Ryzenで復活の狼煙を上げたAMDのリサ・スーCEOにインタビュー
日本でも2017年3月3日午前0時に新CPU「Ryzen 7」が発売され、IntelのハイエンドCPUを駆逐しかねないほどの圧倒的なコストパフォーマンスに、AMD完全復活の期待が高まっています。2017年はRyzenだけでなく新GPUアーキテクチャ「Vega」やサーバー向けの32コア/64スレッドのCPU「Naples」などのリリースを控えるAMDのリサ・スーCEOに、AnandTechが単独インタビューし、いろいろ聞いています。
Making AMD Tick: A Very Zen Interview with Dr. Lisa Su, CEO
http://www.anandtech.com/show/11177/making-amd-tick-a-very-zen-interview-with-dr-lisa-su-ceo
台湾生まれのAMDのリサ・スーCEOは、MITで電気工学の博士号を取得。テキサス・インスツルメンツ、IBM、Freescale Semiconductorを経て、AMDでは2012年からCEOを務めています。半導体業界では数少ない博士号を持つ女性であるスーCEOは、注目すべきトップレベルの人物として業界で知られる人物です。
AnandTech:
あなたもAMDも公式に「ハイパフォーマンスPC」市場に復帰することがAMDにとって必要だと明言しています。復帰にあたって多くのハードルが依然として残っていると思いますが、「Zen」マイクロアーキテクチャは残りのロードマップでどのような位置づけですか?
リサ・スーCEO(以下、「スーCEO」と表記):
Zenをデスクトップ向けCPUでローンチするのはとても大きなハードルだったと思います。私たちが進む上で多くのやることがあると言われていましたが、あなたは私が今、幸せだと想像できるでしょう。まだ、最新の製品(Ryzen 7)についてのみであり、この後、GPUの「Vega」、サーバーCPUの「Naples」、ノート用CPU、そして2018年と続いていきます。
AnandTech:
3、4年、場合によっては5年から7年もかけて技術開発することがあると聞きます。AMDの技術者はどれくらい先を見越して開発していますか?
スーCEO:
少なくとも3年から4年です。CPU、GPU製品について言えば、2020年までのロードマップを持っています。もちろんこれは絶対的なものではなく、市場の動向を見て必要に応じて調整されます。
AnandTech:
多くのアナリストはジム・ケラー(注:かつてAMD在籍時に「Athlon(K7)」を開発した天才エンジニア。AMDに復帰後は「Zen」の開発を主導。現在はAMDを離れテスラに在籍)を再びAMDに呼び戻したのは正しい判断だったと考えています。新しいCPUチームはどの時点からフルスロットルで開発が進んだのですか?
スーCEO:
マーク・ペーパーマスター(注:元Appleの現AMD上席副社長兼CTO)はCPU/GPUのロードマップで素晴らしいビジョンを持っていました。そこで、適切な場所にお金を投じるべく、ジム・ケラーとラジャ・コドゥリ(注:「Poraris」アーキテクチャを開発する責任者)を雇い入れました。多くのプロジェクトを中止しましたが、将来に投資したのです。これは賢明な判断でした。ケラーはCPUに関して素晴らしい開発者で、AMDが持つビジョンの一部でした。
AnandTech:
Bulldozerマイクロアーキテクチャでは適切なパフォーマンスを維持するための最適化にMicrosoftと協力が必要でした。Zenにはそのような問題はありませんが、Windowsでのパフォーマンスを上げるためにMicrosoftとやりとりはありましたか?例えば、XFR(Ryzenが持つ冷却に応じて自動的にオーバークロックする機能)とか?
スーCEO:
Zenは全体としてはかなり伝統的なx86アーキテクチャですが、最適化作業は必要です。ちょっと事情が異なる点は、最適化作業の多くが開発者サイドにあるということです。MicrosoftのコードがZenアーキテクチャでボトルネックになるところについて理解できるように協力しています。多くのアプリが最適化されるのを見るに、作業はうまくいっていると思います。
AnandTech:
同時マルチスレッディング(SMT)をサポートすることは重要でしたか?
スーCEO:
とても重要だと思います。本当に複雑でしたが……。AMDの目標はとてもバランスの良いアーキテクチャを作ることでした。高いシングルスレッド性能を望んでいましたが、それにはSMTが重要でした。私たちはZenでは何一つとして言い訳したくなかった。高いシングルスレッド性能と多くのCPUコアにSMT。私たちは野心的でありたいと願っていたのです。
AnandTech:
数年前のAMDの時価総額は保有資産額を下回る状況でした。それが今では1株10ドル以上で取引されています。過去12カ月のAMD株上昇に対するあなたの考えは?
スーCEO:
株式市場を予想することはできないので、予想はしません。市場には市場の考えがありますからね。しかし、私が言えることは、とても大切な土台がいくつかあるということ。AMDはPC、クラウド、インフラ、ゲームなどに市場があります。いずれも成長中の良い市場です。野心的で競争力のあるロードマップを実現できるのか市場は懐疑的で、彼らを納得させなければいけませんでした。過去9カ月でPolarisの販売でグラフィック市場でシェアを獲得できることを証明できました。Ryzenによって高性能CPU市場を獲れると確信しています。重要なことは、私たちの顧客(マザーボードベンダーのこと)も確信していること。Ryzenのサンプルを提供すると、「これは本物だ!」と確信して、スケジュールを早め始めました。人々が信じられる証拠が必要だと思います。それさえ実行すれば、AMDは大丈夫です。
AnandTech:
競合他社(Intel)が新しいプロセッサノード、新しいアーキテクチャのリリース戦略を変更すると発表しました。AMDはZenで、最初にデスクトップCPU、次にサーバーCPU、最後にモバイルSoCと出す予定で、あなたはすでにZen+についてのロードマップについても言及していますね。「デスクトップ→サーバー→モバイル」の順にリリースするモデルがAMDにとって最良の方法なのですか?
