人工衛星経由でどこでもインターネットが使える「Starlink」を実際に使ってわかったという問題点とは?
宇宙企業・SpaceXが提供する「Starlink」は、人工衛星を経由して提供されるインターネットサービスで、インフラ整備が不十分な地域であってもインターネットが利用できるところが長所であり、利用したベータテスターの多くが「驚くべきパフォーマンスだった」とサービスを称賛する意見を投稿しています。しかし、利用者の1人である技術者のジェフ・ギアリング氏は、実際にサービスを利用した上で、「Starlink」に存在する具体的な問題点を複数挙げています。
I took down Starlink (but I haven't cancelled) | Jeff Geerling
https://www.jeffgeerling.com/blog/2022/i-took-down-starlink-i-havent-cancelled
I took down Starlink - YouTube
ギアリング氏が挙げた1つ目の問題点はアクセスと拡張、つまりサービスへの参加難度の高さと、開始したサービスの拡大の遅さです。
あまりネット環境が快適ではないギアリング氏は「Starlink」のパブリックベータテストが実施されるというニュースが出ると、代替手段になるか確かめるために、その日のうちに申し込みを行い、2021年2月から利用を開始しました。しかし、屋根の工事のためにアンテナを取り外したところ、Starlink自体をそのまま利用しなくなってすでに2カ月が経過しているとのこと。
「どうせ使わないのであれば」と、ギアリング氏は自分のアンテナを70マイル(約110km)離れたところに住むいとこに譲渡することを考えました。しかし、「アンテナの譲渡」もくせもので、サポート担当者に問い合わせると可能であるかのような説明だったものの、実際には「アンテナ購入待ち」と同じ待機列の最後尾に回されてしまう可能性が高いとのこと。いとこのネット環境はギアリング氏よりひどく、数kbpsしか出ないため、2021年3月にStarlinkに申し込み済みですが、損をすることになる公算が大というわけです。
なお、アンテナの住所移転については、当初はできなかったものの、2021年末に対応済み。ただ、いとこのStarlink申し込み内容について、当初は「2021年なかば~後半」から使える予定だったものが「2022年後半」に後ろ倒しになったという連絡が入っており、ギアリング氏は「イーロン・マスク氏が手がける他の事業で“永続的”な遅れが発生しているのを見た上で、この数字をどれだけ信頼できますか?」と述べています。
2つ目の問題点はハードウェアです。Starlinkはサービス開始時、直径23インチ(約58cm)の円形アンテナを利用していましたが、その後、アンテナを19インチ(約48cm)×12インチ(約30cm)の長方形のものに変更しています。小型・軽量になったことで運ぶときの負担が軽くなり、アンテナの固定具も円形アンテナの時より多少は簡素で大丈夫になりました。
ところが、キットに付属するルーターは新型になるとイーサネットポートが削られ、Wi-Fi接続のみになっており、有線接続したい場合は別途、20ドル(約2300円)するドングルを購入する必要があるとのこと。
そして、アンテナとルーターを接続するケーブルも、コネクタ部分が独特の形状のものに変更されています。このケーブルは交換用のものが60ドル(約7000円)で販売されていますが、中身そのものは単なるカテゴリ5eのLANケーブルだそうです。
このイーサネットポートの廃止と独自コネクタの採用について、ギアリング氏は「ばかげている」と憤っています。
3つ目は消費電力です。円形アンテナを利用しているギアリング氏の場合、1日にアンテナが消費する電力は80Wから90Wで、特に寒い日や雪の日は140Wに達することもあるとのこと。新型の長方形アンテナは平時は50Wに抑えられているものの、やはり厳しい環境下では100W以上に上昇するそうです。
このほか、ギアリング氏はStarlinkが多数の衛星を打ち上げて実現しているサービスだからこそ、「ケスラーシンドローム」を懸念しているとのこと。ケスラーシンドロームとは、スペースデブリ(宇宙を漂うごみ)の密度が限界を超えたとき、デブリ同士やデブリと人工衛星やその他の物体との衝突が連鎖的に発生し「デブリの自己増殖」状態になるというシミュレーション結果の1つです。
なお、消費電力については、他のユーザーから「既存のネットインフラがどうしようもない状態なので、Starlinkのようなサービスが利用できるのであれば、多少はしょうがない」という旨の意見も寄せられています。
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