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文章の入力位置を示す「点滅するカーソル」は1960年代に誕生した


人々がメールの文章やSNSのメッセージを入力している時、画面には次の文字や記号が入力される位置を示す「点滅するカーソル」が表示されています。あまりにも身近すぎて深く考えたことがない人も多いかもしれませんが、もし入力画面のどこにも点滅するカーソルがなかったら、一体どこに次の文字が現れるのかを知るのは難しいはず。そんな点滅するカーソルが誕生したのは意外に古く1960年代とのことで、ウェブメディアのInverseが誕生の歴史について解説しています。

54 years ago, a computer programmer fixed a massive bug — and created an existential crisis
https://www.inverse.com/innovation/blinking-cursor-history

初期のコンピューター端末を使う多くの人々が悩まされたのが、「次の文字が入力される場所を示す目印がない」という問題です。使用できる画面が非常に小さいこともあり、1960年代のコンピューター端末ではテキストの途中に別の言葉を挟んだり、単語を削除したりすることが非常に困難だったとのこと。


そんな課題に取り組んだのが、チャールズ・キースリング氏というアメリカの退役軍人でした。1930年にアメリカ・ミネソタ州で生まれたキースリング氏は、朝鮮戦争に従軍した後の1955年にスペリーランドという企業に入社。スペリーランドは後に他社と合併して国際的ITサービス企業のユニシスとなりますが、当時はUNIVACという初期の商用コンピューターを開発していました。

キースリング氏はスペリーランドのエンジニアとして、ディスプレイシステムのロジック回路の開発に携わったほか、点滅するカーソルも開発しました。点滅するカーソルの特許はキースリング氏が1967年に出願したものであり、2014年1月に83歳で他界した際の訃報記事にもこの業績が記されています。キースリング氏は生前、「カーソルがどこにあるのかを知らせるものが何もなかったため、点滅するカーソルを開発した」と息子に語っていたそうです

しかし、点滅するカーソルはすぐに世の中へ広まったわけではなく、Inverseは「この機能は1977年にApple IIに初めて登場し、後に1983年に発売されたApple Lisaにも組み込まれました」と述べています。以下の埋め込みムービーの55秒付近から、Apple IIのディスプレイ上で点滅するカーソルを確認できます。

Apple II - 1977 - YouTube


Apple IIが発売された翌年にAppleへ入社してMacintosh開発の主要メンバーとなったアンディ・ハーツフェルド氏は、ほぼ独力でApple IIを開発したスティーブ・ウォズニアック氏が、小文字入力機能と引き換えにして点滅するカーソルを組み込んだとInverseに語っています。ハーツフェルド氏は、「オリジナルのApple IIは小文字をサポートしなかったことで多くの人々を驚かせました。しかしデザイナーのウォズニアック氏は、文字入力の位置を点滅させることが小文字よりも重要だとするトレードオフを行いました」と、笑いながらInverseに話しました。

ウォズニアック氏はApple IIで小文字入力を断念した理由について、「当時はお金がなかったため」とも説明していますが、いずれにせよハードウェア的な制限で小文字入力を断念したのは確かなようです。なお、Appleの共同創設者であるスティーブ・ジョブズ氏は、「ユーザーはカーソルキーではなくマウスを使う」と考えていたため、オリジナルのMacintoshにはカーソルキーがないとのこと。

しかし、ハーツフェルド氏自身はApple IIで初めて点滅するカーソルを見たのではなく、その数年前にビデオ端末で見たことがあると述べています。IT系ウェブマガジンのHackadayに投稿された記事にも、1973年に発売されたディジタル・イクイップメント・コーポレーション製のビデオ端末「VT05」にカーソル点滅機能が搭載されていたことが指摘されるなど、Apple II以前にも複数の端末で使用されていた模様。

Blinking Cursor Turns 54, Hardly Anyone Notices | Hackaday
https://hackaday.com/2022/01/05/blinking-cursor-turns-54-hardly-anyone-notices/

実際に「VT05」の画面に点滅するカーソルが表示されている様子は、以下のムービーの42秒付近で確認できます。

DEC VT05 video terminal from 1973 in action - YouTube


その後、点滅するカーソルは一気に普及して当たり前のものとなり、現代ではGoogleドキュメントやメモ帳などの文書作成ソフト、FacebookやTwitterの投稿画面、検索エンジンの入力窓など、至る所でカーソルが点滅しています。インディアナ大学で人間とコンピューターの相互作用を研究するカール・マクドーマン准教授は、点滅するカーソルはシームレスかつ直感的であり、ユーザーの気を紛らわせることなく動作する優れた設計だと指摘しています。

点滅するカーソルは誕生から半世紀以上が経過してもなお健在ですが、ハーツフェルド氏はARなどの新たなテクノロジーの登場と共に、カーソルに代わる位置表示方法が現れる可能性もあると述べました。

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in ソフトウェア, Posted by log1h_ik

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