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「ウクライナに生物兵器の研究施設がある」という陰謀論はどのように広まったのか?


2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻した際、「ウクライナには、アメリカの資金提供による生物兵器の研究施設が存在する」という陰謀論がソーシャルメディアで拡散されました。この陰謀論がソーシャルメディア上でどのように拡散されたのかについて、クイーンズランド工科大学の上級講師であるティモシー・グラハム氏とシニアリサーチアシスタントのダニエル・ウェラン=シャミー氏が解説しています。

'Ukraine biolabs': how attempts to debunk a conspiracy theory only helped it spread
https://theconversation.com/ukraine-biolabs-how-attempts-to-debunk-a-conspiracy-theory-only-helped-it-spread-180403


アメリカの独立メディアであるNPRによれば、「ウクライナがアメリカ政府の支援を受けて生物兵器を開発していた」という陰謀論は極右翼のソーシャルメディア勢、保守系メディアのFOXニュース、QAnon陰謀論者に受け入れられ、拡散されました。FOXニュースの番組司会であるタッカー・カールソン氏は、ウクライナで生物兵器が開発されていたという陰謀論について、「明らかにアメリカ政府は嘘をついています。政府は自分たちがしていることを隠すために偽情報キャンペーンを行ったと言えます」と、陰謀論支持を主張しましたが、この主張を裏付ける具体的な証拠は示していません。

グラハム氏らはこの生物兵器研究施設に関する陰謀論がTwitterでどのように拡散されたかを調査するため、「ウクライナ」と「生物兵器研究施設」の両方に言及している投稿をリツイートしたTwitterアカウントを検索しました。次に、これらのアカウントがどのようにつながっているのかを見るために、2つのアカウントが同時に同じことをリツイートしているかどうかを調べました。

調査の結果、1469件のアカウントと2万6850件のリンクが確認されたとのこと。以下の図は「ウクライナ」と「生物兵器研究施設」の両方に言及している投稿を少なくとも1つリツイートしたアカウントを、ツールキットを使ってドットで可視化したもの。また、2つのアカウントが1分以内に同じツイートを複数回リツイートしている場合、そのアカウント同士は線で結ばれています。この図を見ると、1400件以上のアカウントが互いに結び付き、いくつものグループ(クラスター)に分かれていることがわかります。


グラハム氏らによると、アカウントのクラスターは50個存在し、そのうち49個が「生物兵器研究施設の陰謀論を否定しようとしている」ことが判明。そして残り1個だけが陰謀論を広めようとしていたそうです。この陰謀論を否定するクラスターの中心には、ホワイトハウス報道官のジェン・サキ氏やアメリカ国防総省、ウクライナ関連のニュースメディアであるキーウ・インディペンデント、イギリスのニュースチャンネルであるスカイニュースなどがあったとのこと。そして、生物研究施設に関する陰謀論に言及するクラスタが、サキ氏を中心とするものが最も大きいことから、サキ氏が陰謀論に言及したことでTwitter上で急速に広まったとグラハム氏らは述べています。

We took note of Russia’s false claims about alleged U.S. biological weapons labs and chemical weapons development in Ukraine. We’ve also seen Chinese officials echo these conspiracy theories.

— Jen Psaki (@PressSec)


陰謀論を否定するクラスターによって陰謀論が拡散されている現象は、「参加型偽情報」と呼ばれるプロセスで説明できる、とグラハム氏。この参加型偽情報は、政治家や有名人など注目度の高いユーザーがオンライン上でにニュースを発信することから始まり、オンラインユーザーがそのニュースに反応することで情報が拡散されていくというものです。

今回の生物兵器研究施設についての陰謀論は、オルタナ右翼向けプラットフォームであるGabでスタートし、QAnon勢のアカウントによってTwitterで拡散されました。しかし、Twitterで小さく話題になっているところを中国やロシアの外務省に取り上げられ、FOXニュースの番組で取り上げられたことで、陰謀論が「ニュース」となります。Twitterユーザーがこうしたニュースを取り上げる時、自分が日ごろから接しているメディアから影響を受けた「独自のフィルター」にかけ、ニュースに対する独自の解釈を構築し、投稿します。さらにそのニュースと解釈を別のユーザーが取り上げて、フィルターにかけます。グラハム氏は「こうしたプロセスは、自己強化型のフィードバック・ループで繰り返されます」と述べています。

最終的に陰謀論の是非はどうでもよくなってしまい、ホワイトハウス報道官やロシア政府高官が陰謀論に言及すると、まるで燃え広がる炎に酸素を供給するように陰謀論をいたずらに拡散させてしまうというわけです。グラハム氏は「旧来の陰謀論が主張を正当化するために複雑な理論に依存していたのに対して、新しい陰謀論は『単に多くの注目を浴びている』というだけで、その考えが真実となり得るのです」と述べています。


グラハム氏は「ソーシャルメディア上で陰謀論が広まり、政治的偏向を招き、民主主義の権威が損なわれるのを何度も目撃してきました。民主的な制度や原則に対する信頼がさらに低下する前に、メディアの生態系とその規制方法を見直す時期に来ています」と述べ、誤報や偽情報で利益を得るプラットフォームの意欲をなくすようなグローバルなシステム改革が求められると主張しています。同時に、政治家や政府高官は、陰謀論に言及することで意図せず拡散を助けてしまう可能性があることを知るべきだとしています。

また、グラハム氏は「ソーシャルメディアのユーザーへのアドバイスは、シェアやリツイートをする前によく考えるべきというお決まりのものです。コンテンツが感情的な反応を強く引き起こす場合、そのコンテンツが誤情報だということがよくあります。どうしても共有したい場合は、情報に解釈を加えて投稿するよりも、コンテンツのスクリーンショットを撮る方が、偽情報提供者を連鎖から切り離すことができるので、望ましいといえます」と述べました。

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in メモ,   ネットサービス, Posted by log1i_yk

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