インタビュー

アニメ「エスタブライフ グレイトエスケープ」原案・谷口悟朗&監督・橋本裕之&シリーズ構成・賀東招二にインタビュー、魔改造された東京で「逃がし屋」の活躍を描く


AIの管理のもとで常人・獣人・魔族などに遺伝子改造された多様な人類と、壁に囲まれて独自の文化を持つクラスタと呼ばれる多様な街が生み出された遠い未来を舞台に展開されるメディアミックスプロジェクトが「エスタブライフ」です。TVアニメ「エスタブライフ グレイトエスケープ」が2022年4月から放送スタート、スマートフォンゲーム「エスタブライフ ユニティメモリーズ」が2022年展開予定、そして劇場アニメ「エスタブライフ リベンジャーズロード」も控えています。

今回、このプロジェクトの原案・クリエイティブ統括を担当する谷口悟朗さんと、TVアニメの監督やゲームのシナリオ監修を行っている橋本裕之さん、TVアニメのシリーズ構成・脚本を担当する賀東招二さんにインタビューする機会があったので、この顔ぶれでどのように作品を練り上げていったのか、話をうかがいました。


なお、まだテレビ放送されていない話数の要素への言及が含まれます。

アニメ「エスタブライフ」公式サイト
https://establife.tokyo/


GIGAZINE(以下、G):
今回の企画やこの顔ぶれは、どのように決まっていったものなのですか?

原案・クリエイティブ統括 谷口悟朗さん(以下、谷口):
もともとは映像の企画ではなくてゲームの企画だったんです。それで「ゲームとしてならやれそうなものがあるんじゃないか?」ということで、私は「ゲームなら、ヤクザと魔法少女が戦うのとかやってみたいなぁ」と言っていたんです。

G:
(笑)

谷口:
全体の話を進めていく中で映像化もすることになったのですが、私がやるとTVアニメとしては重くなりすぎてしまうと思ったんです。軽い感じで作って欲しかったので、私から監督は橋本さんでどうだろうかと名前を挙げさせてもらい、スロウカーブさんからシリーズ構成として賀東さんの名前が挙がって、このような布陣になりました。

G:
橋本監督はYouTubeで「はじラジ!」という番組を配信しておられます。

橋本裕之監督(以下、橋本):
聞かれていたとは(笑)

G:
その中で、橋本監督が「コードギアス 反逆のルルーシュ」で原画をしていたとき、谷口さんに「いつかは演出をやって監督をやりたいです」という話をしたら、谷口さんから「演出のイスは少なく、監督のイスはさらに少ないから、なりたいなら全力でたたきつぶします」と言われたというエピソードを出していて。

(一同笑)

G:
そして今回、「エスタブライフ」を手がけるにあたってこのことを伝えたら、谷口さんは「全力でたたきつぶせないから、味方にするしかないと思った」と返した、と。谷口さんが今回橋本さんを味方に引き込んで、監督に選んだ理由というのは何だったのですか?

谷口:
まず1つは、橋本監督が「女好き」であるということ。

(一同笑)

G:
それは一体……

橋本:
誤解を招く表現だ(笑)

谷口:
やっぱり女の子が活躍するアニメなので(笑)。そしてもう1つ、人生が破綻しているわけではない、地に足が着いた、常識のある人物であることです。意外と苦労人というのもポイント高かった。当然ながら今回のプロジェクトはアニメとゲームがあってスロウカーブさん、フジテレビさん、スクウェア・エニックスさんなど他社さんも入って来ますので、枠組みを壊すほど我を通されてしまうと困るという企画なんです。

G:
ああー、なるほど。

谷口:
そこで適切にバランスが取れる人でなければいけないというのがありました。単純に「女の子が好き」というタイプなら周囲に何人かいるんですが、「破綻していない人」を考えたとき、橋本監督だったら大丈夫だ、と。

G:
橋本監督なら信用できる。

谷口:
そういうことなんです!

