AMD復活の功労者でFPGA開発企業CEOのジム・アンダーソン氏へのインタビューが公開中
AMDのコンピューティングおよびグラフィックビジネス部門のシニア・ヴァイス・プレジデントを務め、ジム・ケラー氏が手がけたZenアーキテクチャによるRyzenシリーズの展開を指揮し、倒産寸前だったAMDの復活を影で支えた功労者として知られているジム・アンダーソン氏は、2018年にAMDを退社し、FPGAを中心に開発する半導体企業・ラティスのCEOに就任しました。そんなアンダーソンCEOへのインタビューを、ハードウェア関連ニュースサイトのAnandTechが公開しています。
An AnandTech Interview with Jim Anderson, CEO of Lattice Semiconductor
https://www.anandtech.com/show/16879/an-anandtech-interview-with-jim-anderson-ceo-of-lattice-semiconductor
以下はその膨大なインタビューの一部です。
Q:
アンダーソン氏はAMDのコンピューティングおよびグラフィックスビジネス部門のシニア・ヴァイス・プレジデントを退職してAMDを去り、ラティスのCEOを3年も務めています。消費者向けハードウェアからFPGA開発の分野に移った理由はなんですか?
アンダーソンCEO:
私はAMDでの仕事が好きでしたし、AMDのスタッフを愛しています。AMDのスタッフは素晴らしい人たちで、非常に決断力があります。しかし、ラティスからコンタクトがあった時、このチャンスを逃したくないと思いました。それは、ラティスが1980年代初頭からおよそ40年にわたってFPGAの開発を行ってきた企業の1つだからです。ラティスは小型で電力効率の高いFPGAを中心に革新を起こす、他に類をみない企業です。ラティスのFPGAはさまざまな市場であらゆるアプリケーションに使われています。
私は、もしラティスに入社すればラティスがさらに前進するための道筋を作り、よりよい製品をより早く開発する手助けができると考えました。ラティスの製品ラインを完全に再構築し、軌道に乗せるまでの3年間は非常に楽しいものでした。私たちはこれからの数年間をさらに楽しみにしています。
Q:
ラティスの存在を知っていればラティスがFPGAのメーカーであることは承知していると思いますが、ほとんどの人はFPGAといえばAMDに買収されたザイリンクスと、Intelに買収されたアルテラを思い浮かべると思います。ザイリンクスやアルテラと比べて、ラティスが業界内でどういう位置付けにあるのか、そしてそれがなぜ重要なのかを教えてください。
アンダーソンCEO:
ザイリンクスやアルテラは非常に大規模かつ高出力で複雑なFPGAに焦点を当てています。一方でラティスが得意としているのは、小型で電力効率が高く、非常に使いやすいFPGAです。物理的あるいは電力的制約によって、競合他社の製品では対応できないあらゆるアプリケーションに対応できるため、ラティスのFPGAは産業用IoTや産業用オートメーション、通信機器、ロボット工学で採用されています。
アンダーソンCEOが持つピンセットの先にあるのがラティス製の1.4mm四方のFPGA。
このFPGAをAMDのThreadripperと比較した画像が以下。
さらにラティスの広報担当からインタビュイーのもとに送られてきたラティス製のFPGAがこれ。1mm以下のサイズで、虫眼鏡を使わないと見えないレベル。
These @latticesemi FPGAs that just arrived in the mail are smaller than 1mm x 1mm. I can hardly see them without a magnifying glass of some sort.
— ????????. ???????????? ???????????????????????????? (@IanCutress) July 28, 2021
If I try and bite into these, they'll get consumed. Maybe I can use them as sprinkles. pic.twitter.com/BHbxrH0HbQ
Q:
アンダーソンCEOはマサチューセッツ工科大学で電子工学の修士号を修め、その後にIntelのCPUアーキテクトとして活躍していた経歴があります。アーキテクトから半導体製品の戦略的計画、マーケティング、AMDのプロセッサやグラフィックス、そして今ラティスに至るキャリアは何を求めた結果なのでしょうか?
