ソフトウェア

メディアプレイヤー界の王「VLC」は学生の小規模プロジェクトから生まれた


メディアプレイヤーの「VLC」は、Windows・macOS・Linux・Android・iOSといった複数のプラットフォームで動作可能な、動画・音声データなどを再生するためのソフトウェアです。2012年に10億回ダウンロードを達成し、記事作成時点では30億回ダウンロードを達成するなど、圧倒的な支持を得ているVLCですが、その始まりは大学生たちによる小規模なプロジェクトでした。

The team that powers VLC – Increment: Teams
https://increment.com/teams/the-team-that-powers-vlc/

◆学生によるプロジェクトとして誕生
VLCを開発したのはフランスの名門大学であるエコール・サントラル・パリの学生らです。記事作成時点でのVLCのリード開発者を務めているジーン・バプティスト・ケンプ氏も、2003年に同校に入学した学生で、当時はコンピューターネットワークの運営を支援するという役割を任されていたとのこと。エコール・サントラル・パリの学生チームは、VLCの開発プロジェクトを「ネットワーク2000」と呼んでおり、プロジェクトはサーバー上で1996年からスタートしていたそうです。

その後、紆余曲折を経てVLCの開発を行うための非営利団体VideoLANが設立され、ケンプ氏はそのトップとして議長という任を担っています。

VLCは日本語版も無料で公開されており、Windows・macOS・Linux・Android・iOSといったOSで利用可能。

Official download of VLC media player, the best Open Source player - VideoLAN


チームでのソフトウェア開発に関する読み物をまとめたメディアのIncrementは、「VideoLANがダウンロード数を計測し始める前からVLCが大成功を収めることは明らかでした」と記しています。NetflixやYouTubeといったストリーミング再生で映像コンテンツを視聴するよりも前の時代、ユーザーは動画や音楽を再生するためのメディアプレイヤーに関してほとんど選択肢を持ち合わせておらず、数少ないメディアプレイヤーの品質も優れたものではありませんでした。

多くのPCユーザーにとって最初の選択肢となったメディアプレイヤーがMicrosoftの「Windows Media Player」でした。このWindows Media Playerは初心者レベルのPCユーザーにとっては十分なものでしたが、「明らかにパワー不足なソフトウェアだった」とIncrement。ほかにもRealPlayerなどのメディアプレイヤーが存在しましたが、「奇妙なコーデックとファイル形式にユーザーを固定してしまう」など、当時のメディアプレイヤーには何かしらの不満点が散見されたとのこと。

MediaPlayerClassicやGOM Playerなど多数のプレイヤーがありつつもスタンダードとまでは至らなかったメディアプレイヤー界に颯爽と現れたのがVLCでした。1996年に開発がスタートし、2001年にはGNUライセンスの下で配布され、無料で一般ユーザーが使用できるようになります。リリース当時、GNUライセンスのようなオープンソースのソフトウェアは珍しく、無料で入手できるにもかかわらず高性能かつ高いカスタマイズ性を有しているということで、VLCはたちまち人気を得ることになったとIncrementは記しています。このほかに、コーデックの導入が不要だったのも人気の一因だったと考えられます。


VLCは元は学生が安全な環境でコーディングを実践するためのサンプルとして開発が進められてきたものであるため、開発の初期にはエコール・サントラル・パリが多くのリソースを投入し、正式な教育プログラムの一環として開発が進められました。しかし、VLCがメディアプレイヤーとして成功を収めたため、学校の中の1つのプロジェクトとしてサービスを提供していくことが限界を迎えつつあったそうです。

◆エコール・サントラル・パリとの決別
VLCでリード開発者を務め、自身も学生時代からVLCの開発に携わっているというレミ・デニス・クールモン氏は「2007年にはどこにもVLCを本当の意味で管理している人はいないという状況に陥っていました。また、VLCの開発は少し辛いものでした。そして、VLCはエコール・サントラル・パリの学生たちが本当に開発したいと思うものではなくなっており、また、開発できる規模のものでもなくなりつつありました」と語り、学校の授業の一環としてVLCを開発することが難しくなりつつあった当時の状況を明かしています。

さまざまな側面から限界を迎えつつあったVLCの開発プロジェクトを救ったのがケンプ氏でした。ケンプ氏はVLCの開発を続けるために、エコール・サントラル・パリとの関係を絶つという判断を下します。


それ以来VLCは大きな変化を遂げています。学生たちによる小規模なソフトウェア開発プロジェクトであったVLCは、記事作成時点ではVLCの開発およびコンサルタントを業務として行う企業を生み出しています。もちろんVLC自体は記事作成時点でも誰もが無料で利用可能なオープンソースのソフトウェアとして開発・提供されています。

VLCの開発初期は、2~5人が常に開発を行い、約12人が半定期的に開発に携わるというソフトウェア開発プロジェクトだったそうです。しかし、ケンプ氏が積極的にプロジェクトに携わるようになった2007年時は「プロジェクトに実際に関与しているのは1人(クールモン氏)だけでした」とケンプ氏は語っています。


開発に携わる人の数が少なかったことから、VLCのエコール・サントラル・パリ離脱計画はスムーズに進行したそうです。2007年、ケンプ氏は過去にVLCの開発に関わってきた人々すべてに電話をかけ、「大学側がVLCの開発プロジェクトをサポートし続けることが不可能な状況に陥っていること」「プロジェクトに参加してくれる学生が圧倒的に不足していること」「学校内のプロジェクトとしてソフトウェア開発を維持することが困難になっていること」を説明し、大学からの離脱について理解を求めたそうです。