G:
なるほど……そういう理由だったということなんですが、橋本監督。

橋本:
いやー、いいのか悪いのかわかんないですよね(笑) 僕ももっと破天荒だった方がよかったのかなと思ってしまいます。

谷口:
いやいや!今の時代、破天荒なやり方で売ろうなんてのは本当にダメです!それが許されるのは我々の世代ぐらいまでのものです!問題児がいっぱいいるじゃないですか(笑)

橋本:
そっちの方がトークも広がるかなぁと思いますけれど(笑)、いい感じに受け止めておきます。

G:
賀東さんはスロウカーブのほうから声がかかったということですが、どのような形で連絡があったのですか?

シリーズ構成・脚本 賀東招二さん(以下、賀東):
スロウカーブの尾畑さんから電話がかかってきたんです。GONZO時代の尾畑さんの電話番号を登録していて、画面に「GONZO 尾畑さん」って出たから「GONZOの人から!?何の用だろう?」と思って取ってみたら、スロウカーブの人になっていたという。

G:
どれぐらい前のことでしたか?

賀東:
4年ぐらい前でした。ちょうどスケジュールが空いていましたし、谷口さんや橋本さんがやるビッグプロジェクトだということなので、ぜひやってみようかなということで引き受けました。

G:
「はしラジ」の中では、脚本打ち合わせに賀東さんが参加して、非常に面白かったというエピソードも出ていました。

橋本:
賀東さんの面白さはもう……「街」に対しての話がすごく面白いんですが、ちょっと表には出せない面白さです(笑) ロフトプラスワンとかでやったらめちゃくちゃ盛り上がるやつだと思います。

G:
そういう面白さなんですか(笑)

橋本:
谷口さんの中に世界があって、それを広げていかなければいけないとき、どれぐらい広げていいのかという度合いが難しいんです。広げないと面白くないけれど、広げすぎると破綻するかもしれない。そこに賀東さんの個人的な思いや偏見、いろいろなものが混じっていって、すごく面白かったんです。

賀東:
僕は東京生まれ東京育ちなんですが、「西東京で育ったもの特有の偏見」とでもいうものがありまして。「府中」といえばまず「刑務所がある」だったり、立派な図書館があるんですが「そのお金はどこから来てるんでしょう?」だったり。

橋本:
こういうのを掘っていくのがすごく面白いんです。

G:
アキバ総研掲載のインタビューによると、橋本監督は脚本面では「本打ちに参加する人全員に『とにかく思ったことは口にしてください』とお願いしています。自分と脚本家だけではなくて、原作者、プロデューサーにも話し合いに参加してもらっています」とのことですが、本作の場合はどういったメンバーが参加しているのですか?

橋本:
谷口さん、賀東さんとフジテレビ、スクウェア・エニックス、ポリゴン・ピクチュアズ……と、関わっている人たちほぼほぼみたいな感じです。オリジナル作品なので、どこまでが正解でどこまでが不正解なのかがわからないから、みんな「これが正解なのだろうか?」という顔をしていたりするという。


賀東:
そうですね。

橋本:
「誰かが止めてくれないと」と思うときがありつつ、一方で「誰かが盛り上げてくれないと」と思ったりもしましたが、楽しかったです。

賀東:
ずっと首をひねりながら作っていたようなところはあります。「うーん、これでいいのかなあ?」って。

G:
(笑) 今回、賀東さんはシリーズ構成でもありますが、オリジナル作品においてシリーズ構成はどのような仕事をしていくのですか?

賀東:
みんなで「こういうの欲しい」というのが出てきたら「じゃあ、入れておきますか」と、そういう感じだったように思います。主人公を女性にするというのは僕から決めたわけではなく、誰ともなく出てきたので「じゃあ、それで作ってみます」と作って「これでいいですか?」と聞いたら、みんな「いいよ~」ということで、結構ふわっとしていました。

G:
本当にふわっと決まっている(笑)

賀東:
女性が3、男性が2という組み合わせは僕が言いました。

橋本:
このプロジェクト自体、TVアニメがあって、ゲームが配信されて、その後劇場アニメをやるということが決まっていたので、テレビの中で世界を完結させるという話ではなく、テレビは間口を広げる存在で、見た人が「じゃあゲームやってみようかな、劇場版も見てみようかな」となるように、どこに持っていかなければいけないかははっきりとしていました。逆に、世界を締めくくれない分、どういう終わり方にするかをずっと考えていた気がします。

