生き物

野鳥のためにエサ台を設置しても「不健全な依存状態」には陥らないとの研究結果

by WC Photography

野鳥のエサが減る冬の時期には、庭やベランダにエサ台を置いてそこを訪れる鳥の姿を見て楽しむという人もいるはず。一方で、野生動物へエサをやることには「動物が不健全な依存状態に陥ってしまう」と懸念する声もあります。オレゴン州立大学の研究チームが発表した新たな論文では、「冬の間に野鳥のエサ台を設置しても、不健全な依存には陥らない」との結果が示されました。

Experimentally induced flight costs do not lead to increased reliance on supplemental food in winter by a small songbird
(PDFファイル)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/jav.02782

Don’t worry, birds won’t become dependent on you feeding them, OSU study suggests | Oregon State University
https://today.oregonstate.edu/news/don%E2%80%99t-worry-birds-won%E2%80%99t-become-dependent-you-feeding-them-osu-study-suggests

野生動物にエサをやることを楽しんでいる人は世界中に存在し、アメリカではエサやエサ台、その他の付属品が40億ドル(約4400億円)もの産業になっているとのこと。その一方で、野生動物が人間からエサをもらうことを学習してしまい、不健全な依存状態に陥ってしまうことが懸念されています。2021年に発表された論文では、インドネシアのスラウェシ島に生息するムーアモンキーの群れにおいて、人間と接する時は個体間のポジティブな相互作用が減ってしまうことが指摘されています。

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by Ondrej

オレゴン州立大学の動物生態学者であるジム・リヴァース氏は、「野鳥にエサをやることのマイナス面としては、病気の伝染を促進したり、野鳥の社会を作り替えてしまったり、移動のルートを変えてしまったりといったものが挙げられます。中には、エサやりが野鳥のクチバシの構造を変化させるかもしれない証拠さえあります。一方でプラス面としては、野鳥の体調や冬季の生存率、生殖能力の向上といったものがあります」と述べ、エサやりにはメリットもデメリットも考えられると指摘しています。

しかし、野鳥が人間のエサに依存してしまうのかどうかについては、それほど詳しい調査が行われていないとのこと。そこでリヴァース氏らの研究チームは、アメリカ大陸北部に分布するアメリカコガラを対象にした実験を行うことにしました。

研究チームは67羽のアメリカコガラを3つのグループに分け、風切羽のクリッピング(切除)を「両翼から4枚ずつ切除する(重いクリッピング)」「両翼から2枚ずつ切除する(軽いクリッピング)」「切除しない(クリッピングなしの対照群)」の3段階で行いました。クリッピングを行った鳥は飛ぶ際のエネルギーコストが増すため、今回の実験では「重いクリッピング>軽いクリッピング>対照群」の順で空を飛びにくいことになります。

by Sunny

その後、67羽のアメリカコガラはRFIDチップでタグ付けされた状態で放されました。そして研究チームは、実験対象となったアメリカコガラが生息する川岸に、3.2kmにわたって21個のエサ台を設置。このエサ台にはカードリーダーが取りつけられており、RFIDチップでタグ付けされたアメリカコガラの訪問を検出できる仕組みとなっていました。

アメリカコガラは体重が軽く、冬の間に頻繁にエサ台を出入りすることが知られており、1回の訪問でエサ台から持ち去る種は通常1個だとのこと。リヴァース氏は、「エネルギー面での課題がどのように『冬季のエサ台の利用』という行動面での変化を引き起こすのかを評価する上で、アメリカコガラは理想的な種です」とコメントしています。


冬季のアメリカコガラがエサ台を利用する頻度を分析した結果、クリッピングで飛ぶ際のエネルギーコストが上昇した個体において、特にエサ台への訪問率が上昇するといった変化は見られないことが判明。むしろ、クリッピングした直後は捕食者に見つかることを懸念して大人しくしていたのか、エサ台への訪問率が下がったそうです。

クリッピングから数週間が経過すると、対照群のアメリカコガラと同程度にエサ台を訪れるようになりました。それでも、クリッピングされていない個体とクリッピングされた個体では、ほとんどエサ台の訪問率に差がなかったと研究チームは述べています。

by Colin Durfee

リヴァース氏は今回の実験結果について、対象となったアメリカコガラはエサ台以外にもさまざまな場所でエサを入手可能であり、クリッピングされた個体も飛ぶ際のエネルギーコスト増大を自然のエサでまかなえたことを示唆していると主張。「私たちの研究では、アメリカコガラが最もエサ台の恩恵を受けやる可能性が高い時期でも、エサ台への訪問率や人間のエサへの依存を増加させなかったことは明確です」とリヴァース氏は述べ、エサ台は不健全な依存を引き起こさなかったと結論づけました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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