サイエンス

人間の顎に新たな「筋肉の層」が発見される


人間の解剖学的研究は古くから行われてきましたが、近年でもこれまで知られていなかった未知臓器が発見されるなど、いまだに新しい発見が続いています。新たにスイス・バーゼル大学の研究チームが、人間の顎に新たな「筋肉の層」を発見しました。

The human masseter muscle revisited: First description of its coronoid part - ScienceDirect
https://doi.org/10.1016/j.aanat.2021.151879


New muscle layer discovered on the jaw | University of Basel
https://www.unibas.ch/en/News-Events/News/Uni-Research/New-muscle-layer-discovered-on-the-jaw.html

Scientists Just Identified a Brand New Muscle Layer in The Human Jaw
https://www.sciencealert.com/scientists-just-identified-a-new-muscle-layer-in-the-human-jaw

人間が咀嚼(そしゃく)の時に使う筋肉の一種である咬筋は、頰の後ろ側に手を当てて咀嚼すると動きが感じられる部分です。解剖学の教科書では、咬筋は表面にある浅部と奥にある深部の2層に分けられていますが、研究チームは咬筋のさらに奥に、これまで見落とされてきた「第3の層」があることを発見したと報告しています。

以前から、動物の研究結果から咬筋が2層しかないという説には疑念が呈されていたそうですが、咬筋の未知の層に関するこれまでの言及は矛盾を含んでいたとのこと。そこで研究チームは、12個ものホルマリンで保存された頭部の詳細な解剖や、生きている被験者のMRIスキャン、献体から採取した組織切片の分析などを行い、咬筋の層を解剖学的に研究しました。


その結果、咬筋はこれまで指摘されていた2層ではなく、最も奥の層を加えた3層からなることが判明しました。論文の筆頭著者であるバーゼル大学生物医学科のSzilvia Mezey博士は、「咬筋にあるこの深い部分は、他の2層とは位置的にも機能的にも明確に区別できます」と述べています。

研究チームは新たに発見した筋肉の層を、「Musculus masseter pars coronidea」と名付けました。顎に存在する3つの層を色分けして示した図が以下。Sが表面にある浅部、Dが深部、赤く示されたCが今回発見された第3の層です。研究チームによると、第3の層における筋繊維の配置は下顎の安定に寄与しているほか、下顎を後ろ側に引っ張る役目も果たしているとのこと。


人間以外の哺乳類も咬筋に2層以上の筋肉があるそうですが、Musculus masseter pars coronideaに相当する層があるかどうかは明らかでないそうです。また、なぜかチンパンジーには今回発見されたものと同じ第3層が存在しないとのことで、人間特有のものである可能性も示唆されています。

新たな咬筋の層の発見は単なる解剖学的な正確性の向上だけでなく、下顎に関するあらゆる外科的処置や治療に役立つ可能性があるとのこと。バーゼル大学歯学部のChristoph Türp教授は、「過去100年間における解剖学的研究は隅々まで調べ尽くしてきたと一般に考えられていますが、私たちの発見は動物学者が新種の脊椎動物を見つけることと似ています」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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