G:
なるほど。

橋本:
話自体はずっと連続しているので、50話でもいくらでもできたかもしれませんけれど、本当に終わるときに終われるのだろうかと、そこを気にしていました。

G:
本作については、谷口さんが基本的な設定をすべて決めていたのか、それとも、簡単なところだけを決めてあとは橋本監督や賀東さんたちが決めていったという感じなのでしょうか。

賀東:
設定はかなりの部分において、最初に谷口さんが用意したものがありました。ただ、使ったのは半分ぐらいで、TVアニメで出てきたのはさらにその半分ぐらいだったと思います。僕も最初はすごく迷いまして、たとえば「御茶ノ水」という街を出すにあたって、どのぐらいのことをやっていいのかとか。とてもここでは言えないような設定までいろいろと考えていました。「茶」から「茶畑がある」というのが出て突破できたという感じです。


G:
谷口さんは最初の設定を作ったとき、「これはあとで苦労するかもしれない」みたいなことは考えるのですか?

谷口:
いやー、あまり考えたことはないですね(笑) どんな設定でも困る人は困るし、困らない人は困らないですから。自分としては「こういう方向性で、こういうカテゴライズの作品である」というのがあった上で、TVアニメとして作る中で、設定が半分とかそれ以下しか使われないことがあるというのはわかっていました。過去の作品では、私自身が監督をしたものでも、使った設定は全体の4分の1以下だったということもありましたから。ただ、初手の方向性だけは示さなければいけないということと、TVアニメとして気にしたのは「橋本監督はどうしたいですか?」ということでした。

G:
ふむふむ。

谷口:
方向性がズレていなければ、あとは監督がやりたいところに向けて、自分がいかにアイデアを出したり、まとめるのに協力したりできるかなと考えました。そうしないと、あっちこっちに監督がいることになってしまって、よくないですから。スタートしたら、あとは橋本監督の領域だという考えのもとに進めていきました。

橋本:
自分の感覚としては、まず谷口さんが広いグラウンドを作って、そこにいろいろな線が引かれているけれど、好きにやっていいよ、と。「ボール持ってきていいんですか?」「好きにやって大丈夫」「ローラースケートはどうなんでしょう?」「邪魔にならなければOKだよ」という感じで、でもグラウンドとしての大きなルールは存在している。賀東さんも、先ほど御茶ノ水で悩んだという話がありましたけれど、「この線をどう使おうかな」と考えることもあったという感じです。

G:
なるほどなるほど。

橋本:
自分が呼ばれた意味というのを考えたとき、谷口さん自身が考えているものを実現しようとするのであれば、谷口さんが監督した方が早いと思ったんです。俺がやってズレていると「うーん、そうじゃないんだけれどな」となりますから。でもそうではなくて、谷口さんがやるのとは違う、谷口さんならこうはしないだろうということを俺にやって欲しいんだろう、自由にやることで「俺が思うのとは全然違うけれど、これはこれですごくいいな」となるのがベストだろうと分かったので、そこからは何も気にせずに行こうと吹っ切れました。そこまでは、最初から谷口さんたちが作った世界というのがあって、「大江戸城というのがあるけれど、これはなんなんだろう……」と思っていましたが、「大江戸城があるんだ、ぐらいでいいんだな」と割り切って。最初は「劇場アニメではどうするんだろう」とか気にしたのですが、そういうのも考えなくてもいいんだとわかりました。

G:
なるほど。橋本監督はこうして吹っ切れたということですが、賀東さんはなにかこういうところで吹っ切れたというのはありましたか?

