サイエンス

「指パッチン」は人体で最高の加速度を生み出す動きであることが判明


中指や薬指を親指との間で突っ張り、摩擦で勢いよく手に打ち当てることで音を鳴らす「フィンガースナップ(指パッチン)」は、なんとなく子どもの頃に練習して身につけた人も多いはず。この指パッチンを、アメリカの研究チームがハイスピードカメラや最先端の力覚センサーを使って分析したところ、指パッチンが「これまで記録された中で人体が生み出せる最高の加速度を生み出す動き」であることが判明しました。

The ultrafast snap of a finger is mediated by skin friction | Journal of The Royal Society Interface
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsif.2021.0672


`Oh, snap!’ A record-breaking motion at our f | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/934621

Scientists find the fastest acceleration in the human body | Live Science
https://www.livescience.com/thanos-finger-finger-snap-fastest-acceleration-human-body

Why Thanos couldn’t have snapped his fingers while wearing the Infinity Glove | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2021/11/why-thanos-couldnt-have-snapped-his-fingers-while-wearing-the-infinity-glove/

指パッチンは古くから人間の文化として存在しており、紀元前300年頃の古代ギリシャの絵画にも描かれています。また、2018年の映画「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」では、スーパーヴィラン・サノスの指パッチンが大きな話題を呼びました。

アメリカのジョージア工科大学やハービー・マッド大学の研究チームは以前の研究で、生物で観察される驚くほど強力で超高速な動きを説明する一般的なフレームワークを開発していました。そんな中で「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」を見た研究チームは、このフレームワークを「指パッチン」に当てはめることに興味を持ったとのこと。

サノスは映画の中で金属製のインフィニティ・ガントレットを着用していますが、この状態では指パッチンに関与すると思われる皮膚の摩擦に影響が出るため、ジョージア工科大学で化学・生体分子工学部の助教を務めるSaad Bhamla氏は、「ガントレットを着けたサノスは指パッチンができないのではないか?」と考えたそうです。「私たちはサノスが実際に指パッチンができるかどうかを理解しようと、白熱した議論に突入しました」とBhalma氏は語っています。


そこで研究チームは、親指と中指の摩擦が指パッチンにおけるエネルギーの保持や解放に重要な役割を果たしていると考え、さまざまな条件で指パッチンの動きを分析する実験を行いました。

実験では高速度カメラを使い、3人の異なる被験者が行う指パッチンをさまざまな角度から撮影しました。被験者は手首の関節・指の付け根・指関節・中指の先端に目印となるテープを貼り、素手・滑らかなゴム手袋・ゴム製の指ぬき・ゴム手袋の下に金属製の指ぬきなど、さまざまな条件で5回ずつ指パッチンを行いました。なお、腕や指の疲労が指パッチンの精度に影響を与えないよう、各指パッチンの間には1分間の休憩を設けて筋肉の疲労を軽減したとのこと。


記録したデータを高速画像処理・自動画像処理・動的力センサーなどを使用して分析した結果、素手による指パッチンは毎秒7800度の回転速度と毎秒160万度2の回転加速度を合わせ持つことが判明。指パッチンの回転速度は、これまでに記録された中で最高である「プロ野球のピッチャーが投球する際の腕の回転速度」より遅いものの、回転加速度はこれを3倍も上回っており、これまでに測定された中で「人体が生成する最高の回転加速度」を持っていると研究チームは述べています。

Bhamla氏は、「過去数年間、私たちは指をパチンと鳴らす方法に魅了されてきました。これは私たちの指先にありながら深く調査されていない、本当に驚くべき物理学のパズルです」「データを最初に見た時、私は椅子から飛び上がりました。指パッチンはわずか7ミリ秒で発生しており、150ミリ秒かかるまばたきの20倍以上もの速さです」とコメントしました。


指パッチンでは腕の筋肉が「モーター」となって指の腱(けん)に位置エネルギーを負荷し、親指と中指を突っ張ることで蓄えた位置エネルギーを、中指と親指が摩擦でこすれると共に短時間で解放するというメカニズムだとのこと。しかし、ゴム製の手袋や指ぬき、金属製の指ぬきなどを着用すると、摩擦が増えたりスナップに必要な皮膚特有の圧縮性が失われたりして、指パッチンができなくなってしまうことがわかりました。

人間の皮膚が「指パッチンに最適な摩擦力のゾーン」を構成するという今回の実験結果は、数学的なモデルによっても確認されました。指パッチンの新たなモデルは、アリやシロアリが顎に力を蓄える方法などその他の生体力学的動作を理解する鍵になるほか、ハイテク義肢の設計やソフトロボティクスなどの摩擦ダイナミクスの改善に役立つ可能性があるとのこと。

論文の筆頭著者であるジョージア工科大学の学部生・Raghav Acharya氏は、「私たちの研究結果は、サノスは金属製の装甲で指を覆っていたために指パッチンができなかったことを示唆しています。つまり、実際の物理学ではなく、おそらくハリウッドの特殊効果が働いているのでしょう!」と述べました。

by Michael Li

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in サイエンス,   映画, Posted by log1h_ik

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