サイエンス

ウサイン・ボルトvsディロフォサウルスの100m走はどっちが勝つのか?

By J. Brichto

100m走・200m走・400mリレーの3種を北京五輪・ロンドン五輪・リオ五輪と3連覇して「人類史上最速」の名声を欲しいままにした伝説のスプリンターのウサイン・ボルトと、ジュラシック・パークに登場する小悪党・ネドリーを毒液まみれにしたあの恐竜・ディロフォサウルスを「100m走で対決させる」という何とも奇妙な論文が発表されました。

Would Usain Bolt Beat the Dinosaur Dilophosaurus Wetherilli in a 100-Meter Race: The Physics Teacher: Vol 60, No 3
https://aapt.scitation.org/doi/10.1119/5.0041057

If Dilophosaurus ran the 100-meter against Usain Bolt, who would win? | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2022/03/if-dilophosaurus-ran-the-100-meter-against-usain-bolt-who-would-win/

ウサイン・ボルトは北京オリンピックの100m決勝で9秒69というタイムで当時の世界記録を塗り替えた際に「よそ見」をしていたことでも伝説になった人物。当時の記録映像を見ると、確かにゴールの直前に横を向いてしまっていることがよくわかります。

【公式】北京2008オリンピック 男子陸上100m ウサイン・ボルト選手【オリンピック感動名場面】 - YouTube


そんなウサイン・ボルトは北京オリンピックで100m走・200m走・400mリレーで金メダルを総なめにしたわずか1年後に開かれた第12回世界陸上ベルリン大会の決勝で、自身の記録を0.11秒縮めて新たな世界記録「9秒58」を樹立。この記録は10年以上にわたり破られていません。

【世界最速】人類がまた進化した!ウサインボルト9秒58【世界陸上ベルリン2009】 - YouTube


この人類最速の男を「恐竜と競争させよう」というのが今回の論文の主旨。恐竜の走る速度については意外にも多数の研究が発表されており、特にティラノサウルスについては2002年に「現存する骨格から脚の筋肉量などを概算すると最高速度は時速32km」という論文が発表されて以降も議論が盛んに続いており、2017年には「理論上は時速27kmまで出せるが最高速度に達する前にバテる」という論文や「時速18kmに達した瞬間に脚の骨が粉砕される」という論文が発表されています。

しかし、ウサイン・ボルトが世界記録を樹立した際に打ち立てたトップスピードは「時速44.7km」なので、ティラノサウルスは比較対象としてちょっと不適。というわけで、比較対象として選ばれたのが、ウサイン・ボルトの「平均速度」と一致する「最高速度」を持つとされるディロフォサウルスです。


ディロフォサウルスは恐竜映画の金字塔であるジュラシック・パークで、企業スパイとして暗躍するパーク管理者のネッドを毒液まみれにしたあの恐竜。

Jurassic Park (1993) - Nedry's Plan Goes Awry Scene (5/10) | Movieclips - YouTube


ただし、ジュラシック・パークの姿はエリマキトカゲにインスパイアされたもので、実際にはあのようなの襟飾りもなければ毒を吐く能力もなく、作中と実物で共通するのは「頭部に1対ある半月状のトサカ」のみとされています。


今回の論文で解説されているのは、ウサイン・ボルトの最高時速Vmax12.08±0.04m/s曲線あてはめにおけるパラメータk0.821±0.009s−1と、ディロフォサウルスのVmax10.5m/s、曲線あてはめのパラメータkを0.400±0.223s−1として、100m走のタイムを算出するという内容。これらの前提条件から割り出された、両者の秒速(Y軸)と時間(X軸)の関係を示すグラフが以下。ウサイン・ボルトは実線、ディロフォサウルスは破線で表されています。


これらの秒速を積分することで得られる走行距離(Y軸)と時間(X軸)のグラフが以下。こちらもウサイン・ボルトは実線、ディロフォサウルスは破線で表されています。


というわけで、結果的にはウサイン・ボルトはディロフォサウルスに2秒という大差をつけて100m走に圧勝します。

この奇妙な論文を掲載したのは、全米物理学者教員協会という名の「教育による物理学の知識の普及」を目指す団体。というわけで、今回の論文は「学生に興味を持って物理学を学んでもらうためにウサイン・ボルトと恐竜を活用しよう」という点が目的となっています。なのでウサイン・ボルトとディロフォサウルスの走行距離の算出も今回は加速度が一定ではありませんが、大学レベルの代数は初心者という学生に教えることを前提にしているので、あえて高度な微積分を使わずに「0.02秒ごとの加速度から速度を算出させ、そこから走行距離を割り出す」という定積分の原理を学ばせる手法が解説されています。

今回比較対象となっているディロフォサウルスも、その最高速度がウサイン・ボルトの平均速度に近いという理由で選出されていますが、これも「最高速度と平均速度の違いを体感してもらう」というコンセプト。論文著者のスコット・リー氏によると、ディロフォサウルスとウサイン・ボルトを100m走で対決させるという講義は、生徒の食いつきが良いそうです。

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in サイエンス,   生き物,   動画, Posted by darkhorse_log

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