サイエンス

サルの研究で判明した「男女の友情」のメリットとは?


アフリカのサバンナや山林に生息する霊長類・ヒヒの群れを35年間にわたり観察した結果から、「メスのヒヒと強い友情を育むオスのヒヒは寿命が長い」ことが判明したとの論文が発表されました。人間と同様に、複雑な階級社会を持つヒヒについての研究により、人間が進化してきた中で社会的な絆がどのような役割を果たしてきたのかについての理解が進むと期待されています。

Social bonds, social status and survival in wild baboons: a tale of two sexes | Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rstb.2019.0621

Male baboons with female friends live longer: Strong opposite-sex bonds linked to better chances of survival -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2020/09/200921083722.htm

Why Male Baboons Benefit From Female Friends - The New York Times
https://www.nytimes.com/2020/10/01/science/baboons-males-friendship.html

人間の社会的関係と死亡リスクを調べた多くの研究により、社会的関係が豊かな人ほど長生きする可能性が高いことが明らかになっています。例えば、2010年に発表された研究では、「死亡リスクに対する社会的関係の影響は、肥満や運動不足などのリスク要因を上回っている」ことが示されました。


他者との関係が深いほど長生きするという傾向は、ヒヒマーモットウサギイルカなど群れをなす多くの生き物に共通しています。

しかし、社会的関係と動物の寿命をテーマにした研究はメスを対象としたものが多く、社会的関係がオスの寿命にどのようなメリットを与えるかについては、これまでほとんど分かっていませんでした。なぜなら、動物のオスはしばしば群れを離れて生活するため、群れの中にいるオスがいつ生まれたのかや、群れを去ったオスがいつ死んだかなどを確かめることは困難だからです。


そこで、アメリカ・テキサス大学サンアントニオ校の自然人類学者であるフェルナンド・カンポス氏らの研究チームは、途切れや抜けが多いデータから死亡率を推定するために近年開発されたベイズ推定法という手法に着目。ベイズ推定法を用いて、1984年1月~2018年12月までの間に記録された、成熟したオスのヒヒ277頭とメス265頭、合計542頭の観察データをもとに、ヒヒのオスとメスの「社会的な絆」がオスの寿命に与える影響を調べました。

なお、社会的な絆の算定には、ヒヒがお互いの毛繕い(グルーミング)をする頻度のデータが用いられました。ヒヒのグルーミングが持つ意味について、論文の共著者であるスーザン・アルバーツ氏は「ヒヒがお互いの毛皮をなでてダニなどの寄生虫やフケを取るグルーミングは、衛生状態を改善するだけでなくストレス解消や社会的な絆を深め合うための行為でもあります」と話しています。

by sockmister

ヒヒのオスとメスの間にある「社会的な絆」と、「オスのヒヒの寿命」の関係をベイズ推定法で調べた結果、「メスと強い社会的絆を結んだオスは、死亡リスクが約28%減少する」ということが分かりました。

研究チームは、論文の中で「方法論の進歩により、野生の非ヒト霊長類におけるオスとメスの社会的結合が、どのように生存と関係しているのかが初めて分かるようになりました。これにより得られた今回の研究結果は、非ヒト霊長類の研究を通じて、ヒトの進化や寿命などについての知見を増やすことに貢献するでしょう」と述べています。

今回の研究により、「メスとの社会的な絆が深いオスは寿命が長い」ことが分かりましたが、そのメカニズムについてはまだ分かっていないことも多く残されています。カンポス氏によると、トップ争いに敗れてボスの座を追われたオスでも、群れのメスとの絆が深い場合はしばらく群れにとどまれることが分かっているとのこと。また、寄生虫を取り除くグルーミング自体にも健康上のメリットがあると考えられます。

一方、カンポス氏は「健康な個体は、社会的な絆を結ぶことにより多くのエネルギーを割くことが可能でしょう」と述べて、「絆を深めたから長生き」なのではなく「長生きできるような個体は社会的絆を深めることが可能」だという見方もできると指摘しました。

こうした点を踏まえて、カンポス氏は「私たちはまだ、友情が長生きをもたらすメカニズムを真に理解したとは言えません」と結論付けて、今後の研究に意欲を示しました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1l_ks

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