賀東:
上野の話を書いたときはかなりの手応えで、一番「つかんだ」と思ったのは三軒茶屋でした。三軒茶屋のエピソードをやったあたりで「この世界なら俺、どの街でもやれる」と思いました(笑)

(一同笑)

G:
橋本監督はアキバ総研のインタビューを受けた際、「アニメーション監督の必要な資質能力とは何でしょうか?」という質問に、「『皆の意見をまとめて形にする』というのがアニメーションの監督としては一番重要かな。いろんな人たちに発注して、いろんな人たちのアイデアを借りつつ、それをひとつの作品として見せなきゃいけない。それをくっつけるだけじゃひとつにはならないので、くっつけて、こねて、形にしなきゃいけないんです」と答えていましたが、本作の場合、「くっつけて、こねて、形にする」というプロセスで大変だったのはどういったところでしたか?

橋本:
今回初めて3DCGの作品を担当させてもらったのですが、CGは小さな世界の同じ舞台で、少人数ががっつり出てくるタイプの方が向いているんじゃないかなと感じました。本作はいくつもクラスタがあって世界が大きい上に、1回しか出てこないクラスタがあったりするので、CGとしては効率が悪いんですよ。

G:
そういうところがあるんですね。

橋本:
だから毎回御茶ノ水で解決するのがベストだという話なんですが(笑)、そこをうまく回していくのが大変ではあったかなと思います。でも、大変だからこそ、CGのスタッフもノリノリで頑張ってくれて、作品を見てもらったときにそれが分かるものになっていると思います。リテイクの思いにも応えていただいて、すごくありがたかったです。

谷口:
そのあたりで他人との距離やバランスを取るのは、橋本監督はすごく鍛えられていると思います。出身の中村プロダクションで、すごい先輩たちと一緒に仕事をしてきていて、そういう能力があるというのはわかっていましたから。

橋本:
あるかもしれません(笑)

G:
今回、橋本監督はこの「エスタブライフ グレイトエスケープ」だけではなく、ゲーム「エスタブライフ ユニティメモリーズ」のシナリオ監修やゲームの絵コンテ、音響監督まで手がけておられるということですが、これはなぜこのようになったのですか?

橋本:
うーん、なぜこんなことになっているんでしょうね?(笑)

谷口:
これは仕切りの都合のところもありまして(笑)、ゲームの細かいところに関しても何かあるとイヤだから、いったん全部橋本監督に確認を取っておこう、と。

G:
全部が橋本監督のところに来る形に。

橋本:
アニメに出てくるキャラクターがゲームにも出てくるところがあるので、最初はその部分の確認をしていたんですが、そのうち「ゲームキャラクターのシナリオも一緒に見てもらえれば」となって、あるとき「音声を録る」ということだったので、「どうせ自分がシナリオ監修しているなら自分が録りましょうか?」と聞いたら「じゃあムービーの絵コンテもぜひ」と。

G:
あっ、なんと。

橋本:
頼られると楽しくなっちゃうんです(笑) やらなくていい仕事までやっちゃう。

G:
(笑) 続いては賀東さんにうかがいます。賀東さんには以前、諸事情でお蔵入りしましたがインタビューを実施したことがありまして。

賀東:
ありましたね(笑)

G:
とにかく小説執筆に苦労したお話をいっぱいうかがったわけなのですが、賀東さんとしては、こうしたアニメの脚本の方が書きやすいというのはあるのでしょうか。

賀東:
うーん、やっぱり完全に自分一人の責任のものではないというのはありますかね。プレッシャー的なものとか。完全に自分のオリジナル作品だと期待もプレッシャーもあって、一歩も進めなくなりますよね……。それよりは、少しは分散しているという気持ちがあります。それに、明確な締め切りもあって、何十人もの人が待っているということで、進みやすいというのはあるかもしれません。

G:
賀東さんのTwitterを拝見していると、草っぱらみたいなところで執筆しているようなツイートが出てきますが、あれは一体……?


賀東:
部屋で書くのが無理なんです。それで仕方がなく。外にいて、歩きながら書く方が進むんです。

G:
打ち合わせで書いていった脚本を読まれることにプレッシャーはないですか?

賀東:
読まれることそのものにはプレッシャーはないです。結局は「脚本」ですから、文章が美しくある必要はなく凝る必要もなくて、小説で求められる技巧とは違うので……そこも気楽なところかもしれません。「何が起きているかが伝わればOK」ですから。

G:
自分の脚本が映像になっていくのを見る感覚はどうですか?

