サイエンス

AIによる創薬は実際どこまで進んでいるのか?


AIは膨大な数の化合物から薬になりそうな候補を探し、創薬にかかる時間や費用を大幅に減らす技術として期待されています。しかし、AIを使った研究成果は相次いでいるものの実際に患者へ届く薬の開発につながっているのかは判然としません。AI創薬に詳しい研究者らがこれまでのAI創薬の進展を検討しています。

Artificial intelligence in drug discovery — what it is, where we stand and the path forward | Nature Reviews Drug Discovery
https://www.nature.com/articles/s41573-026-01496-2

カリファ大学やケンブリッジ大学などに所属するアンドレアス・ベンダー氏らは、AI創薬の現状と課題をまとめた論考を2026年8月7日付でNature Reviews Drug Discoveryに発表しています。この論考で取り上げられた2024年の分析では、AI創薬企業が開発している薬の大半が細胞や動物で効果や安全性を調べる前臨床段階にありました。人を対象とする臨床試験に進んだものは限られ、少人数で安全性を調べる第I相や、患者で有効性と投与量を調べる第II相は数十件、より多くの患者で有効性と安全性を確かめる第III相はごくわずかでした。

ベンダー氏らは、AIが性能試験で高い成績を収めている一方で「患者にとって安全で効果的な薬をより早く届けられた」と判断できる証拠は限られていると指摘しています。これはAIに効果がないという意味ではなく、臨床開発を改善しているかどうかを判断できるだけの証拠がまだないという意味です。ベンダー氏らが創薬の各段階で所要時間・失敗率・費用のいずれかを20%改善した場合の節約額を試算したところ、下のグラフに示されている通り第Ⅱ相の失敗率を下げた場合の効果が最大でした。第Ⅱ相は多様な患者で薬の有効性を初めて本格的に調べるため失敗が多く、費用もかさむためです。


ところがAIを使った低分子化合物の創薬研究は薬の候補を探す前臨床段階に集中しています。前臨床段階にはAIへ与えやすいデータが多いためですが、ベンダー氏らは「必要な答えがありそうな場所ではなくデータが豊富で調べやすい場所ばかりを探している状態」だと指摘しました。

薬の候補を見つけることと実際に薬を作ることにも大きな隔たりがあります。特定のタンパク質などに結合する「リガンド」はデータベースに100万種類以上登録されていますが、市販されている低分子医薬品は1000種類程度にとどまります。薬として使うには標的に作用するだけでなく人体で十分な効果を発揮し、安全性など多くの条件を満たす必要があります。

また、AIへ与える生物学的データも遺伝的背景や病気の重さなどの条件によって結果が変わります。下のグラフでは人間の肝臓を模したオルガノイドで測った細胞毒性を横軸に、患者で判明した薬物性肝障害の危険度を縦軸に置いていますが、臨床での危険度が異なる薬の点が横方向に重なっているため、オルガノイドの測定結果だけでは実際の肝障害リスクを十分に予測できないということがわかります。ベンダー氏らは、臨床結果をうまく予測できないデータをAIへ大量に与えてもより良い判断にはつながらないと論じています。


薬になり得る低分子化合物は最大で10の60乗種類に上ると推定されており、既存のデータセットが網羅できるのはごく一部です。そのため、ある範囲の化合物で高い精度を示したAIが構造の異なる化合物を扱う次のプロジェクトでも同じ精度を保てるとは限りません。

下のグラフの横軸「Relative rank(相対順位)」はAIモデルが順位を付けた全化合物のうち上位から何割までを対象にしたかを表しており、縦軸「Recall(再現率)」は、実際に検出すべき化合物のうち、その範囲までに拾えた割合を表しています。2つの仮想AIモデル「Model 1」と「Model 2」は全体的な予測性能を表す「AUC」ではほぼ同等ですが、上位10%の化合物を選ぶ場合にModel 2が拾える候補はModel 1の2倍です。反対に、毒性が疑われる化合物を除外する場合はModel 1の方が見逃しを約3分の1に抑えられ、使い道によって優劣が逆転することが分かります。


ベンダー氏らは、「手元にあるデータで何ができるか」から考えるのではなく、「臨床試験の成功率を上げるには何を予測すべきか」を先に定め、その目的に合ったデータを集める必要があると提言しています。また、AIの性能は、実際に利用する場面に近い条件で未知のデータをどこまで正確に予測できるかによって検証すべきだと述べました。

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in AI,   サイエンス, Posted by log1b_ok

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