、ダイエットや肉体改造の際に「BMIで23以下を目指す」といった目標を掲げる人もいます。ところが、シドニー大学の医学・保健学科で肥満や心血管疾患などの研究を行い、「Interval Weight Loss for Life(人生のためのインターバル減量)」の著者でもあるニコラス・フラー博士は、「BMIで健康を語るのはナンセンス」と主張しています。
Using BMI to measure your health is nonsense. Here's why
https://theconversation.com/using-bmi-to-measure-your-health-is-nonsense-heres-why-180412
近年では人々の健康を「数値で管理する」ことが一般的となっており、日々の歩数や運動量を追跡してフィットネススコアを作成したり、心拍数や睡眠の質といったものもスコア化したりしてくれるスマートウォッチの市場が拡大しています。そんな健康を管理する数値の中でも特に人気が高いものが、身長と体重から肥満度を表す「BMI」です。
BMIの概念は1832年、ベルギーの統計学者であるアドルフ・ケトレーによって開発されました。当時は「ケトレー指数」と呼ばれていたこの指数は、政府が一般人口における肥満率を推定する際に「平均的な男性」を説明する目的で開発されたものだったとのこと。
それから1世紀以上が経過した1972年、アメリカの生理学者であるアンセル・キースが7000人以上の被験者を対象にした調査を行い、「ケトレー指数が肥満についてのさまざまな指数の中でも特に優れている」と主張しました。その後ケトレー指数は「BMI」と改称され、さらなる研究でも心臓病・肝疾患・関節炎・がん・糖尿病・睡眠時無呼吸症候群といった病気とBMIの関連が確認されたため、BMIは健康の主要な指数として広く普及しました。
BMIの計算は体重をkg単位で計測し、身長をメートル単位で2乗した数で体重を割るだけでOK。たとえば、「体重70kg、身長1.7m」の人のBMIは、「70÷(1.7×1.7)=24.22……」となります。
そしてBMIは、肥満度ごとに以下の4カテゴリに分類されています。「体重70kg、身長1.7m」の人のBMIは約24.22なので、以下のカテゴリでは「正常」に当てはまるというわけです。
・BMIが18.5未満……低体重
・BMIが18.5~24.9の間……正常
・BMIが25.0~29.9の間……太りすぎ
・BMIが30.0以上……肥満
今日では病院やジムなどさまざまな場所でBMIが使われていますが、フラー氏は「BMIは人間の健康状態をスクリーニングするためのアクセスしやすくて安価な方法ですが、健康の単一の尺度として依存するべきではありません」と指摘。その理由について、以下のように説明しています。
◆1:BMIでは体脂肪率について考慮しない
BMIは身長と体重に基づいて算出されますが、人間が病気になるリスクは体重ではなく「体脂肪」のほうに強く関連しています。もちろん、体脂肪が多ければその分だけ体重も増えるため、体重を用いたBMIでもある程度は健康状態を推測できるものの、体脂肪は少ないけど筋肉は多いといった人ではBMIがうまく機能しなくなってしまいます。
極端な例を挙げると、100m走の世界記録保持者であるウサイン・ボルト氏(身長1.95m、体重94kg)のBMIは「24.72」となり、あと少しで「太りすぎ」に突入することになります。また、史上最高のアメリカンフットボール選手として名高いトム・ブレイディ氏(身長1.93m、体重102.1kg)のBMIは「27.41」で、分類上は「太りすぎ」ということになってしまいます。
◆2:BMIは体脂肪分布を測定しない
同じ体脂肪率の人であっても、すべての体脂肪が等しいリスクを持つわけではなく、「体脂肪が体のどこに蓄積されているのか」によって疾患リスクは異なることが過去の研究からわかっています。たとえば、胃の付近に内臓脂肪が多く蓄積されている人は、お尻に多くの脂肪が蓄積されている人よりも脳卒中・糖尿病・心臓病などのリスクが高いとのこと。
◆3:BMIは人種差や性差を考慮しない
BMIを開発したケトレーとBMIの精度を検証したキースは主にアングロサクソン系の中年男性を被験者にしていましたが、体組成や脂肪と疾患の関連性は性別や人種によって異なります。一般に女性は男性よりも筋肉量が少なくて脂肪が多いほか、年齢と共に筋肉量が減少することもわかっています。また、アジア系の人々では健康なBMIが「23未満」である一方、ポリネシア系の人々ではBMIが「26未満」なら健康であるともいわれているそうです。
フラー氏は、確かに体重と健康には関連性があり、BMIをスクリーニングツールとして使用することも可能だと認めていますが、健康度や疾患リスクを適切に評価するにはBMIだけでは不十分であり、体脂肪や血液検査なども組み合わせるべきだと指摘。「BMIは健康状態を把握するための有効な指標ですが、決して唯一の測定値にしてはいけません」と述べました。
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