賀東:
今回はCGだからどうなるのかなというのが一番気になったところで、「こうなるのか」と感心して見ています。

G:
再び谷口さんに質問なのですが、このプロジェクトは劇場アニメもあるということなのですが、そちらは橋本監督はノータッチだとうかがいました。劇場アニメはどういった位置づけなのでしょうか。

谷口:
このプロジェクトの全体像としては、「エスタブライフ」という大きな塊を、TVアニメとゲーム、劇場アニメでそれぞれ別の視点から見ているという形なんです。TVアニメは橋本監督中心のチームに任せて、ゲームはスクウェア・エニックスさん中心のチームに任せて、劇場アニメもまた別の人を連れてきたらよかったのですが、もう1回世界観を説明するのは面倒だなということで(笑)、私がやりますということになりました。なので、劇場アニメにもエクアたちは出てきますが、主人公ではありません。

G:
谷口さんは「クリエイティブ統括」となっていますが、お話を伺っていると、「エスタブライフ」らしさの統一のためにTVアニメにもゲームにも細かく口を出しているというより、各チームの裁量に任せている部分が大きいのでしょうか。

谷口:
近いですね、「このように走って欲しい」というのは先に示していて、各セクションから私のところに「こんな感じでどうですか?」とチェックが上がってくるんですけれど、向かっている方向性が大きく逸脱していないようであれば、各セクションのスタッフが楽しんでやるのが一番いいことですから、そこへの無駄な介入はできるだけしないような形でやっています。

G:
橋本監督は「はしラジ!」の中で、本作は「明るく楽しいアニメを目指している」と語っておられたと思いますが、監督の考える「明るく楽しいアニメ」のイメージはどんな感じなのでしょうか?

橋本:
これは「エスタブライフ グレイトエスケープ」を見てもらうのが一番かなと思います(笑)

(一同笑)

橋本:
舞台設定だけ聞くと「魔改造された東京」「大江戸城」「AIが統治」と重そうに聞こえますけれど、そういうのが苦手な人でも見られるように、主人公たちの掛け合いを楽しめるような作品に作りました。

G:
なるほど。橋本監督が「ルパン三世」的な感じと言っていたのがわかります。

橋本:
ルパンと次元とのやりとりって、男同士が少ないセリフでお互いをわかり合っている感じがすごくいいと思うんです。それを「エスタブライフ」では女の子に置き換えているというところかなと。もちろん違うところも多々ありますが、「ルパン三世」を見るとき、「この時代でこの設定だから……」とは考えずに、ルパンという大泥棒が獲物をどうやって盗み出すか、シンプルに楽しみますよね。その感じが出せたらいいなと。あと「逃がす」「逃げたい」をポジティブに取りたいなというのもあります。重く受け取ろうと思うとどこまでも重くなっちゃいそうですが、そうではないなと。それが、自分が選ばれた理由だろうと思いますので。

G:
そのやりとり等の部分は、賀東さんはどのように捉えて書いていったのですか?

賀東:
メイン3人の関係性が一番大きくて、3人がかわいくて面白ければあとはどうにかなるなと思いました。橋本さんはヘイト管理が徹底しているんです。

G:
「ヘイト管理」!

賀東:
たとえば「フェレスがツッコミを入れているけれど、その言葉を使うと印象が悪くなりすぎてしまうから、別の言葉にして欲しい」とかで、とにかく徹底していて、すごく勉強になりました。

橋本:
いやいや(笑)

谷口:
そういうバランス感覚は橋本監督のいいところだと思います。私だったら間違いなく「よし、もっと行っちゃおう」とやってしまいます。そこでちゃんと周りを見回せるのは才能です。


賀東:
かつかわいくして、ちょっと百合っぽくもして、と。

G:
書きにくい部分というのはありませんでしたか?

賀東:
そうですね、世界観で考えるところはありましたが、キャラクターの面ではそれほど悩んでいないかもしれません。

G:
賀東さんによるとヘイト管理が巧みだとのことなのですが、橋本監督としてはどういった感覚で調整しているのですか?