スーCEO:
必ずしもそうではありません。あくまでこの世代においては意味をなすと思います。デスクトップとサーバーは高い周波数・高いパフォーマンスという非常に似たチューニングが施されますが、デスクトップはよりシンプルでエコシステムもシンプルです。サーバーには実行するべき複雑なテストセットアップがあり、いくつかのコンテキストが与えられます。私たちはハイエンド市場に製品を置きたいと望んできました。技術戦略以上に市場戦略の面があります。
AnandTech:
AMDは半導体設計のパートナーシップを持ち、何百万台ものコンソール(ゲーム機のこと)を想定するセミカスタムビジネスを展開しています。現世代のプラットフォームでのコンソール向けカスタムシリコンは低消費電力な「Cat」コアを使っています。すでにZenのx86コアを持っていますが、将来的にコンソールでZenを見ることはできますか?
スーCEO:
ご存じの通り、コンソール向けの製品についてパートナー企業が何をしようとしているかは秘密です。ただ、ある時期が来れば、コンソールを含むセミカスタムにZenが登場すると想定しています。
AnandTech:
AMDは重要なGPU知財を持つ点でx86ベンダーにとって独特の立場にあります。例えば、ASUSのROGブランドのような形で、CPUとGPUで共通のブランド名を使うことは考えていますか?もしくは考えたことがありますか?
スーCEO:
私が言いたいことは「CPUとGPUを同じように愛している」ということ。これについては共感してもらえますよね?ただ、市場は少し異なります。AMDのGPUはIntelのCPUで動作する必要があります。同じように私たちのCPUはNVIDIAのGPUで動作する必要があります。そのため、互換性と明確性を維持しなければなりません。
2017年後半にはVegaをローンチします。RyzenとVegaでCPU・GPUともに高い性能を持つ優れたシステムを作りたいと考えています。共通ブランディングについては分かりませんが、「A(AMD)プラスA(AMD)で素晴らしいシステムが構築できる」ということは、私たちがやるべきことです。
AnandTech:
Ryzenは、競合他社(Intel)の製品に対して高い競争力を持ち、安価な選択肢になります。これはAMDの特徴ですか?
スーCEO:
私たちはRyzenは何はさておきハイエンド市場に投入したいと考えています。では、より安価なメインストリームはどうでしょうか?技術的な面ももちろんですが、ハイエンドのRyzen 7から市場に出すのはブランド戦略が理由でもあります。もちろんAMDは何百万個ものCPUを売りたいと考えています。8コア未満のCPUの販売も行いますが、まずは8コア/16スレッドのRyzen 7から投入することになったということです。
AnandTech:
デスクトップPCの売上げが減少しつつづけていますが、ゲームPCの市場は増大しています。Ryzenがゲーマーに向けて販売されることは疑いのないところですが、消費者はどのようにRyzenにリーチすると考えていますか?
スーCEO:
PC市場は非常に成功した、ホットなマーケットの一つです。私たちはゲーマーを非常に重要な要素と考えて取り組んでいます。Ryzenは素晴らしいゲーム用CPUだと思っています。しかし、Ryzenはゲームだけでなく、ゲーム以外でも優秀な性能を持ちます。あるゲームでは8コアのうち4コアしか使わないかもしれませんが、動画編集やストリーミングではもっと多くのことができます。私たちが取り組んでいることは、今日のゲーマーだけのためではなく、さらに先のユーザーが考えるかもしれないことなのです。
AnandTech:
Bristol Ridge(注:AMDの第7世代APU。BTO向けがメインで、APU単体ではほとんど販売されていない)が消費者に提供されるかコメントできますか?
スーCEO:
良い質問です。答えは「イエス」です。AM4プラットフォームではCPUだけでなくAPUを載せることもできます。Ryzen 7で足場固めが第一ですが、AM4プラットフォームは非常に長い寿命と幅広い対応を持つ戦略なので、「イエス」と答えます。リリースの正確な時期はまだ確定していません。
AnandTech:
ハイエンド市場ではRyzen 7はIntelのハイエンドデスクトップと競合しています。しかし、Intelが24/40レーンのネイティブPCI-Expressを持つのに対して、Ryzenは16レーンしか持ちません。これにより、フル帯域のデュアルGPUやNVMeの利用が妨げられています。16レーンのPCI-Express3.0は正しい選択でしたか?
スーCEO:
私は正しい選択だったと思います。ワークステーションに入るPCの分布を見たとき、ボリュームゾーンはそこだと考えています。私たちの決定では、パフォーマンスとパワーの相対的にバランスが良いと考えていますが、興味深い指摘です。
AnandTech:
競合他社(Intel)は「Core」と「Xeon」の両方で成功しました。後者にはECCとvProなどプロフェッショナルな機能が搭載されています。発表では、Pro向けのCPUラインを持っているとのことですが、AMD内部で議論はしていますか?
スーCEO:
Naplesはシングルソケットだけでなくデュアルソケットを含むサーバースペースで飛躍すると予想しています。まずコンシューマー向けに取り組んでから、それからデータセンターに向かいます。その後、次の何かを見るでしょう。
AnandTech:
ブランド名は「Opteron」になりますか?
スーCEO:
ローンチが近づくにつれてサーバーのブランディングについて話します。市場に出たときに「Naples」と呼ばれることはありません。
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