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「悲惨な市の公式アプリ」の代替となるアプリの開発者が警察の捜査を受けた経緯とは?


スウェーデンのストックホルム市では教育を受ける子どもや保護者、教師を支援するため、2018年8月から「Skolplattformen(School Platform)」という教育支援用アプリが導入されました。ところが、Skolplattformenはシステム自体が使いにくい上に動作しない機能も多かったため、ITに詳しい保護者らが代替となるアプリを独自に作成したところ、市当局から報告を受けた警察が捜査に乗り出す事態になったとのことです。

These parents built a school app. Then the city called the cops | Ars Technica
https://arstechnica.com/information-technology/2021/11/these-parents-built-a-school-app-then-the-city-called-the-cops/

Skolplattformenは、出席の登録から成績の記録といったあらゆる教育システムを技術的に支援し、保護者や教師、子どもの生活を楽にするために開発されたアプリです。ストックホルム市は2013年にSkolplattformenの開発プロジェクトを開始し、2018年8月からスウェーデン市の公式アプリとしてリリースされました。アプリは5つの外部企業によって保守される18の個別モジュールを持った複雑なシステムであり、600の未就学児童向け施設や177の学校で使用されていますが、「うまく動作しない」という根本的な問題があったとのこと。


10億スウェーデンクローナ(約132億円)もの費用がかけられたSkolplattformenでしたが、システム立ち上げの遅れやプロジェクトの管理ミスが報告されており、保護者や教師、子どもはシステムの複雑さに不満を漏らしています。保護者は「授業で必要な持ち物の確認」や「病欠の連絡」すら非常に困難だそうで、Androidアプリの平均評価は1.2iOSアプリは1.1という異常な低評価を受けています。

そこで、スウェーデンでイノベーションコンサルティング企業を経営しており、自身も子どもを持つ親であるChristian Landgren氏は、2020年11月から「Skolplattformenの代替となるアプリ」の開発を始めました。Landgren氏は自分と同じくソフトウェア開発者で子どもを持つ親でもある2人の仲間とチームを結成し、Skolplattformenが使用するAPIを呼び出して実行する代替アプリ「Öppna skolplattformen(Open School Platform)」を開発しました。

Öppna Skolplattformen
https://skolplattformen.org/


2021年2月12日にリリースされたÖppna Skolplattformenは、教師や子どもも利用するSkolplattformenとは違って保護者専用の代替アプリです。保護者はSkolplattformenでも使われているスウェーデンのデジタルIDシステム・BankIDを使用してログインし、学校のスケジュールや行事、成績、教師からの通知、カフェテリアのメニューなどを確認できるほか、子どもの病欠を報告するといった操作も可能だとのこと。

これらの情報は全てSkolplattformenのAPIを介して取り込まれており、共同開発者のJohan Öbrink氏は「私たちがÖppna Skolplattformenで表示するのは、全て公開された情報です」と述べています。記事作成時点では、AndroidアプリiOSアプリのいずれも平均評価が4.0を超えており、保護者からの評価は1点台前半の公式アプリを大きく上回っています。また、Öppna SkolplattformenはオープンソースライセンスとしてGitHubでも公開されており、民間人だけでなく市当局もコードを利用できるようになっています。

ところが、ストックホルム市はÖppna Skolplattformenを歓迎するのではなく、「違法なアプリの可能性がある」としてアプリのリリース前からLandgren氏に警告していました。アプリがリリースされた後は「アプリが違法に個人情報へアクセスしている可能性がある」と主張してデータ保護当局に報告したほか、2月末には潜在的な個人データへのアクセスを阻止するためにSkolplattformenのセキュリティ更新を実施。これによってÖppna Skolplattformenが利用するAPIをシャットダウンしましたが、Öppna Skolplattformen側も更新を行って再びAPIを利用可能にしたそうで、その後も数カ月間にわたって「Skolplattformenが更新を行い、Öppna Skolplattformenも対応する」というイタチごっこが続いたとのこと。

また、4月初旬には市当局がÖppna Skolplattformenに対してGitHubのソースコードを非公開にすることを要求したほか、4月15日にはストックホルム市の教育局が「システムを法的に調査した結果、刑法に基づくデータ侵害の懸念がある」と発表。この動きの最中にも、Landgren氏はストックホルム市教育局の職員と面会してアプリの懸念に対処していましたが、ストックホルム市は警察にÖppna Skolplattformenを報告してLandgren氏らは捜査対象となってしまいました。Landgren氏は「これはかなり恐ろしかったです」と述べていますが、自分の下を訪れた捜査官が「オープンソースアプリとは何か」という初歩的な質問をしてくるなど、教育局や警察が行った調査には疑問があるとしています。


捜査が行われる中でもÖppna Skolplattformenの開発は進められ、最大で40人のボランティアが開発に携わり、バグの修正や検索機能の追加といった作業に従事したとのこと。結果として、8月には警察の捜査チームを率いるÅsa Sköldberg氏が「私たちはÖppna Skolplattformenに犯罪者が関わっているとは思いません」と述べ、9月にはストックホルム市がÖppna Skolplattformenのデータアクセスを認めたと発表。しかし、この連絡がある数日前にもSkolplattformenはセキュリティ更新を行い、Öppna SkolplattformenのAPIを妨害していたそうです。

ストックホルム市が方針を変えたことにより、Öppna Skolplattformenは市と公式の契約を結ぶことが可能となりました。Landgren氏はもともと収益化するためにÖppna Skolplattformenを開発したわけではないものの、ボランティアらに貢献に対する報酬を支払うため、市がアプリのライセンス契約を結ぶことを望んでいます。また、すでにストックホルム市以外からもÖppna Skolplattformenは注目を集めており、スウェーデン第2の都市・ヨーテボリ市の当局も保護者らと協議を行っているとのこと。Landgren氏は、チームがアプリの新しいバージョンの開発に取り組んでいると述べています。

スウェーデンはSpotifyKlarnaといったテクノロジー系スタートアップが誕生した地ですが、2019年の報告では公共部門のデジタル化はOECD諸国で最下位だとされています。Landgren氏は、政治家や行政は市民に提供するサービスを巨大なITプロジェクトとして調達するべきではなく、Öppna Skolplattformenのように実際にサービスを使用する人々が開発に携わる形で進めるべきだと主張しました。

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in モバイル,   ソフトウェア, Posted by log1h_ik

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