橋本:
何か指針になるものがあるわけではないのですが……谷口さんの言葉を借りるなら「女の子好き」だから?(笑)

(一同笑)

橋本:
視聴者としてこの作品を見ていて、「このキャラクター好きだ」となったときに「このセリフはあまり言って欲しくなかったな」と思うようなのはいけないなと。みんな好かれて欲しいんです。単にセリフを丸くするだけではダメなところもあると思いますが、そういう部分が自分と賀東さんの違う部分なので、ちょうどいいんです。2人とも似ていたらこうはならないので。谷口さんが自分を選んだのは、そういうところもあるのかなと。凸凹が合わさってちゃんとしたものが生まれるという感じだったのかもしれません。俺が「やっちゃえやっちゃえ、フェレスぶん殴っちゃえ」だったら……それは違った感じになっていて、別のファンはついていただろうけれど(笑)

G:
本作のキャラ設定はわりと軽めだったので、細かいところは橋本監督が決めていったと「はしラジ!」で聞きました。そこで気になったのは「ワンワン」としか言わないウルラなのですが、なぜこんな設定になったのですか?

手前左、運転を担当しているのがウルラ。


橋本:
あまり覚えていないですけれど(笑)、「ワンワン」だけでも面白いなと。

賀東:
最初は、満月の日にはしゃべれるという設定があったんです。

橋本:
そうでしたね。

G:
そうなんですか。

賀東:
しゃべる回もあったんですが、1回しゃべっている初稿を書いていったら、みんなの反応がイマイチで「いまさらしゃべらなくてもいいよ」という雰囲気になったので、「じゃあ、やめますか」と。

G:
それでしゃべらないことになってしまったんですか(笑)

賀東:
台本には「ワンワン」のあと、括弧書きで意図は書いてあるんです。

橋本:
キャラクターのイメージというのは自分が決める前からある程度はあったんですけれど、「絶対に変えちゃいけません」ということではなかったんです。それで、TVアニメにするならこういうのはどうですかといろいろ調整しました。一番悩んだのはエクアですね。「何を思って逃がすのか」と。何らかのきっかけがあったのか……一番怖いのは「もともとそういう人」ですけど。


谷口:
いやいや、それで正解だと思いますよ。「過去に何かがあったから」だと、それが彼女の心理的転換点になってしまっていて、出来事にニュートラルに向き合えなくなると思います。1つの事件に対しては介入するけれど、他の事件には介入しないとかがあり得てしまうと、「どんな事件にも平等に取り組む」というエクアのキャラクターではなくなってしまうかもしれない。

賀東:
平等に向き合うということに徹底していますからね。それで最終話まで行くようなところがあるので。

橋本:
それで8話ができたんですよね。当初はもうちょっときつい話で、母子のうち母だけ逃げたいというときにエクアは母だけ逃がすのだろうかと。さすがに作っていて「重いな」と思っていました。エクアなら絶対逃がすだろうというのは一致したんですが、そのあとのフォローはどうするかと。

賀東:
逃がすのは間違いないけれど。

橋本:
エクアはもう自分の信念でしか動いていないですから、「お金をくれたら助けます」ではなく「全員助ける」という、もう神様に近いのかなと思っていて。だからエクアには苦労して、キャストへの説明も難しいですよね。


G:
キャストへはどのように説明したんですか?

橋本:
うーん、笑顔のおかしい人……(笑)

G:
(笑)

橋本:
天然でいい人だから裏表がない、と。この人から出ている言葉だから理解しようとするのは難しくて、なりきれるのは「エスタブライフ」すべて終わってからじゃないと無理かもしれなくて、終わって5年ぐらい経過してからようやく「こういうキャラだったのか」ってわかるかもしれないけれど、それはそれでいいのかなと思っています。そこが魅力でもあるのかなと。

G:
橋本監督のTwitterを見ていたらマシュマロ(匿名のメッセージ受け付けるサービス)が山のように並んでいて、その中に「原画や動画のデジタル化が進めば住んでる所が東京に居なくても仕事がしやすくなるので田舎に帰らないと行けなくても仕事は続けられそうです。デジタル特化した管理ツールができると嬉しい」というのがあり、インタビューでも「デジタル作画については早く業界統一したほうがいいと思います」と語っておられたことがありますが、本作ではデジタル面での苦労や混乱はありましたか?