アンダーソンCEO:
確かに仰るとおり、節操のない経歴ですね(笑) 私はXeonやItaniumに関わるCPUアーキテクトとしてキャリアをスタートしました。しかし、その後はマルチコアデジタルシグナルプロセッサや通信で使われる非常に複雑なネットワークプロセッサ、ASIC、消費者向けのCPUやグラフィックスの開発を経て、今はFPGAの開発に取り組んでいます。私の経歴の共通点は半導体業界で働いてきたことだと思います。半導体業界は基本的にテクノロジー業界全体の基盤となる業界であり、また他の業界にとっても縁の下の力持ちであり、半導体業界で働くことは非常にエキサイティングだと思っています。
Q:
仕事でFPGAの話題になると、「なぜASIC(特定用途向け集積回路)ではなく、わざわざ量産コストがかかるFPGAなのか」と聞かれることがよくあります。ラティスの顧客やFPGAは、なぜASICではなくFPGAを選ぶのでしょうか?
アンダーソンCEO:
それには技術的な理由と経済的な理由があります。
技術的な理由としては、顧客はシステム設計に革新をもたらそうと考えており、市場での差別化を図っています。そのソリューションとして、カスタマイズ性と適応性に優れたFPGAが採用されるというわけです。FPGAの利点は必要なものに合わせてカスタマイズできるというだけでなく、システムの寿命が尽きるまで再プログラミングが可能ということです。つまり、市場の変化や機能の追加に合わせてFPGAはアップデートできるのです。実際にFPGA上で人工知能のアルゴリズムを実行している顧客もたくさんいます。AIのアルゴリズムは常に進化していますから、アルゴリズムの進化に合わせてFPGAを再プログラミングできるというのは大きなメリットです。プラットフォームの将来性を保証することが、FPGAを選択する大きな理由となります。
また、自分のアプリケーションに最適化したカスタムチップを作ろうとすると、それだけで最低でも1年半から2年はかかってしまいます。最初のアーキテクチャ概念から製品化までの2年の間に、顧客のニーズは簡単に変わってしまう可能性があります。一方でFPGAであれば必要なものだけをすぐにカスタマイズできます。もし2年間でニーズが変化しても、再プログラミングできます。また、電力効率やサイズも最適化されているので、維持コストの面ではASICなどのカスタムチップがFPGAよりも優れているわけではありません。
また、私が半導体業界に関わり始めてから20年以上の間に、フルカスタムチップにかかる費用は驚くほど増加しています。以前は簡単にカスタマイズできましたが、今は開発費やコストがかさんでしまいます。ラティスが開発するようなFPGAとカスタムチップで、もはやコストの差はほとんどありません。
Q:
ラティスの戦略およびマーケティング部門チーフオフィサーであるEsam Elashmawi氏と話をした時、Elashmawi氏は「ラティスはサーバー市場で成長し続けており、数年前はラティスの製品がサーバーに搭載されている割合は約20%だったのが、今は80%程度にまで向上している」と述べていました。なぜラティスのシリコンがエンタープライズ・マザーボード市場で重要な役割を果たすようになったのでしょうか?
