サイエンス

宇宙空間で赤血球が破壊される「宇宙貧血」とは?


宇宙で任務をこなした宇宙飛行士の体では、遺伝子発現や体重に変化が生じることが知られています。そんな体の変化の1つに「宇宙貧血」と呼ばれる症状が存在していますが、この宇宙貧血のメカニズム解明に一歩近づく新たな研究結果が発表されました。

Hemolysis contributes to anemia during long-duration space flight | Nature Medicine
https://www.nature.com/articles/s41591-021-01637-7


We don’t know why, but being in space causes us to destroy our blood | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2022/01/we-dont-know-why-but-being-in-space-causes-us-to-destroy-our-blood/

JAXAの解説によると、宇宙空間に滞在する宇宙飛行士の体内では体液が上半身に多く集まるようになり血液が濃縮状態になるとのこと。血液が濃縮されると血栓などの危険性が高まるため、体内では濃縮された血液を薄めるために赤血球の破壊(溶血)が行われて全体的な血液量が少なくなります。これが宇宙貧血と呼ばれる症状です。

宇宙貧血の概要は上述のように説明されますが、その詳細な発生メカニズムは解明されていません。そこでオタワ病院に所属するガイ・トルーデル氏らの研究チームは、宇宙貧血のメカニズムを解明するべく宇宙飛行士の血中成分の経時的な変化を調査しました。

溶血が発生する際には、一酸化炭素が生成されます。一酸化炭素は溶血以外の要因でも生成されますが、トルーデル氏によると人体で生成される一酸化炭素の85%は溶血の際に生成されるものとのこと。そこで、今回の研究では宇宙滞在開始から5日・12日・3カ月・6カ月経過した時点の呼気を14人の宇宙飛行士から回収し、ガスクロマトグラフィーによって呼気に含まれる一酸化炭素の量を分析することによって、溶血によって破壊される赤血球の数を推定しました。

分析の結果、地球上では毎秒約200万個の赤血球が破壊されているのに対して、宇宙空間では毎秒約300万個の赤血球が破壊されていることが明らかになりました。さらに地球への帰還から1年後に同様の分析を行ったところ、宇宙空間に滞在していた宇宙飛行士の体内で破壊される赤血球の数が一般的な人と比べて約30%高いことも判明。このことから宇宙貧血の影響は地球に帰還後も長期間続くことが示されました。


宇宙空間で溶血が1.5倍多く発生する原因は明らかになっていません。トルーデル氏は骨髄か脾臓(ひぞう)に原因があると推測しており、今後の調査で原因を明らかにしたいと述べています。また、6カ月を超える長期間の宇宙滞在における宇宙貧血についても研究を進める意向を示しています。

さらに、トルーデル氏によると、心臓に問題を抱えている人や血栓の傾向がある人は宇宙空間で合併症のリスクがあるとのこと。このことから、テクノロジー関連メディアArs Technicaは「宇宙旅行が現実的になった現状を考慮すると、今回の研究結果は一部の宇宙旅行者に警告を与える可能性があります」と指摘しています。

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in サイエンス, Posted by log1o_hf

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