橋本:
本作の場合はCGはポリゴン・ピクチュアズで完結していたので、むしろ苦労も混乱もなかったです。でも作画のアニメだとフリーの人が多いので、管理が大変だなというところです。

G:
CGアニメを作っている会社の人からは、スケジュールがかっちり決まっていて進んでいくようなことを聞くのですが、作画では難しいという、その違いはなんなのでしょうか。

橋本:
僕なんかが言うと怒る人がいるかもしれない話ですが、CGは直前になってからの変更が難しいので、事前にしっかり計画を立てておかないといけないんです。だから、TVアニメ制作に進出するとき、きっちりと線引きがなされたんじゃないかと思います。ただ、CG制作のTVアニメがめちゃくちゃ多いわけではないので、10年後の状況はまた違っているのかもしれません。

G:
本作の声の収録はプレスコで自由にやれて楽しかったということですが、プレスコを選ばれた理由は何ですか?

橋本:
プレスコといっても基本的には絵コンテを見ながらの収録だったので、彼女たちにとっては日頃とあまり変わらないのではないかと……。ただ、普通は絵コンテ撮というのはスケジュールが厳しいことが多くて、収録してから2カ月後ぐらいには放送されているのですが、今回は収録してから完成まで1年ぐらい空いているので、そう感じたのかもしれません。

G:
それはやはりCGなのでスケジュールがきっちり進むことで成り立ったものだと。

橋本:
そういうことです。

G:
続いて再び賀東さんにうかがいたいのですが、締め切りが迫ってきたとき、締め切りを守るためにやっていること、心がけていることというのは何かありますか?

賀東:
締め切りを守るために心がけていること……(笑)

G:
苦しい質問かもしれませんが(笑)

賀東:
いや、これは苦しい……(笑) とりあえず、初稿を一番最後まで書くということですかね。直すのは後にして、書いて送る。それが間に合うということじゃないかなと思います。

G:
本作はすでに完了しているかと思いますが、どうでしたか?

賀東:
比較的、よく守ってはいた方かな、と……もうよくわかんないですよ、放送は今、2022年春ですけれど、書いたのは2年ぐらい前のことですから(笑) ……少しぐらいは遅れても大丈夫なんじゃないかな?

橋本:
さっき言っていたことと微妙に違いますよ(笑)

(一同笑)

G:
最後に、この「エスタブライフ グレイトエスケープ」、こういう人にぜひ見て欲しい、こういうところを見て欲しいというのはありますか?

橋本:
見て欲しいポイントはいろいろとありますが、「CGアニメは苦手」という人にぜひ1回は見ていただきたいと思います。CGであることを忘れるぐらいにかわいくできていると思います。そこから興味を持っていただいて、ゲームや劇場アニメへと興味を広げていただければうれしいです。

賀東:
「CGだから」で見ないのはもったいないですよね。

G:
確かに、とてもかわいいキャラクターたちでした。今回は長時間、作品とは無関係な質問も含めてお話いただき、ありがとうございました。

TVアニメ「エスタブライフ グレイトエスケープ」はフジテレビ「+Ultra」枠にて毎週水曜日24時55分から放送中。ほか、関西テレビ・東海テレビ・北海道文化放送・テレビ西日本・BSフジで以下のスケジュールで放送されています。

フジテレビ:毎週水曜日24:55~
関西テレビ:毎週木曜日26:25~
東海テレビ:毎週土曜日25:45~
北海道文化放送:毎週日曜日25:10~
テレビ西日本:毎週水曜日25:55~
BSフジ:毎週水曜日24:00〜

このほか、FODで第12話まで先行独占配信中。FOD・TVer・GYAO!では毎週水曜日25時25分から1週間、最新話が無料で見逃し配信中です。

TVアニメ『エスタブライフ』本PV/OPテーマ:めいちゃん「ラナ」 - YouTube

©SSF/エスタブライフ製作委員会

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