サイエンス

宇宙で人が死ぬとどんな問題が生じるのか?


SpaceXやブルー・オリジンなど民間の宇宙企業が独自にロケットや宇宙船を開発し、日本人実業家の前澤友作氏が2021年12月に国際宇宙ステーション(ISS)に滞在したように、お金さえあれば宇宙旅行に行ける時代になりつつあります。しかし、人類が宇宙に進出するようになると、観光客が宇宙で帰らぬ人となるケースも十分あり得ます。もし宇宙で人が亡くなるとどのような問題が生じるのかについて、ノーザンブリア大学で宇宙法を研究するクリストファー・ニューマン教授と、航空医学・再生学を研究するニック・キャプラン教授が解説しています。

What happens when someone dies in space? Space tourism brings new legal and moral issues
https://theconversation.com/what-happens-when-someone-dies-in-space-space-tourism-brings-new-legal-and-moral-issues-169861

現代において、観光目的で宇宙に滞在できる期間は数分から十数日といったところ。日本の民間人として初めてISSを訪れた前澤氏の滞在期間はおよそ12日間でした。今後民間による観光宇宙旅行がより一般的なものになった場合、観光客が宇宙に滞在している間に亡くなる可能性は十分あり得ます。

国際宇宙法の下では、各国が国内すべての宇宙活動を認可し、監督する責任があります。アメリカでは、商業目的の観光宇宙飛行には連邦航空局が発行する打上げ許可証が必要です。そして、万が一商業の宇宙旅行で乗客を含む乗組員が死亡した場合、死因の特定が必要となります。宇宙飛行員の死亡が宇宙船の故障によるものと確認された場合、連邦航空局は調査が終わるまで、観光宇宙飛行を提供する会社に打ち上げの停止を命じます。

もし宇宙船の故障が原因ではないと判断された場合は、商業企業がすべての旅行者に対して負っている注意義務を検討し、ツアー参加者の命を守るために可能な限りの努力をしたかどうかを評価します。


さらに、国際連合が決議した宇宙法では、宇宙船を登録した国が当該宇宙構造物と乗組員の一切を管轄することになっています。そのため、宇宙船の管轄権を持つ国が、その乗組員の死因について調査を行う権限も有していると考えるのが自然です。年のコロンビア号空中分解事故では、犠牲になった7名の宇宙飛行士の中にはアメリカ以外の国籍を持つ者もいましたが、スペースシャトルはアメリカ政府機関であるNASAが打ち上げたものだったことから、アメリカ政府が主導で調査を行いました。

法的な問題と同時に解決しなければならないのが、遺体の処置についてです。宇宙で人が亡くなっても、遺体を地球に降ろすのは非常に困難。短期間のミッションであればすぐに遺体を地球へ持ち帰ることができますが、それでも生存クルーの衛生面に影響がないように保存されなければなりません。

また、火星有人探査のように何年もかけて行う場合、持ち帰るまで遺体を安全に保管することは至難の業。そこで、平均温度がおよそマイナス270度である宇宙で遺体を冷凍させて軽量化し、地球への帰還まで保管する方法がNASAで検討されています。


そして、宇宙空間で居住するのが当たり前になれば、遺体を宇宙で処分する方法も考慮する必要があります。映画「スタートレックII カーンの逆襲」では亡くなった登場人物の遺体を光子魚雷に入れて宇宙に発射するシーンが描かれましたが、現実で同様の処理をすると遺体がスペースデブリとなってしまう可能性があるため、望ましくありません。また、他の惑星に埋葬すると、その惑星の環境を生物学的に汚染してしまう可能性もあります。さらに火葬に至っては、宇宙生活で貴重な資源を大量に消費してしまうと考えられるため、現実的ではありません。

ニューマン教授とキャプラン教授は、「いつかは宇宙空間での遺体の保管や処分を技術的に解決する方法が出てくることは間違いありません。しかし、宇宙空間での死をめぐる倫理的な問題は、人類学的、法律的、文化的な限界を越えています。辛いことかもしれませんが、この問題は人類が宇宙に進出するために必要な議論の1つです」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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