人間による餌付けが野生動物のコミュニティから「社会的なつながり」を奪ってしまうという研究結果
by Ondrej
人間の生活圏が広がるにつれて野生動物との遭遇も頻繁になっており、中には野生動物に対して餌付けを行う人もいます。オンラインの学術雑誌であるNature Scientific Reportsに掲載された新たな論文では、「人間の餌付けによって野生動物のコミュニティに悪影響を及ぼす」と報告されました。
Interactions with humans are jointly influenced by life history stage and social network factors and reduce group cohesion in moor macaques ( Macaca maura ) | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-019-56288-z
Feeding wildlife can disrupt animal social structures -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2020/03/200310114717.htm
野生動物の中でも、特にサルの多くは人間による餌付けをよく理解しており、観光地の近くでは道路のすぐそばにサルが集まり、人間がエサをくれるのを待っている光景も見られます。インドネシアのスラウェシ島にのみ生息するムーアモンキーもその一種です。
しかし、今回の論文の筆頭著者でありジョージア大学の博士課程に在籍するKristen Morrow氏は、「人間からごほうびのエサが与えられることがあるのは確かですが、これは危険な行動なので、野生のサルは一般的に人間に対して慎重です」と指摘。そこでMorrow氏らの研究チームは、エサをもらうために人間へと近づくサルたちの行動が、サルの社会集団に与える影響について調査することにしました。
ムーアモンキーは森林を通る道の周囲に集まり、道を走る車の運転手が投げ与えるエサをもらおうとします。研究チームは2016年8月から2017年1月にかけて、合計1200頭ものムーアモンキーを対象に、各個体の位置情報や行動についてのデータを収集しました。データが収集された時間は1週間当たり6日、1日当たり6時間であり、追跡が行われたのは合計で565時間に及ぶとのこと。
データを分析したところ、人間からパンやフルーツ、ポテトチップスなどのエサをもらおうとするムーアモンキーはオスが多かったそうです。また、群れの内でも大きな影響力を持つムーアモンキーは、より頻繁にエサをもらいに行っていることも判明しました。
合計して、人間からのエサを期待するムーアモンキーが道路のそばに近づく時間は全体の20%ほどであり、残りの80%ほどは道路から離れた森林で過ごしていたとのこと。確かに人間に近づくことはエサをもらえる可能性を高めましたが、道路のそばにいるムーアモンキーは森林にいる時と異なる行動をとることもわかったとのこと。「サルがエサをもらおうとして道路のそばにいる時は、個体間の社会的なつながりが少ないことがわかりました。この変化は、お互いの毛づくろいや他の個体の近くでくつろぐといった、ポジティブな相互作用の機会が減少したことを示します」と、Morrow氏は述べています。
ムーアモンキーにとって、群れとしての社会的なつながりは健康・寿命・生殖の成功・子どもの生存率向上といったさまざまな面で重要な役割を果たします。しかし、人間の餌付けによってムーアモンキーの行動が変化した結果、これらの有益な社会的つながりが損なわれ、ムーアモンキーの社会構造を根本的に変えてしまう可能性があるとMorrow氏は指摘しました。
by Rajesh_India
サンディエゴ州立大学の人類学教授であるErin Riley氏は、「私たちの研究により、ムーアモンキーは食料を受け取ることの利点が、人や車の近くにいることのリスクを上回ると判断していることが示唆されました」とコメント。ムーアモンキーの保全活動において、人間たちが餌付けのデメリットを理解して、行動を変える必要があるかもしれないと指摘。
Morrow氏は「この研究は、ムーアモンキーのコミュニティと人間の相互作用が及ぼす潜在的な影響について教えてくれましたが、私たちはこれらの行動が野生動物に与える影響を理解するため、さらに研究を行う必要があります」と述べ、野生動物を効果的に保全するためには人間との相互作用が及ぼす影響について理解することが重要だと主張しました。
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