アンダーソンCEO:
いい質問ですね。これは間違いなくラティスにとって大きな成長分野です。2~3年前はラティス製のシリコンを搭載したサーバーは全体のおよそ約20%程度でした。数年前までは、ラティスの製品は、サーバーの電源管理や基本的な制御機能など、より基本的なタスクを担っていました。しかし現在では、最新世代の量産サーバーの80%以上に少なくとも1つのラティス製半導体が搭載されており、サーバー・プラットフォームの制御と管理を行っています。さらに、セキュリティ機能も強化されています。
昨今、セキュリティへの関心が高まっているため、ラティスではプラットフォーム・セキュリティやプラットフォーム・レジリエンスと呼ばれる機能を備えた製品を用意しています。例えばサーバーが起動する際に、ラティスのチップがハードウェア自体が破損していないか、ファームウェアのバージョンを確認して異常がないかをチェックします。ラティス製チップ内のメモリにファームウェアのコピーを保存することで、ファームウェアに異常があった場合はそのコピーと交換することで修復をします。
また、ラティスはIntelとAMDの両方のプラットフォームをサポートしており、ARMベースのサーバーもサポートしています。製品がさまざまなプラットフォームに対応し、特定のプラットフォームや環境に依存しないことは非常に重要で、顧客にとっての利点でもあります。
一般的なサーバー・プラットフォームでは、複数のラティス製チップが使われています。そうなると、出荷されるサーバーの数よりも多くのチップを市場に出荷することになります。また、ラティス製品の平均販売価格も上昇しています。これはラティスがサーバー市場にさらなる価値を提供し続けているからです。
Q:
FPGAの問題の1つは開発が難しいという点です。FPGAを使う前にはハードウェア言語のコーディングを学ぶ必要があります。ソフトウェアは理解できてもハードウェアについての経験はないという人たちにとって開発を容易にするために、ラティスは具体的に何をしているのでしょうか?
アンダーソンCEO:
これはラティス氏のモットーの1つで、私たちはラティスの製品をできるだけ簡単に使ってもらいたいと考えています。ここ数年の間に、FPGAに精通している人だけでなく、これまで一度もFPGAを使ったことがない開発者にとって使いやすくするために、本当に多くの改善を行ってきました。
これまでの3年間で行ってきた大きな取り組みの1つが「Application Specific Software Solution Stacks」というものです。これは、あらかじめ構築されたツールやライブラリを使うことで顧客が複雑なFPGAを簡単に使うことができるようにするものです。この取り組みは新規顧客がより簡単かつ迅速に市場へ参入することを可能にするだけでなく、FPGAに精通している顧客が競合他社の製品からラティスの製品に乗り換えるのを後押しします。
ラティスは他にも、人工知能に特化したソフトウェアスタックである「SenseAI」やエンベデッドビジョン開発キット、ハードウェア・セキュリティに関するものや工場のオートメーションに関するものなども発表しています。これらはいずれも、顧客がそのまま使うことができる構築済みのソリューションですが、カスタマイズも可能です。今後もさらなるソフトウェアスタックを用意し、より幅広いポートフォリオを構築したいと考えています。
Q:
それはつまり、FPGAを管理するコンパイル済みのライブラリがあり、そのライブラリと関数を呼び出すだけで自動的に処理してくれるようなものということでしょうか
アンダーソンCEO:
それはいい例えですね。
Q:
AMDで働いていた頃のいい思い出や特別な瞬間はありますか?
アンダーソンCEO:
もう3年も経っているので記憶があいまいになってきましたよ。まず、AMDでの生活を振り返ると、本当に楽しかったのは人との思い出です。AMDで一緒に働いていた多くの人とは今も連絡を取っていて、本当にいい友人だと思います。革新的かつクリエイティブで、素晴らしい人たちでした。AMDはいつも気骨のあるチームでした。私はAMDのそういうところが好きでしたし、本当に決断力のある人たちが好きでした。いつも懐かしく思い出します。
私がAMDに在籍していた時に最も思い出深いんものといえば、最初のRyzenの発売でした。ZenアーキテクチャのCPUをまずデスクトップに投入し、その後ノートPCにも投入しました。チームがそのために費やした仕事の量や努力、そしてRyzenを市場に投入するという興奮と期待は本当にエキサイティングなものでした。
また、AMD時代に関わった最後のイベントが第2世代Threadripperの発表でした。私はThreadripperに特別な思い入れがあったので、あのイベントは大好きでした。第2世代Threadripperの製品ラインでは、私たちはこれまでのルールをすべて捨てて、可能なことはすべてこなしていました。
でもラティスでの3年間も素晴らしく、楽しかったです。私はこの3年間で製品ポートフォリオを再構築し、大きな進歩を遂げたように感じています。しかし、今後数年の間に私たちがどこへ向かっていくのか、私はずっと楽しみにしています。私はラティスがどこに向かっているのかについてワクワクしています。
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in ハードウェア, Posted by log1i_yk
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