サイエンス

「新型コロナデルタ株の感染力が高い理由」がウイルスに似た粒子を作る研究で判明、デルタ株に対抗する新薬の開発に光


新型コロナウイルスのデルタ株については、これまでの研究により「潜伏期間が短くウイルス量も1000倍以上」という点や、「発症前にウイルスを拡散させる可能性が高い」ことなど、非常に感染性が高いことが分かっていますが、そのメカニズムはよく分かっていませんでした。そんなデルタ株に似たウイルス粒子を用いた新しい研究手法により、デルタ株の感染力が高い理由が解明されました。この手法はデルタ株以外でも使えるため、将来的なウイルスの脅威の研究にも応用できると期待されています。

Rapid assessment of SARS-CoV-2 evolved variants using virus-like particles
https://www.science.org/doi/10.1126/science.abl6184

Why is Delta so infectious? New lab tool spotlights little noticed mutation that speeds viral spread | Science | AAAS
https://www.science.org/content/article/why-delta-so-infectious-new-lab-tool-spotlights-little-noticed-mutation-speeds-viral-spread

これまで、「新型コロナウイルスのゲノムの変異がどのような影響をもたらすか」についての研究は、ウイルスの表面にあるスパイクタンパク質(Sタンパク質)の研究に集中していました。その理由は、本物の新型コロナウイルスを意図的に変異させる実験にはバイオセーフティレベル3の設備を備えた高度な実験施設が必要であることから、代わりにレンチウイルスが使われてきたためです。ゲノムを組み替えることで、新型コロナウイルスのようなSタンパク質を発現させることが可能なレンチウイルスは、「疑似ウイルス」として新型コロナウイルスの研究に使われてきました。


しかし、レンチウイルスには「新型コロナウイルスのSタンパク質は合成できるがほかのタンパク質は合成できない」という欠点があります。そこで、グラッドストーン研究所のアブドゥラ・サイード氏らの研究チームは、新型コロナウイルスに似た構造を持ちながらも新型コロナウイルスのゲノムを含まない「ウイルス様粒子(VLP)」の開発に着手しました。

VLPの開発にあたり、研究チームはまず新型コロナウイルスの構造タンパク質の合成に関連している「T20」というゲノムの領域に着目。T20から作られたプラスミドを、実験用に培養されたヒト由来の細胞に導入して、新型コロナウイルスのウイルス様粒子(SC2-VLP)を完成させました。


このSC2-VLPは、新型コロナウイルスのSタンパク質を含む4種の構造タンパク質を持つので、本物の新型コロナウイルスと同じように細胞に付着して内部に侵入することができますが、自己複製に必要なゲノムは持っていないため安全に取り扱うことが可能です。また、研究チームはSC2-VLPに細胞を光らせるmRNAを追加したので、細胞の塊がどのくらい光るかを測定するだけで、SC2-VLPの感染力を簡単に調べることもできます。

SC2-VLPの開発に成功した研究チームは、次にウイルス粒子にさまざまな変異を加えました。その結果、新型コロナウイルスのデルタ株に見られる「R203M」という変異を起こしたSC2-VLPは、変異していない場合の数倍の明るさで細胞を光らせることが分かりました。この「R203M」という変異は、新型コロナウイルスのSタンパク質ではなく、ゲノムを保護する殻の役目をするヌクレオカプシドタンパク質(Nタンパク質)で起きる変異です。


SC2-VLPでの実験でNタンパク質の変異が感染力を高めることを突き止めた研究チームは、実際に人為的にR203Mの変異を起こさせた新型コロナウイルスを適切なバイオセーフティレベルの環境下で肺の細胞に感染させました。その結果、R203Mの変異を起こした新型コロナウイルスは、通常の51倍の感染力を持つことが確かめられました。この結果について、サイード氏は「デルタ株に見られるこの突然変異が、ウイルスが感染性粒子を作る能力を高め、より迅速に感染が拡大することが判明しました」と述べています。

また、今回開発されたSC2-VLPにより、バイオセーフティレベルが高い設備を持たない研究者でも新型コロナウイルスの4つの構造タンパク質の振る舞いを調べることが可能になります。そのため、論文が掲載されたScience誌の取材を受けたワシントン大学のジャスミン・チュブク氏は、「SC2-VLPは非常に魅力的で強力なツールです」とコメントしました。

研究チームは目下、デルタ株に見られるNタンパク質の変異がどのようにウイルスの感染力を高めるかを解明するとともに、そのメカニズムが人間の細胞内にあるどのようなタンパク質に関与しているかを調べる予定です。これにより問題のタンパク質が特定されれば、デルタ株の感染拡大を抑制する新薬の開発も可能だと期待されています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
新型コロナのデルタ株は従来株より「発症前にウイルスを拡散させる可能性が高い」ことが判明、ワクチンの効果も改めて示される - GIGAZINE

ワクチン未接種だと新型コロナデルタ株への感染率が5倍&死亡率が11倍になるという研究結果 - GIGAZINE

新型コロナのインド変異株「デルタ株」のさらなる進化形「デルタプラス株」とは? - GIGAZINE

新型コロナのデルタ変異株は「従来よりも潜伏期間が短くウイルス量も1000倍以上に増加する」と判明 - GIGAZINE

新型コロナウイルス感染のまさにその瞬間や複製メカニズムをアニメーションで分かりやすくするとこうなる - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1l_ks

You can read the machine translated English article here.