瞳孔のサイズは明るさだけでなく「知覚している物体の数」でも変化することが判明
網膜に到達する光を通す瞳孔は、明るい場所では収縮して取り込む光量を減らし、暗い場所では拡大して光量を増やします。ところが、瞳孔のサイズは光だけでなく「見ている物体の数」によっても変化することが、新たな研究で示されました。
The pupil responds spontaneously to perceived numerosity | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-021-26261-4
More than light detectors: the magic of your eyes' pupils - The University of Sydney
https://www.sydney.edu.au/news-opinion/news/2021/10/25/more-than-light-detectors--the-magic-of-your-eyes--pupils.html
The Pupil in Your Eye Can Perceive Numerical Information, Not Just Light
https://www.sciencealert.com/pupil-size-changes-depending-on-how-many-objects-we-re-looking-at
「ものを数える」という能力はかなり高度な知的行為に思えるかもしれませんが、人間以外にもサルやカラス、ミツバチなども数を認識する能力を持っている他、生まれて間もない人間の赤ちゃんも数の概念を持っていると考えられています。
シドニー大学心理学部のデヴィッド・バー教授は、「私たちが周囲を見回す時、見えるものの形や大きさ、動き、色を自発的に知覚しています。これと同様に、私たちは目の前にある物体の数も自発的に認識しています。他のほとんどの動物と共有されているこの能力は進化の基本です。この能力により、木の上にあるリンゴの数や攻撃してくる敵の数など、重要な数をすぐに認識可能です」と述べています。
数の認識が自発的に知覚されることは非常に重要であることから、バー氏らの研究チームは「人間の原始的な生理学的反応の中に、物体の数を自発的に認識する能力の証拠が存在するのではないか」と考えました。そこで研究チームは、光に応じて自動的に収縮・拡大を行う瞳孔の大きさが、知覚する数の大小に応じて変化するのではないかと考え、実験を行うことにしました。
研究チームは16人の被験者に対し、18個または24個の点が記された画像を見せ、その後で点同士を線でつないだ画像を見せました。2枚の画像では点の数自体は変わっていませんが、点同士を線で結んでダンベル状に接続すると点の数が少なく感じるという錯覚が存在するそうです。
被験者は画像を見る際に何かのタスクを課せられたわけではなく、ただ受動的に画像を見ることだけを求められました。その後、研究チームが被験者に「1枚目の画像と2枚目の画像のどちらにより多くの点が描かれていたか」を判断するように求めたところ、2枚目の画像で知覚した点の数は1枚目より平均で20%以上も少ないことが確かめられたとのこと。
さらに、画像を見せた6秒間で瞳孔のサイズがどのように変化したのかを分析した結果、実際には1枚目と2枚目で点の数が変わっていないにもかかわらず、錯覚により「点の数の知覚」が変化すると瞳孔のサイズも変化することが判明しました。瞳孔の直径は知覚された点の数が多い時に拡大し、点の数が少ない時に収縮したと研究チームは述べています。
研究に参加したフィレンツェ大学のエリザ・カスタルディ博士は、「この結果は、数値情報が本質的に知覚と関連していることを示しています。これは重要かつ実用的な意味合いを持つ可能性があります」とコメント。たとえば、数を認識する能力は(PDFファイル)算数障害という学習障害によって損なわれますが、多くの場合は十分に年齢が高くならないと障害があることに気付けません。しかし、今回の実験を応用した「画像を見せて瞳孔の収縮や拡大を調べる」というテストを開発すれば、まだ算数を習っていない幼い子どもであっても算数障害の有無を早期に判定できる可能性があるとのことです。
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