当時を振り返りながら、クールモン氏は「プロジェクトを学校から切り離すという決断は難しいものだったが、当時の自分たちには本当にそれ以外の選択肢がありませんでした」と語っています。

エコール・サントラル・パリから独立したことで、VLC開発プロジェクトは「どのように開発を進めていくか?」を決める必要がありました。そこで、2008年に初の開発者向け会議を開き、開発者を募り議論が行われたそうです。そこでケンプ氏は「非営利でやろう」と提案したと語っています。その後、必要な書類を提出して瞬く間にVLCを開発するための非営利団体であるVideoLANが誕生することとなった模様。なお、開発プロジェクトが学校を離れたのちも、チームの働き方に大きな変化はなく、実際に提供されるVLCの質自体にも変化はなく「VLCを使用している一般の人はまったく違いを感じることがなかったでしょう」とIncrementは記しています。


VLCは前述の通り2001年にGNU GPL v2.0ライセンス下でリリースされ、関係者以外も利用可能なメディアプレイヤーとなりました。また、オープンソースのソフトウェアとして配布されたことで、その後のVLCの「WindowsおよびmacOSのサポート」にもつながった模様。

◆コアチームの多様化
VLCをオープンソースとしてリリースしたことは、開発におけるコアチームを多様化することにもつながりました。VLCの開発に最も長く貢献しているというフェリックス・ポール・キューネ氏は、当時16歳の高校生だった2003年初頭から開発に携わっています。当時、キューネ氏はコーディングもできなかったそうですが、ドイツ出身であったためVLCをドイツ語へ翻訳するという作業に取り掛かります。キューネ氏はVLCのダイアログボックスやメニューなどのあらゆる単語をドイツ語に翻訳し、翻訳内容をまとめた文書をVLCの開発チームにメールで送信したそうです。

キューネ氏は当時のことを振り返りながら、「メールを送信してからしばらくして、私よりも5歳年上のソフトウェアコーディングに熟練した大学生が私に話しかけてきました。チャットプラットフォーム上で連絡を取り合いながら、追加する機能について話し合ったのち、コーディングの方法を学びました」と、ドイツ語版VLCを開発するための当時の取り組みについて語っています。

記事作成時点ではドイツのブレーメンにある救急医療センターで医師として働いているというキューネ氏は、今でもVLCの開発における主任を務めているとのこと。キューネ氏はプロジェクトに貢献するべく、献身的な開発者を探す役割を担っているそうです。VLCは非常に人気の高いソフトウェアになりましたが、記事作成時点でも開発に携わるコアメンバーは非常に小規模なまま維持されているそうで、ケンプ氏は「コアチームのメンバーは10人ほどですが、毎年100人から150人が開発に貢献しています」と語っています。


VideoLANは非営利の団体ですが、VLCは同時に組織の営利部門を担うVideolabsというコンサルティング企業も生み出しています。このVideolabsはVLCをスマートテレビや携帯電話に搭載するための作業を行うなど、非営利団体のVideoLANではできなかったVLCの商用利用を担当しているとのこと。ケンプ氏は「VLCはオープンソースとして引き続き無料で利用できるソフトウェアで、開発プロセスも完全に公開されています。そして、営利部門を担当するVideolabsはほとんどのユーザーに気づかれていません」と、Videolabsについて説明しています。

Videolabsはコンサルティング企業として「VLCのモバイルへの適応」も支援しています。キューネ氏は「VLCの開発に携わり始めた時、iPhoneやiPadでVLCが利用できるようになるとは思っていませんでした。しかし、今はAndroidやiOSのユーザー数は、デスクトップユーザーの数とほぼ同じです」と述べました。

一方のVideoLANは、Dockerの導入や、VLCにとって需要の高い機能を開発した人物に対する報酬プログラムの実装などにより、VLCの開発に携わることが開発者の利益につながるような環境の整備を進めています。また、VideoLANは年に2度の開発者向け会議を開くことで、VLCの開発に関する議論を積極的に行い、ユーザー目線での開発が進められるよう努力しているそうです。

なお、長らく続けられているVLCの開発者向け会議のおかげで、VLCの開発に携わるグローバルな開発チームが複雑な開発コミュニティを形成することにつながり、「エコール・サントラル・パリの中で学生主導で開発が進められていた時のようなコミュニティを構築することにつながった」とIncrementは記しています。


VLCはデスクトップアプリでありモバイルアプリでもあり、開発には非営利団体と営利企業が関係しているなど、奇妙な組み合わせが複雑に絡み合っています。また、VideoLANとVideolabs間でのコミュニケーションはInternet Relay Chat経由で行われているそうですが、チーム間のコミュニケーションはここ数年で徐々に少なくなっており、クールモン氏もVLCの将来を「心配している」と述べています。

しかし、クールモン氏は「VLCはまだ数百万人のユーザーを抱えています。そのためVLCが消えることはありません」とコメント。さらに、ケンプ氏は「5年、10年後にどうなるかはわかりません。しかし、我々は有用な優れた技術を開発しています」と語り、VLCの質と開発の質の両方に自信を持っていると述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
超万能メディアプレーヤー「VLC」にPC乗っ取りが可能になる脆弱性が見つかる - GIGAZINE

「VLCメディアプレーヤーに重大な脆弱性を発見」は誤報であると開発元のVideoLANが声明を発表 - GIGAZINE

超万能メディアプレーヤーのVLCが一部のHuawei製スマホをBANしていたことが判明 - GIGAZINE

マルチメディアプレイヤー「VLC」が10億ダウンロードを達成 - GIGAZINE

in ソフトウェア, Posted by logu_ii

You can read the machine translated English article here.