「チューインガムで新型コロナウイルスの感染を抑える方法」はオミクロン株にも有効なのか?
多くの先進国では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が進んでいますが、依然としてデルタ株やオミクロン株といった新たな変異株の登場や、ワクチン接種から長時間が経過した人における感染増加など、予断を許さない状況が続いています。そんな中、ペンシルベニア大学などの研究チームが発表した「チューインガムをかんで新型コロナウイルスの感染を減らす方法」について、リーズ大学のウイルス学者であるグレース・ロバーツ博士が解説しています。
Debulking SARS-CoV-2 in saliva using angiotensin converting enzyme 2 in chewing gum to decrease oral virus transmission and infection: Molecular Therapy
https://www.cell.com/molecular-therapy-family/molecular-therapy/fulltext/S1525-0016(21)00579-7
Could a chewing gum really reduce the spread of COVID-19? Maybe -- but here's what we need to know first
https://theconversation.com/could-a-chewing-gum-really-reduce-the-spread-of-covid-19-maybe-but-heres-what-we-need-to-know-first-172636
COVID-19の患者を調査した過去の研究から、感染者の唾液や口内から高レベルの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が検出されており、味覚や嗅覚の喪失といった症状の重症度が唾液中のウイルス量と関連しているとの研究結果もあります。また、SARS-CoV-2が唾液腺や口内の粘膜で増殖することもわかっており、口内がSARS-CoV-2の主要な感染経路であると考えられることから、口内環境をターゲットにしたウイルス不活性化は有望なアプローチとなり得るとされています。
そこで研究チームは、マウスウォッシュなどより口内との接触期間が長い「チューインガム」を利用し、口内のSARS-CoV-2の量を減らす方法を考案しました。研究チームは、「SARS-CoV-2が人間の細胞に感染する際、細胞の表面にあるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)という受容体タンパク質を利用する」という点に着目し、ウイルスがACE2と結合するのを防ぐ物質をチューインガムに含有することにしました。
今回の実験に用いられたのは、植物由来の「コレラ毒素B(CTB)-ACE2」というタンパク質です。CTB-ACE2はその名の通りACE2の一種であり、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質と直接結合して「ウイルスを捕らえる」ことにより、SARS-CoV-2がヒト細胞に感染するのを防ぐことができるとのこと。
研究チームは遺伝子組み換えされたレタスから抽出したCTB-ACE2を粉末状にして、味や食感を整えたチューインガムに配合しました。また、比較対象として味や食感は整えたもののCTB-ACE2粉末を配合しなかった偽薬(プラセーボ)のチューインガムも製造し、CTB-ACE2の効果を確かめる実験を行いました。
実験では、研究チームはそれぞれのチューインガムを粉末状にして、COVID-19患者から採取した唾液サンプルを各チューインガム粉末と混合し、SARS-CoV-2の量がどのように変化するのかを調べました。その結果を示した画像とグラフがこれ。3人の患者から採取した唾液サンプルに含まれるSARS-CoV-2の量を示したAの画像を見ると、「Untreated(未処理)」「Placebo(プラセーボ)」ではほとんど差が見られないのに対し、CTB-ACE2粉末を配合した「ACE2-gum」では有意にウイルス量が減少していることがわかります。Bのグラフでも、「Control(対照群)」「Placebo Gum(プラセーボのガム)」と比較して、「ACE2 Gum(CTB-ACE2配合ガム)」ではウイルス量が減少していることが確認できます。
また、別の実験では「擬似型SARS-CoV-2(表面にSARS-CoV-2のスパイクタンパク質を有するものの無害なウイルス)」を使用して、CTB-ACE2配合ガムが細胞へのウイルス感染を抑えるかどうかを確かめました。その結果、わずか5mgのCTB-ACE2配合ガム粉末がウイルスの感染を有意に減少させ、50mgのCTB-ACE2配合ガム粉末はウイルスの感染を95%減少させたと研究チームは報告しています。
ロバーツ氏はこの研究について、口内環境を改善するためにチューインガムを利用することは新しい考えではないものの、ウイルスを標的にするのは新しいアプローチだと述べています。その一方で、実験結果からはCTB-ACE2配合ガムがSARS-CoV-2の感染能力を著しく阻害することが示唆されたものの、依然として研究の初期段階であることや実験室内の結果しか出ていないことから、「パンデミックのゲームチェンジャー」と見なすのは時期尚早だと指摘。
「研究室内での条件は、人の口内の条件とは異なったものでしょう。研究者らは咀嚼(そしゃく)シミュレーターマシンを使って、咀嚼の動きがガム内のCTB-ACE2タンパク質に影響を与えないことを示しましたが、まだ答えが出ていない他の質問があります。たとえば、体温や口内細菌といった人の口内の環境は、ガムの有効性に影響を与えるでしょうか?1枚のガムでどれくらい効果が続きますか?研究がこの段階に進めば、ガムが研究室と同じ効果を人々にもたらすかを見るのは興味深いものとなります」とロバーツ氏は述べています。
依然としてSARS-CoV-2ウイルス量を減らすチューインガムの正確な有効性は不明ですが、ロバーツ氏はこのチューインガムが有効であった場合、オミクロン株といった異なる変異株でも有効な可能性が高いとしています。これは、SARS-CoV-2がその変異とは関係なく、ACE2タンパク質と結合して細胞に感染するためです。
最後にロバーツ氏は、このチューインガムが口内のウイルス量や感染頻度を減らすとしても、目や鼻といった複数の感染ルートが存在する場合、口内への対処がどれほど感染予防として機能するのかは不明だと指摘。それでも、チューインガムは歯科手術や病棟での感染を減らす可能性があり、マスクの着用や換気、ワクチン接種といったその他の方法と組み合わせて使用することで、COVID-19のパンデミックを抑える対策になり得ると述べました。
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