サイエンス

ヘディングした回数が多いサッカー選手ほど認知機能が低下しやすいことが判明

By Mark Bonica

サッカーの試合を観戦していると何度も目にする「ヘディング」は、脳機能に悪影響を及ぼす可能性が指摘されており、子どもがヘディングすることを禁じている地域も存在します。そんなヘディングと認知機能の関係がイングランドで行われた研究によって明らかになりました。

Cognitive ability in former professional football (soccer) players is associated with estimated heading frequency - Bruno - - Journal of Neuropsychology - Wiley Online Library
https://doi.org/10.1111/jnp.12264

Heading the ball is linked to cognitive impairment in retired professional footballers: new research
https://theconversation.com/heading-the-ball-is-linked-to-cognitive-impairment-in-retired-professional-footballers-new-research-170498

元イングランド代表サッカー選手であるジェフ・アストル氏の死因が「ヘディングのしすぎ」と認定されるなど、頭に強い衝撃が加わるヘディングが健康に悪影響を及ぼす可能性が近年指摘されています。そんな現状を受けてイングランドではプロサッカー選手に対して「強い負荷のかかるヘディング練習」を週に10回までにするように求めるガイドラインが制定され、11歳以下の子どもにヘディングを教えることを禁止するルールも作られています。

実際に、2019年に発表された研究では、元サッカー選手のスコットランド人男性の「神経変性疾患で死亡する可能性」がサッカー選手以外の男性よりも約3.5倍高いことが判明。加えて2021年の研究では、ヘディングを頻繁に行うポジションを担当した選手ほど神経変性疾患で死亡するリスクが高くなることも示されました。

ただし、上述の研究は「死亡した元サッカー選手」の情報を基に行われています。リヴァプール・ジョン・ムーア大学で脳について研究するダビデ・ブルーノ氏とキール大学でサッカーと脳の関係について研究するアンドリュー・ラザフォード氏は、「サッカーは世界で最もプレイされてるスポーツであり、プレイに伴うリスクを理解することが重要です。生きている被験者に関するデータを収集すれば、死亡したサッカー選手を対象とした研究よりも詳細な情報を理解するのに役立ちます」と主張し、生存している元サッカー選手を対象にヘディングと認知機能の関係を分析しました。


両氏は平均年齢68歳の元サッカー選手60人を対象に、アルツハイマー病の診断などに用いられる認知機能検査「Test Your Memory(TYM)」を実施。さらに、被験者から「プレイしたポジション」「キャリアの長さ」「トレーニング体制」「頭部外傷の有無」といったプレイヤーとしてのキャリアに関するアンケートを行いました。加えて被験者が試合やトレーニングごとに行ったヘディングの平均数を聞き取り、試合の出場数やトレーニング時間をかけ合わせて各被験者の総ヘディング回数を推定しました。

その結果、総ヘディング回数が多い被験者ほどTYMのスコアが低くなることが判明。さらに、ヘディング10万回ごとにTYMのスコアが3ポイント低下することも明らかになりました。両氏は「TYMにおける『3ポイント』という点差は、認知能力の低下を示すのに十分です。またプロサッカー選手の総ヘディング回数は数十万回に及ぶため、『10万回』という回数は多すぎる数ではありません」と指摘しています。


両氏は今回の研究について「私たちの知る限り、本研究は引退したプロサッカー選手のヘディングと認知障害との関連を裏付ける直接的な証拠を提供する最初の研究です。認知障害は認知症発症の兆候です。つまし、私たちの研究結果は頻繁なヘディングと認知症の発症に関連があることを示しています」と述べています。また、両氏は研究結果を基に「トレーニング中のヘディング回数を制限することは、おそらく正しいです。今後もヘディングがプレイヤーに与える影響や、影響を緩和する方法を調査する必要があります」と主張しています。

なお、日本サッカー協会は2021年4月30日からヘディング指導ガイドラインを公開しています。ガイドラインには「現時点ではヘディングに関わるリスクについては、その科学的な根拠は十分ではない。今後の医・科学研究の報告を十分にフォローしながら、本ガイドラインは常にアップデートされる」と記されています。

JFA 育成年代でのヘディング習得のためのガイドライン(幼児期~U-15)|指導者|JFA.jp
https://www.jfa.jp/coach/heading_guidelines.html

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in サイエンス, Posted by log1o_hf

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