5億年以上前の三葉虫の化石から「世界最古の共食いの痕跡」が見つかる
動物が同種の固体を食べてしまう共食いはカマキリやクモ、サメなど複数の動物でみられ、人間においても人肉を食べるカニバリズムがさまざまな文化的背景で行われてきました。そんな共食いについて、5億年以上前の三葉虫の化石から「世界最古の共食いの痕跡」が見つかったとの研究結果が発表されました。
Cambrian carnage: Trilobite predator-prey interactions in the Emu Bay Shale of South Australia - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0031018222000475
Trilobite Fossils Suggest Cannibalism Is Older Than Once Thought - The New York Times
https://www.nytimes.com/2022/03/25/science/cannibal-trilobites.html
World's oldest known case of cannibalism revealed in trilobite fossils | Live Science
https://www.livescience.com/oldest-cannibalism-found-in-trilobite-fossils
三葉虫は約5億4100万年前に現れた海洋節足動物であり、軟質組織よりも化石化しやすい硬い外骨格を持っていたこともあり、世界中のさまざまな地域で化石が発見されています。オーストラリア・ニューイングランド大学の古生物学者であるラッセル・ビックネル氏は、南オーストラリア州カンガルー島にあるエミュ・ベイ頁岩層で発見された、約5億1400万年前の三葉虫の化石を5年間にわたり研究してきました。
エミュ・ベイ頁岩層の地層で見つかる三葉虫の化石には、Redlichiaという属に含まれる2種の三葉虫がいるそうで、1つは比較的小さなRedlichia takooensis(R. takooensis)という種、もう1つはRedlichia rex(R. rex)という大きな種だとのこと。R.rexのフンの化石には三葉虫のものと思われる殻が含まれており、R. takooensisの体にも多数のかみ傷が確認されていることから、R. rexがR. takooensisを捕食していたことが示唆されています。ところが、体にかみ傷が見つかったのはR. takooensisの化石だけでなく、R. rexの体にもかみ傷が確認されているそうです。
ビックネル氏は、エミュ・ベイ頁岩層で発見された「かまれた傷のある三葉虫の化石」の画像を自身のTwitterアカウントに投稿しています。なお、これらの傷は便宜的にかみ傷と呼ばれているものの、実際には捕食の際に使われる2本の脚で付けられた傷だとみられています。
This involved me spending ~3 weeks going through the amazing @SAMuseum collection looking at these Cambrian-aged titans and trying to find anything out of the ordinary. I found ~40 injured trilobites. This is ideal for statistical analyses (and for making many pretty figs). 2/7 pic.twitter.com/OKBBJSUMwE
— Russell Bicknell (@RussellBicknel1) February 12, 2022
ビックネル氏は、「このように生体力学的に最適化され、硬いものを容易にかみ砕くことができるツールキットを持つのは、この地層にはR. rex以外にはほとんどいないでしょう」と述べ、R. rexの体に付いたかみ傷は別のR. rexが共食いを試みた際のものだと主張しています。
エミュ・ベイ頁岩層で発見された化石に見られるかみ傷のほとんどは、頭部ではなく腹部にあったそうです。ビックネル氏はこの理由について、捕食されそうになった三葉虫が逃げようとしたからだと信じているものの、「頭部を攻撃された三葉虫は食べられてしまったため、腹部を攻撃されたものの化石しか残っていない」という生存バイアスもある可能性を示唆しています。
今回ビックネル氏らが報告した三葉虫の化石は「世界最古の共食いの痕跡」を示していますが、ビックネル氏はこの化石が示唆するよりも古くから、より一般的に共食いが行われていたと考えています。「節足動物が節足動物となった最初期から、節足動物は節足動物を食べていたと言ってもいいと思います」とビックネル氏は述べました。
この研究に直接関与していないローザンヌ大学の古生物学者アリソン・デイリー氏は、確かにR. rexのかみ傷は同種の個体による共食いの結果だろうと認めています。その一方で、より柔らかい獲物がいればそちらを優先して食べたはずだと主張して、三葉虫が純粋に共食いの習性を持っていたわけではないとの見解を示しました。
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